ウ
修学旅行へ行くのが楽しみで、いつもより上機嫌なんだって、それだけだよね……。どうしよう。
①詮索 ②楽しませる ③怪しむ
ーここは②を選ばずにどうしますー
何か企みがあるにしても、楽しめたなら、楽しんでいるうちに忘れてしまうだろう。
暗い想いだってきっと全て晴れてしまうだろう。
所詮は学校行事でそんなこと。そうは思うけれど、それでも楽しいと思えるくらいに、俺がコノちゃんを楽しませてあげれば良い。
だって俺は、コノちゃんの彼氏なのだからね。
「すげーな。本当に飛んでるぜこれ」
集合時間には無事に参加者全員が集合し、予定通りに飛行機は空港を発った。
席は班ごととのことなので、四人は一列に並んでいる。窓側にコノちゃん、その隣に俺、通路を挟んで山内さん、そしてコノちゃんとは反対の窓側に祭さんだ。
俺が祭さんだったらメンタル的にやられそうなところだが、彼女は全く気にしていないらしい。
飛行機に乗ることが初めてとのことで、窓の外を見て子どものようにはしゃいでいる。
彼女はそういった愛らしさを持っているから、嫌われたことなどないのだろうか?
現に俺だって、祭さんと仲が良いとは思わないけれど、彼女を嫌っているようなことでは決してない。
仲が良くないというのも、悪いという意味ではなくて、接点があまりないだけのことだ。
「すごいね。お空が下にあるみたいだよ」
三人で話でもしていようかと思ったが、祭さんが気になってそうもいかない。
俺とコノちゃんで話していようにも、それでは山内さんに悪いような気がする。
そうして結局ほとんど会話はなく、様々なことに、大袈裟なまでに喜ぶ祭さんの、声の大き過ぎるひとりごとを三人で聞いていた。
絵本にでも書いてありそうなくらい、子どもらしい祭さんの感想に何を思ったか、俺の名を呼びコノちゃんはそんなことを言う。
まさか彼女にも祭さんがうつったとは思わないが、馬鹿にしているようにも見えない。どうしよう。
①同意 ②嘲笑 ③肯定
ーここは③を選びますー
だけど、こういうコノちゃんも、レアな感じがして良いかも。
普段はふざけることがあっても、素直子ども系のネタとかキャラとかボケとか、あまり持ってこないもん。
「そうだね」
もしかしたらコノちゃんは、本当にはしゃいでいるのかもしれない。
本当はコノちゃんも、いっぱい話をしたりテンションに任せて大袈裟になってみたり、したいのかもしれない。祭さんのようには素直になれないのか、祭さんがはしゃぐものだから、はしゃごうにもはしゃげずにいるのか。
何にしても、俺だけでもコノちゃんを最優先にしてあげないとだな。
彼女はすぐに遠慮してしまうし、自分を下に見るようなところがあるから、いつも気を遣っているようにも見えるし。
「ねえコノちゃん、どんなところへ行って、どんなものを見たい?」
俺が訊ねると、コノちゃんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「アナタの隣に行って、アナタを見ていたいな」
窓を楽しげに見つめていた、子どものようなあの表情はどこへ行ってしまったのだろう。
いつの間にかいつものコノちゃんに戻っていて、よくありがちな、わざとらしいセリフを言うんだ。
こんなところもコノちゃんらしいし、もちろん好きなのだけれど、もっと他の――本当の彼女を知りたい。どうしよう。
①怖いから諦める ②無理だから諦める ③知りたい ④教えろ
ーここも③を選びましょうかねー
嬉しいことに、俺と話をしているときのコノちゃんは、他の人と接しているときよりも自然なように見える。
気のせいなのかもしれないが、少なくとも俺はそう感じる。
しかし俺に見せてくれている彼女も、本当の彼女とは少し違うように思えるんだ。
まだ付き合い始めたばかりなのだし、そんなにも全てを知っているはずがないのだが、俺としてはコノちゃんの全てを知りたかった。
束縛とかストーカーとか、そうなりたいわけはないのだけれど、純粋に好きな人のことを知りたい。
もっと傍にいて、もっといろいろなことを知りたい。
そういった気持ちが、俺の中から溢れそうになっているのであった。
溢れさせてしまったら、コノちゃんを怖がらせてしまうかもしれない。
それが俺も怖いから、一緒にいたい、とすら本気でいうことが出来ないのだけれど。
また彼女も同じ。
キャラクターを付けて、言葉をセリフで飾ることでしか、気持ちを告げることが出来ないのだろう。
「うん、そうだね。俺もコノちゃんの傍で、もっとコノちゃんを見ていたいよ」
「ちょっとそこ! 二人でいちゃつかないで下さい。カップルの愛なんて、自分が全力で妨害致しますよっ」
恥じらってしまいながらではあっても、彼女のセリフをそのまま返しただけであっても、俺はそう言ってみせた。だというのに、わざわざ雰囲気を壊して来る山内さんは、本当に楽しそうだった。
そして、楽しそうに妨害などされたら、本来なら腹が立つところだろうが、そういったことは全くなかった。
山内さんが遠慮しないでいてくれて、むしろ嬉しいくらいだった。
いつも彼の方から声を掛けてくれるものだから、俺から山内さんに声を掛けたことなど、数えられるほどしかないだろう。もしかしたら、一度もないかもしれない。
だからこういったときでも、変わらずに明るく話し掛けてくれる山内さんに、安心をしてしまう。
それに去年まではクールな一匹狼なのだと思っていた山内さんが、親しく接してくれることも嬉しいし。どうしよう。
①いちゃつく ②追い払う ③言い返す
ーここは①を選ぶようですよー
本当はそのまま、山内さんも含めて三人で、いや、祭さんも含めて四人で話でもしようと思った。
長い移動時間に憂鬱と吐き気以外を感じるのは初めてだったから、どうせなら班のみんなで楽しみたいと思った。
そう思ったからこそ、俺は山内さんに背中を向けて、コノちゃんを見つめる。
「コノちゃん」
「どうかしたの? アナタ」
手を握って見つめ合う。
雰囲気のイメージとしては、熱々ほやほやの新婚夫婦である。
しかしそれがいつものネタ言動でしかないにしても、触れ合う手の温もりにはドキドキするし、逸らさず見つめるコノちゃんの綺麗な瞳には、意識が遠退いてしまいそうになる。
あぁ、綺麗だな……。
「いちゃらぶはお腹いっぱいです。全く、見せ付けて来やがって、苛めのおつもりですか?」




