サ
それに、当日にならないとわからない、テンションとか雰囲気だってあるからね。
「もう起きてんのか、早起きなんだな……」
意見を出し合って予定を組み立てた頃、漸く起きてきた祭さんは、まだ眠そうに大欠伸をしている。どうしよう。
①意見を求める ②食事へ行こう ③顔を洗ってらっしゃい
ーここも③でしょうー
やっと祭さんも起きてきたのだから、彼女にも意見を求めようかと思った。
もうそれなりに空腹だから、揃ったなら朝食へ向かおうかと思った。
しかし彼女は何度も欠伸を繰り返していて、かなり眠そうに見える。
「とりあえず、顔を洗ってきてはいかがですか?」
夜に何かが起こるようなことはなかったけれど、よくよく考えたら、女の子の寝顔を見てしまった。寝起きの姿も見てしまって、こんなのって許されるのだろうか。
当の祭さんは何も気にしていない様子で、洗面所へと向かったようだけれど、俺は動揺が収まらなかった。
そ、そうだよね……。不味い、どうしたら良いんだろう、わからない。
「どうしたの? もしかして祭さんに、ドキドキしちゃった?」
表情から読み取ったのか、いつもの悪戯っぽい笑顔ではなくて、不安そうな顔で訊ねてくる。
これだけ動揺しているんだもん。そりゃあ、コノちゃんには気付かれるよね。どうしよう。
①肯定 ②否定 ③黙る
ーここは①を選択しますー
寝起きの女子。そのことに気が付いて、動揺してしまったけれど、それは断じて祭さんだからというわけではない。
この言い方では祭さんに失礼なのはわかっているけれど、別に祭さんには何も思っていない。
コノちゃんが心配するようなことは全くない。
「う、うん」
だけれども、否定しては新たな疑惑を生むかと思い、正直に頷いた。
だってコノちゃん以外の女子に対して、動揺をしてしまったのは事実なのだから。
「そっか。そうだよね。コノより可愛いもんね」
励まさないと。俺のせいで、コノちゃんが俯いてしまっている。
それなのにどうして俺には何も出来ない? どうして笑顔にしてあげない?
「良いんだよ、別に。コノ、怒っているわけじゃないから。面倒な束縛彼女にはなりたくないし、なんでも知ってなきゃ治まらない重い彼女だけど、独占欲までは働かせないよ」
どうして彼女に、こんな冷めた笑みを浮かべさせているんだ。
俺のせいだというのに、俺のせいだからだろうか、何を言うことも出来ないし、それが辛くて堪らなかった。
「ん、どうかしたのか?」
「彼が、祭さんを見て、ドキドキしちゃったんだってさ」
こんなタイミングで戻ってきた祭さん。違和感に気が付いたのか、彼女が発した問いに返し、俺が何をする間もなくコノちゃんが答える。
怒っているわけじゃないとは言うけれど、傷付いてはいるんじゃないだろうか?
浮気というようなことはしていないし、俺だって怒られるような行為を取った覚えはないが、コノちゃんを不安にさせてしまったのは確か。
それならそれが俺の罪。どうしよう。
①祭さんに謝る ②コノちゃんに謝る ③山内さんに謝る
ーここは③を選ぶのですよー
その上、俺は罪を自ら認めたのだから、きちんと謝罪もしなければならない。
コノちゃんは不機嫌に嫌味を吐くし、その意味を捉えていないらしい祭さんは、真面目な返答をし続けるし。それによって、コノちゃんがショックを受けているようだしさ!
もう少し祭さんが凹むか、嫌味で返すだとかすれば、コノちゃんだってショックは受けなかっただろうに。
いやもちろん、素直なことは良いことだけど。
「なんか本当にごめんなさい」
この空気感を作った原因は、迷うこともなく俺にある。
元凶は俺なのだから、深く頭を下げて謝った。
謝る相手は祭さんであるべきなのだろうが、彼女でもコノちゃんでもない。山内さんだ。
彼に至っては、ただこの気まずさに巻き込まれた完璧なる被害者であり、完膚なきまでに心にダメージを負っているように見えるところが痛々しい。
どうやら同じ部屋で見ていただけだが、彼には辛い現場だったらしい。今の今まで友だちとして、三人で話をしていたのだから尚更かな。
そんな彼だから、俺は彼に謝って、深く長く頭を下げ続けたのだ。
「今度は山内さんに浮気するの? やっぱり、この修学旅行の目的は、三人を同時に……きゃぁっ! なんてね。朝ご飯に行くとしましょうよ」
これは、コノちゃんのテンションとして、受け流してしまっても良いのだろうか?
本当はこんな言い方をしているけれど、コノちゃんは一言、謝って欲しいのかもしれない。不安になりやすい彼女だから、言葉にして特別を伝えなくちゃいけないと、そういうことなのかもしれない。
ここで何も言わなければ、これまで好感度を上げてきたのに、バッドエンドへ走ってしまう。必須イベントを逃してしまう。
ゲーム的な感性を振り払え! ゲームじゃなくて、リアルなんだ。
本当に傷付く人がいるんだ……。どうしよう。
①明るく ②暗く ③黙る
ーここでは①を選びたいですが、今ルートの場合は選択不可選択肢なようですー
黙ってしまうことしか出来なかった。
何を言ったらだれも傷付けないかなんて、わからないから。
本来ならば、彼女を傷付けないようにしなければいけないのに、だれも傷付けないようにしようと、思ってしまったから。
だからコノちゃんの笑顔が偽物だと知っているのに、俺も偽物の笑顔を重ねて、朝食を食べに向かうことしか出来ないのであった。
山内さんにも祭さんにも、すごく悪いことをしてしまったような気分だ……。




