オ
「そろそろ半分を越えますし、正解発表と致しませんか? そうして、普通に会話でもしながら、移動時間を楽しみましょうよ」
俺もコノちゃんも、全く何も出来ずにいるのを見かねてか、山内さんが優しくそう言ってくれる。どうしよう。
①正解発表 ②興味ねぇし ③いちゃらぶが良いの
ーここも①としましょうー
彼の言うとおり、ここでいつまでも意地を張っているよりも、一緒に会話をしていた方が楽しいに決まっている。
こういったやり取りも、最初は楽しいのだけれど、途中からは意地になってしまう。
それじゃあ楽しいものもの楽しめないだろう?
「正解発表、お願いします」
修学旅行を”楽しいもの”と認識していたことに、自分で戸惑ってしまいながらも、山内さんにそう頼む。
握っていたコノちゃんの手を離し、山内さんの方を見ると、彼は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「はい、了解です。正解は、…………何もしていなかったんです。簡単なことだと思ったのですが、わかりませんでしたか? そもそも、このような場所で、何を出来ると仰るのです?」
ペロッと舌を出すその仕草は、悪戯っ子そのもの。
なんだかんだで、山内さんも修学旅行を楽しみ、はしゃいでいるのであろうことがわかる。
「でもそれじゃあ、あの音の正体はなんだったのですか? それに祭さんはっ」
「花空さんには隠れて頂いていただけです。というか、自分が隠していただけのこと。そんなに気になって下さったのでしたら、自分も嬉しく思いますよ」
問い掛けるコノちゃんに、本当に楽しそうにしながら答える山内さん。
服の袖を擦り合わせて、あのとき聞いた、あの不気味な音を再現してくれる。
見ている前でそれをやられると、ものすごくよく聞く、普通の音であって仕方がない。
どうしてそれを、そんなにも不思議に思っていたのだろう。不思議に思っていたことが不思議なくらいである。どうしよう。
①他にも謎がっ ②もう良いや ③もう嫌い
ーなんとここは③を選ぶべきなのだそうですー
山内さんは、怪しげな雰囲気を作り出す、プロなんじゃないかと思う。
「もう嫌だ。山内さんなんて嫌いです」
そんなことで本当に嫌いになるわけもないのだが、あっかんべーをしてそう言ってやる。
そっちがテヘペロでくるんなら、こっちはあっかんべーだもん。
男子高校生が、舌を出して何を遊んでいるんだという感じだが、そんなことは気にしないもん。
「嫌いだと仰るのなら、別にそれで構いません。自分は他の二人と会話をしておりますので、一人で拗ねていらっしゃれば宜しいでしょう」
わざとそういった言い方をするのだから、ひどいものである。
しかし心を許してくれている証拠でもあるようで、嬉しさに満たされていくようだった。
本当に嫌いな相手には、余程のことがない限り、または余程正直な人でもない限り、嫌いなどと言いはしないだろう。
揶揄いや嫌味は、性格が悪いという捉え方もあるが、基本的には親しい人に言うことが多い。
山内さんは俺のことをそう思ってくれているということ。
そもそも彼に悪戯っぽいイメージなんて、全くというほどになかった。そんな彼が楽しそうに舌を出しているのだから、それはかなりの信頼を得たと考えて良いのではないだろうか。
自分のポジティブに感心しながらも、俺はそういうことで結論をまとめた。
「それは嫌です。俺は山内さんのことが嫌いですけれど、一緒に四人で話をするのです。仲間外れは良くありませんから」
「仲間外れは良くない、そのとおりです。コノは幾度となく仲間外れにされてきて、その悲しさは、そして開き直ることによる、更なる悲しさも空しさもわかっております。仲間外れは絶対に駄目です」
「それだったら、自分だってわかります。けれど一人が好きなのだと気取ってみれば、いずれ自分さえも騙せてくるのか、空しさなんて感じなくなってくるものですよ。悲しみや寂しさは、自分が思っている以上に和らぐことを知らないようですがね」
仲間外れは良くないという言葉から、コノちゃんと山内さんの闇が見えた気がした。どうしよう。
①同意 ②共感 ③否定
ーここは②になってしまうのですねー
一人と一人と一人が、やっと出会って三人になったのだよ。
きっとそういうことなのだよ。
だったらば、仲間から外そうだなんてこと、起こり得るわけがないのだ。
三人が三人とも、それぞれの一人を生きてきて、ぼっちだったのだから。
「山内さんの言っていること、すごくよくわかります。コノちゃんの言うことも、嫌になるくらいわかります。でもだからこそ、この修学旅行だけは、疲れるくらいに楽しんでやりましょう? 俺たちの復讐劇です」
だれにどう復讐をするのか。それ以前に、どこが復讐であるのか。
そういったことはわからないし、わからなくて良い。
言葉の意味が理解出来るかどうかなんて、その言葉に意味があるかなんて、関係ないのだ。俺はただ、もうぼっちではないのだということを、伝えたかっただけなのだから。
友だち。恋人。
何度言っても、素敵な響き。
仲間という嫌いな言葉を、好きな言葉にさえ変えてしまえる、強い力を持った存在。
「うん、復讐劇だね」
コノちゃんが俺の耳元でそう囁いて、そのまま唇を耳朶にチュッと重ねてきた。
音が聞こえるようにしたのは、きっとわざとなのだろう。恥ずかしくて、気持ち良くて、嬉しくて――。




