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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
修学旅行 二、三日目
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 呼び出しておいて来てくれないだなんて、そんなことはないはずだろう。

 一人でここに立たせておき、俺が視線に苦しむように仕向けるだなんて、そんなあまりに地味な嫌がらせがあるものか。

 不安になる必要はないと、自分を励ますのだけれど、九時を過ぎてもその人物が現れる様子はなかった。どうしよう。


 ①帰る ②逃げる ③もう少し待つ


 ーここでは①を選ぼうとするのですー


 もう九時を五分も過ぎたというのに、状況は相変わらずだったので、俺は部屋に戻ることにした。

 きっとただの悪戯だったのだ。あんなのものは、忘れてしまえば良い。

「遅くなってしまったわね。あんたなら待ってくれると思ったら、安心しちゃったのかしら」

 部屋へ歩き出そうとしていたところで、あの文章からは想像も出来なかった、絶世の美女が声を掛けてくれた。

 そういえばそうだった。勉強を見たとき、見覚えのある文字のはずだった。

 雪乃さんである。

「でも良かったわ。手紙を入れたとき、気付いていないみたいだったから、もしかしたら気付かないかも、って思ったもの」

 安心したように言って、だれもが見惚れる、美しい微笑みを向けてきた。

 しかし、見掛けたならそのときに声を掛けてくれれば良いものを、どうして呼び出しなんてしたのだろう。

 そもそも彼女はどうして、修学旅行中なんだから楽しみたいだろうに、こんな大切な時間に俺を呼び出したのだろう。

 差出人は判明したが、まだ謎は多かった。どうしよう。


 ①問う ②訊く ③聞く


 ーここは③を選択しますー


 何か話があるようなので、それを聞いてみるとしよう。

 そうしたら、きっと何かがわかるだろう。

 それでもわからなかったなら、直接、彼女に問ってみるとしようか。

「向こうに椅子と机があったと思うから、そこで話をするとしましょう」

 何の話をするのかも聞いていないのだが、指差した方向へ彼女は歩き出してしまう。

 髪が微妙に湿っているからか、光に当てられて、光り輝いているように見える。ほんのりと香るのは、シャンプーの香りと、なんだか甘い香り。

 その誘惑は絶大なもので、思考を遮断して、彼女に従ってしまうのであった。

「急に呼び出してごめんなさいね。実は、あんたに頼みがあるのよ」

 飲み物は自動販売機が置いてあるくらいで、注文などは出来ないようだが、オシャレなカフェのような雰囲気の空間があった。

 そこに並ぶ木製の白く丸いテーブル、テーブルと同じく木製で白く、背凭れのない高さのある直方体の椅子。

 迷わずに歩いてきて、一番入り口から離れた場所に、雪乃さんは座った。

 そうして、机を挟んだ正面の席に座るようにと促すのだ。どうしよう。


 ①座る ②逃げる ③立ち尽くす


 ーここは①を選びますー


 先生の見張りもないし、だからといって使用してはいけないと、そうも言われていない。

 だれもいない静かで落ち着いたこの場所で、頼みがあるとは、彼女は何を言うつもりなのだろうか。

「春香があんたと遊びたいって駄々を捏ねるの。私も秋桜兄も、最近は春香と遊んであげられないから、つまらないんでしょうね。それで、あんまり春香が言っているものだから、冬華まであんたと遊びたいって言い出してね。だからお願い、今度、私の家に来てもらえないかしら?」

 勉強を目的にではなくて、遊ぶことを目的に、彼女の家に行くことが出来るのだ。

 距離を一気に縮めるチャンスかもしれない……。

 雪乃さんの方から誘ってくれているのだし、春香ちゃんだって俺と遊びたいって言ってくれているようだし、ご指名なのだから歓迎さえされる可能性があるのだ。

 喜びに任せて了承してしまいそうだったが、罪悪感が俺の胸を苛む。

 今の俺には恋人もいるのに、そのようなことをしても良いのだろうか?

 純粋に雪乃さんの妹弟の面倒を見て、彼女の手伝いをするだけというのなら、心優しいで済まされたことだろう。

 しかし俺はその前に、雪乃さんとの距離を縮められると、そのことを喜んでしまった。

 それは浮気を意味しているのではないか。

「嫌なの?」

 迷っている俺を見て、不機嫌というよりは不安そうな顔で、雪乃さんは俺に訊ねてくる。

 そのような表情を向けられたら、嫌だなんて言える男はいないというのに。どうしよう。


 ①却下 ②了承 ③保留


 ーここで②を選んでしまうのですー


 あくまでも雪乃さんではなくて、春香ちゃんと遊ぶのだ。

 それに対して浮気だと責めるコノちゃんではないだろう、きっと。

「いいえ、嫌だなんてとんでもございません。いつでも、誘って下されば、すぐに向かいますよ。あの家にいると寂しくなくて、賑やかで楽しくて……大好きですから」

 罪悪感を拭い、そんな感覚は忘れてしまえるように、全力で笑顔を浮かべた。

 彼女の家の賑やかさが楽しくて、一人暮らしの俺にとってかなり魅力的で、大好きなのだということは間違えなく事実だ。

 下心よりも強く素直な魅力を感じられるからこそ、罪悪感を誤魔化しきることも出来るのだろう。

「あっ、だ……大好きって……なっ、なっ、何を言ってるのよ……。とにかくっ、そういうことだから!」

 ひどく動揺した様子で目を逸らすと、俯きがちに小さく何かを呟いているようだった。

 やがて頬を仄かに赤色に染めてまっすぐ俺の方を見てくる。

 俺が見惚れているうちに、なんだか覚悟を決めたように、一人頷いて作り物のように整った満面の笑みを浮かべた。

「私も、あんたのことが大好きよ」

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