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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
修学旅行 一日目
79/223

 目的地に到着後も、ずっとそのテンションである。

 コノちゃんは可愛らしい誘惑を、いくつもしかけてくるし、その度に山内さんが揶揄ってくるものだから困る。最後には、大抵、祭さんだって加わって……。

 寄って集って笑ってきて、そんなものは、苛めとなんら変わるものじゃない。

 だというのに、こんなに楽しいと感じている。あぁ、テンションのせいだろうか。

 今日の日のテンションのせいなのだと、そう言ってしまえたなら楽なものだ。

「あの、なんか、あれだね? ホテルの部屋でのメンバーまで、判別行動のメンバーだとは思わなくって。そう説明は受けていたけど、まさかと思うじゃない。だから、コノ、何も用意していないというか」

 あっという間に一日目が終了し、ホテルで部屋の鍵を受け取ったコノちゃんは、慌てた様子で俺にそう言ってくる。

 何も用意していない。というのは、一体、何の用意のことを言っているのだろうか。

「高校生の修学旅行だよ。そういった学校行事は、もっと健全に行われるべきなのだから、ほらあれじゃないの」

 そこまで言った後、赤面コノちゃんは口をパクパクさせる。

 そして顔全体を手で覆ったり、意味もなく回転したりなどをしている。どうしよう。


 ①惑わす ②首を傾げる ③共感する


 ーここで①を選ぼうと頑張っちゃうんですねー


 ふむふむ、なるほど。

 修学旅行は学校行事であるのだから、もっと健全に営まれるべきだという、コノちゃんのその意見も十分に理解出来る。

 少なくとも四人で部屋になっているんだし、普通なら何が起こることもないと思うけれどもね。

 人数の融通だってそこそこに利くし、男女混合の班自体がそう多くもないし。

 そう考えると俺、すごいんじゃね?

 数少ない、女子と同じ部屋になれている男子だと、そういうことだ。

「反対かもしれないよ。もう高校生にもなるんだし、授業の一環として、そういったことを一度は経験させておこうというのさ。だがそれを学校側が口にすることなど、間違っても出来やしないだろう? そこで思い付いたのが、この策というわけだ」

 何を言っているかわからないって? ああ、俺だって何を言っているのか、さっぱりわからないね。

 けれど思ったとおり、コノちゃんには響いたようだった。

 今この状態ならば、何を言ったとしても、コノちゃんには響くような気もするけれど。

「そのような破廉恥なお方だったとは、見損ないました。学校側がそのようなことを企てるなど、あるはずがないではありませんか。そもそも、それですと、三人を同時に抱くおつもりということになりますが、自分たちは騙されていたのでしょうか。この、人でなし!」

 まさかのところで、山内さんからの攻撃がきた。

 指摘をしているふりをして、俺の言葉よりも、彼の言葉の方が問題な気がしないでもないが。

「ほら、部屋へ行くぞ」

 コノちゃんは顔を赤くしているし、山内さんは「いやーん、えっちー」などと棒読みで言っているし、困り果てていた俺を助けてくれたのは、祭さんであった。

 彼女自身は俺を助けてくれたというわけではなく、いつまでもふざけ合っていることに、苛立っていたのだろうか。人の迷惑を顧みず、ぎゃーぎゃーとふざけ合っているリア充共が大嫌いな俺だから、とてもよくわかる苛立ちだ。

 そんなことをする奴は消えてしまえば良いと思っていたのに、自分がその立場になってしまうとは、結局ただの僻みだったのだろうか。

 今、一番迷惑していたのは、祭さんだろうからね。

 彼女は普通に部屋へ行きたいだろうに、こんなところでいつまでも遊んでいるのだもの。

 言葉の通り、早く部屋へ行きたいという気持ちは感じるが、彼女から苛立ちは微塵も感じない。

 それは彼女の良く出来た人間性のおかげか、意外にも本性を偽っているタイプなのか。

 どちらにしても、これ以上は彼女を待たせるわけにもいかない。どうしよう。


 ①謝る ②断る ③行く


 ーここは普通に③で十分ですー


 部屋の鍵を持っているのはコノちゃんだ。

 つまりは彼女を動かさなければ、部屋へ行ったとしても、入ることは出来ないということである。

「コノちゃん、行こうよ」

「いやっ! やめて下さいまし。コノは、最後まで屈しませんわよ。どんなに辛い目に遭ったとしても、あの人が助けに来てくれるから、信じてくれるから、耐え抜いてみせますの」

 あの人ってだれやねん。そうツッコミを入れたいところだが、あの人がだれなのかが、俺にはわかってしまったので、そうすることが出来なかった。

 俺の好きなアニメの中に、これと同じセリフが登場した。違うと言えば、一人称くらいのものだろう。そのキャラクターの一人称はわたくしであるのだが、コノちゃんはそのまま普段の一人称を用い、コノと口にしている。

 これはツッコむべきなのか、それとも流すべきなのか……。

 悩んだ挙句、そのセリフには触れないということにした。

「祭さんが待っているのだから、早く行かないといけないよ」

 唇を尖らせながらも、コノちゃんは素直に歩き出してくれた。

 少しズルいかとも思ったけれど、最終奥義である祭さんの名前を出しでもしない限り、コノちゃんは動いてくれなそうな気配だったんだもの。

 だれよりも人に迷惑を掛けないようにとする彼女が、そんなことをするのは、この修学旅行を楽しんでくれているということだろうか。

 俺は修学旅行の企画者じゃないのに、彼女を楽しませたのが俺というわけでもないのに、そう思うと嬉しくて仕方がなくなった。

 部屋に入ると、コノちゃんは目を輝かせて窓際へと走っていった。

 そしてバッグからスケッチブックと色鉛筆を取り出すと、絵を描き始める。どうしよう。


 ①隣にいる ②覗き込む ③邪魔をする ④一緒に描く


 ーここは①で良いのではありませんかねー


 どんな絵を描いているのか、見たい気持ちはあったけれど、覗き込んでは彼女も描きづらいかと思い、俺は黙って彼女の隣に座った。隣と言っても、向かい合っていた椅子を窓の方へ向けたのだから、二人の間には机が挟まれているわけなのだが。

 窓際にちょうど、椅子が二つ用意されていたのだ。

 部屋は五階。いかにも南国らしい木々や、青く澄んだ海が窓から見ることが出来る。

 絵心のない俺は、綺麗な景色だとしか思わないが、きっと彼女はこの景色を見て、スケッチブックに描いておかないといけないと感じたのだろう。

 一言も発することなく、彼女はスケッチブックの上、黙々と色鉛筆を滑らせ続ける。

 すごい集中力であった。

 いつの間にそんなにも親しくなったのか、山内さんと祭さんの楽しそうな声が聞こえてくるが、俺は瞳を閉じて、コノちゃんの手によって発せられる、色鉛筆の音にのみ耳を澄ませていた。

 聴いていると、不思議とそれが、ひどく心地の良い音かのように思えてくるのだ。

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