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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
修学旅行 一日目
80/223

 コノちゃんが絵を描いている音。絵を描いているコノちゃんの姿。

 集中して絵を描くその姿は、隣の俺なんて全く目に入っていないようで、神々しい存在かのように思えた。そうだ、住む世界が違うんだ、きっと。

 だってそうとしか思えないじゃないか。

 こんなにも綺麗なんだから……。どうしよう。


 ①抱き締める ②眺める ③目を逸らす


 ーここでは②を選んでいますー


 触れてはいけない、話し掛けてはいけない、コノちゃんは神聖なるもの。

 しかし我々も、そのお姿を拝見することだけは、許されているのだ。ならばそのお心の広さに感謝をし、ごご厚意に甘えるしかないのであろう。

 あぁ、コノちゃんとは、なんと慈悲に満ち、広いお心をお持ちなのだろうか。

 宗教的な感覚で、そのようなことを思いながら、俺はコノちゃんの楽しそうな横顔を見つめていた。

「うっしゃあぁっ!」

 突然の大声。

 その声量にも驚いたものだが、それだけでなくて、更に驚くべきなのは、その声が俺の隣から聞こえてきたというところである。

 そう。大声を上げたのは、コノちゃんだったのだ。どうしよう。


 ①心配する ②理由を尋ねる ③軽蔑する


 ーここで①になってしまうんですねー


 一体、彼女はどうしたというのだろうか。

 これほど大きな声を出している彼女を知らない。

 悲鳴のようなものではなかったのだから、むしろどちらかといえば喜びの声に近いように聞こえたから、なんら問題があるわけではないと思うのだが、心配になってしまう。

 だって普段は、小声で引っ込み思案で大人しくて、そんなところが可愛い。

 いやでもコノちゃんがもしおしゃべりだったら、と考えてみると、それはそれで可愛くて良いような気がして。どんなコノちゃんも可愛いんだよね。

 って、そういった話ではなくて、だれであっても、普段と異なる様子には、心配してしまうよねってこと。

「そんな顔しないでよ。なんだか、コノが悪いことしたみたいじゃないの。それよりさ、見てよ見てよ、上手く描けたと思わない?」

 心配はいらないと、素敵な笑顔を見せてくれた後、コノちゃんはスケッチブックを渡してくれた。

 もちろん、先程までコノちゃんが絵を描いていたものである。

 窓から見える景色が、そこに写真のようなクオリティーで描かれていた。色鉛筆で描いた跡があるから、辛うじて絵だとわかりはするものの、そうでなければ完全に写真である。

 絵が上手なんだな。着いてすぐに描き始めたところを見ると、上手なだけじゃなくて、絵が好きでもあるようだし。

 けれどコノちゃんは、美術部じゃないよね? これだけ上手で、絵が好きならば、美術部に入れば良いのに、何か理由でもあるのだろうか。

 あまりに絵が上手だったものだから、プロだから部活では絵を描けない、だなんて想像してしまうほどだ。どうしよう。


 ①本人に聞く ②噂を集める ③気にしない


 ーここも①を選択しますよー


 たださすがに、プロの画家だとか、そういったことではないだろう。ない、……よね?

 もしそうなんだとしたらば、俺に教えてくれたって良いはずだし。

 話す機会がなかったから話さなかった。そう片付けられたら、冷たいし、悲しいし、コノちゃんと俺の関係はそうじゃないと信じているから。信じたいから。

 だから俺は、気になったことは確認する条約に基づいて、コノちゃんに質問してみることにした。

「すごく上手だね。コノちゃん、どうして美術部じゃないの?」

「ありがとっ。……って、え? 美術部じゃない理由? まあ、別に話しても良いけど」

 褒めた時点では、嬉しそうな笑顔を返してくれたコノちゃんだけど、部活についてのところでは、少し嫌そうな顔をした。

 話したくないような話ならば、強要はしないのだけれど、それだとますます気になるという思いもある。

「コノに友だちがいないことは、アナタもよく知っているでしょ? 最も大きな原因となっているのは、コノの人間性なんだけど、きっかけとなったのは他にあるんだ」

 無理に話さなくても良い。そう言おうと思ったときには、コノちゃんは、説明を始めていた。

 話したいとは思わないけれど、そこまで話したくないと思うほどでもなかったのだろうか。

 しかしそのこと自体が、無理をしているとしたら? どうしよう。


 ①止める ②無理しないで ③もっと聞かせろ


 ーここは②を選ぶそうですよー


 コノちゃんのことは、少しでも知りたいと思う。

 彼女自身が嫌に思っていることだって、俺の知らない彼女を、俺は知りたいと思うんだ。

 だからコノちゃんが苦しくないのなら、そのまま彼女の話を聞いていたい。

「嫌な話なら大丈夫だから、無理しないでね。俺だって、コノちゃんが話したくないと思っていることを、掘り出してまで聞きたくはないからさ」

 わざわざこういったことを口に出すのは、優しいふり、自己満足に近いものかもしれない。

 だってコノちゃんに優しいと思われたい、その気持ちは確かにあるのだから。コノちゃんに優しい俺を、俺が信じていたいという想いだってあるのだから。

 彼女の嫌がっていることをしたくない。その思いは間違えようもなく本物だけれど、優しさの押し付けは優しさではない。こんな言い方をしてしまったら、コノちゃんは話したくないと、拒否しづらくなってしまったのではないか。

 自分で不安になってしまったけれど、どうやら彼女は無理をしているわけではないらしい。

「別に、今更なんとも思っていないから、気にしなくて良いよ。思い出したくないくらい、辛かった頃の話が、美術部に入らない理由になっているんだけど、今が辛いわけではないからね。むしろ今は、アナタがいてくれて、幸せなくらいだもの。だから、幸せを与えてくれる人に、今よりもっと暗い、過去のコノのことも見せてあげないとね」

 言っている内容は暗いものであるが、彼女の言い方は極めて明るかった。

 それは作られたというわけでなく、今更なんとも思っていない、その言葉が嘘ではないことを教えてくれる。どうしよう。


 ①黙って聞く ②ふざけながら聞く ③聞かない


 ーここはもちろん①を選ばせて頂きますー


 彼女がそう言うのなら、そう思えているうちに、聞いておくとしようか。

 もしまた、彼女がその過去に苦しむようなとき、何も知らない俺じゃ励ますことすら出来ない。そのときになってから、事情を聞くようでは、もっと彼女は傷付くことになってしまうだろうし。

 どんな彼女のことも知らないと、いつも彼女の傍に寄り添うことは出来ない。彼女を励まして、支え合うことなんて出来ない。

 だから、だから……、彼女の笑顔を信じよう。

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