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彼女のその言葉に、完全に思考が停止した。
だ、だいっ、大好きって、ど、どういう……? どうしよう。
①泣く ②笑う ③微笑む
ーここでまさかの①を選びますー
よくわからないけれど、瞳から涙が溢れてきた。
それはもう滝のような勢いで、自分では止めることも出来ず、雪乃さんが困っているのがわかるのに、涙が溢れ出てきて仕方がなかった。
嘘だよね? 冗談だよね? それか、俺の聞き間違えか、勘違いか。
でもはっきりと俺のことが大好きだと言ってくれたのに、それを勘違いとはどういうことなのだろう。
「ちょっ、泣かなくたって良いじゃないの。私はあんたの君主なんだから、そりゃあ、こんなご褒美をもらえたら、喜ぶ気持ちはわかるけどね」
やっと考えが回ってきて、涙を堪え拭うけれど、まだ受け入れるには厳しかった。
先程の笑顔が焼き付いて消えないし、脳内で大好きという言葉も無限ループ状態である。
「クラスごとっていう縛りがなかったら、私もあんたと同じ班になれたのにね。あぁでも、学校ではあんまり、一緒にいたくないかな?」
雪乃さんと同じ班になるってことは、一日中彼女と一緒にいるということ。
こんな綺麗な人と同じ部屋だなんて、眠れるはずがないじゃないか。コノちゃんや祭さんなら大丈夫だとか、そういうことではないのだけれど。
しかしそこまで言うのに、学校ではすれ違っても声も掛けてくれないのは、やはり周りを気にしてだろうか。
そう思う気持ちもあったが、学校では一緒にいたくないと、そう言われては傷付くというもの。どうしよう。
①泣く ②笑う ③微笑む
ー今度は③を選びますよー
俺と一緒にいるところを見られて、周りからどう思われるかなんて知れたことだもんね。
それに雪乃さんくらいの美少女だったら、必然的にクラスの中心になってしまうことだろうから、尚更そうだろう。
傷付くけれど、口に出すほどでもないので、俺は微笑んで誤魔化した。
「本当はあんたに迷惑を掛けたくないし、出来るだけ話し掛けないようにしようと思ったんだけど、……春香が会いたいって言うものだから。だから私も、春香の我が儘ってことにして、自分の我が儘も通しちゃおうかなって思ったの」
修学旅行という特別な日の熱に、浮かされているだけなのだろう。
きっとそうなのだろう。そう思わなければ、雪乃さんが顔を赤くさせている意味も、この言葉の意味も、勘違いしてしまいそうだから。
「だってあんたは優しいから! 何をしても許してくれるような気がして、私じゃ不釣り合いかななんて、珍しく弱気になっちゃったりして。だけど裏切るはずがないって、あんたは言ってくれたから、少しの我が儘は許してくれるのかな、なんて」
少しずつ声が小さくなっていって、最終的には消え入りそうで、聞き取ることなんて出来ないほどになっていた。
しかし聞き返すこともしづらい。どうしよう。
①聞き返す ②聞こえない ③聞かない ④聞く
ーここはきちんと必ず④を選んであげて下さいー
大切なのは、その内容ではないのだ。
言葉になっているかなっていないか、それさえ曖昧なところでも、雪乃さんは話を聞いてほしいのだろう。
それに俺だって、雪乃さんと一緒にいられるだけで、こんなにも幸せなのだ。
だったらそのままいたら良いじゃないか。
「ごめんね。こんな話、……するつもりじゃなかったのよ。纏まらないし、自分でも何言ってるかわかんないし、だけどこれだけはわかって。私はあんたのことが好きだけど、あんたに迷惑を掛けたいわけじゃないの。来年は同じクラスに、そう思わないでもないけど、だけど、嫌だって言うなら近付かないから」
俯いてしまったと思ったら、今度は顔を上げて、はっきりとそう言ってくれた。
好きとか言われちゃっているんだけど、これは告白だと思っても良いのだろうか?
雪乃さんは天然なところがあるから、無意識という可能性もないでもないけれど、このタイミングでそれはないだろう?
少し強引で勝手なところはあるけれど、周りをよく気遣っている彼女だ。
近付かないだなんて、そっちの方が嫌に決まっているのに。
ポジティブなのに、意外と自信を持たない彼女なりの、これが告白なのだろう。どうしよう。
①近付くな ②友だち ③恋人に
ーまずはここで②を選びましょうー
しかし俺にはコノちゃんという恋人がいるのだから、彼女の想いを受け止めることが出来ない。
友だちとして傍にいたいと思うけれど、それ以上を望んだら、コノちゃんを傷付けることになってしまうから。そして雪乃さんのことも、傷付けてしまうことになるから。
まさかこんな俺に、美少女を振る日がくるとは思わなかったな。
「迷惑なはずがないでしょう? これからもずっと、雪乃さんは俺の大切な友だちです。君主なのですから、もっと傲慢に、女王様らしく命令して下さらなければ困ります」
彼女を拒絶してしまうことがないように、俺は丁寧にそう言った。
もう近付かないくらいしてしまった方が、俺のためにも、コノちゃんのためにも、雪乃さんのためにも、良いことなのだろうとは思う。
けれど俺の中の、雪乃さんと一緒にいたいという気持ちが、大人しくはしてくれないようなのであった。
そんな俺の狡さにも気付かず、いつものように雪乃さんは笑う。
「ごうまんって、何よ、急に難しい言葉使わないで。よくわかんないけど、迷惑に思っていないというのは、一先ず安心かな。それじゃあ、学校でも話し掛けて良いの?」
「はい、もちろんです」
迷うこともなく、俺は笑顔でそう返すことが出来た。
だれも傷付けないで済むものだと、そう信じていたから。




