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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
修学旅行 一日目
76/223

 修学旅行へ行くのが楽しみで、いつもより上機嫌なんだって、それだけだよね……。どうしよう。


 ①詮索 ②楽しませる ③怪しむ


 ーここは②を選ばずにどうしますー


 何か企みがあるにしても、楽しめたなら、楽しんでいるうちに忘れてしまうだろう。

 暗い想いだってきっと全て晴れてしまうだろう。

 所詮は学校行事でそんなこと。そうは思うけれど、それでも楽しいと思えるくらいに、俺がコノちゃんを楽しませてあげれば良い。

 だって俺は、コノちゃんの彼氏なのだからね。

「すげーな。本当に飛んでるぜこれ」

 集合時間には無事に参加者全員が集合し、予定通りに飛行機は空港を発った。

 席は班ごととのことなので、四人は一列に並んでいる。窓側にコノちゃん、その隣に俺、通路を挟んで山内さん、そしてコノちゃんとは反対の窓側に祭さんだ。

 俺が祭さんだったらメンタル的にやられそうなところだが、彼女は全く気にしていないらしい。

 飛行機に乗ることが初めてとのことで、窓の外を見て子どものようにはしゃいでいる。

 彼女はそういった愛らしさを持っているから、嫌われたことなどないのだろうか?

 現に俺だって、祭さんと仲が良いとは思わないけれど、彼女を嫌っているようなことでは決してない。

 仲が良くないというのも、悪いという意味ではなくて、接点があまりないだけのことだ。

「すごいね。お空が下にあるみたいだよ」

 三人で話でもしていようかと思ったが、祭さんが気になってそうもいかない。

 俺とコノちゃんで話していようにも、それでは山内さんに悪いような気がする。

 そうして結局ほとんど会話はなく、様々なことに、大袈裟なまでに喜ぶ祭さんの、声の大き過ぎるひとりごとを三人で聞いていた。

 絵本にでも書いてありそうなくらい、子どもらしい祭さんの感想に何を思ったか、俺の名を呼びコノちゃんはそんなことを言う。

 まさか彼女にも祭さんがうつったとは思わないが、馬鹿にしているようにも見えない。どうしよう。


 ①同意 ②嘲笑 ③肯定


 ーここは③を選びますー


 だけど、こういうコノちゃんも、レアな感じがして良いかも。

 普段はふざけることがあっても、素直子ども系のネタとかキャラとかボケとか、あまり持ってこないもん。

「そうだね」

 もしかしたらコノちゃんは、本当にはしゃいでいるのかもしれない。

 本当はコノちゃんも、いっぱい話をしたりテンションに任せて大袈裟になってみたり、したいのかもしれない。祭さんのようには素直になれないのか、祭さんがはしゃぐものだから、はしゃごうにもはしゃげずにいるのか。

 何にしても、俺だけでもコノちゃんを最優先にしてあげないとだな。

 彼女はすぐに遠慮してしまうし、自分を下に見るようなところがあるから、いつも気を遣っているようにも見えるし。

「ねえコノちゃん、どんなところへ行って、どんなものを見たい?」

 俺が訊ねると、コノちゃんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「アナタの隣に行って、アナタを見ていたいな」

 窓を楽しげに見つめていた、子どものようなあの表情はどこへ行ってしまったのだろう。

 いつの間にかいつものコノちゃんに戻っていて、よくありがちな、わざとらしいセリフを言うんだ。

 こんなところもコノちゃんらしいし、もちろん好きなのだけれど、もっと他の――本当の彼女を知りたい。どうしよう。


 ①怖いから諦める ②無理だから諦める ③知りたい ④教えろ


 ーここも③を選びましょうかねー


 嬉しいことに、俺と話をしているときのコノちゃんは、他の人と接しているときよりも自然なように見える。

 気のせいなのかもしれないが、少なくとも俺はそう感じる。

 しかし俺に見せてくれている彼女も、本当の彼女とは少し違うように思えるんだ。

 まだ付き合い始めたばかりなのだし、そんなにも全てを知っているはずがないのだが、俺としてはコノちゃんの全てを知りたかった。

 束縛とかストーカーとか、そうなりたいわけはないのだけれど、純粋に好きな人のことを知りたい。

 もっと傍にいて、もっといろいろなことを知りたい。

 そういった気持ちが、俺の中から溢れそうになっているのであった。

 溢れさせてしまったら、コノちゃんを怖がらせてしまうかもしれない。

 それが俺も怖いから、一緒にいたい、とすら本気でいうことが出来ないのだけれど。

 また彼女も同じ。

 キャラクターを付けて、言葉をセリフで飾ることでしか、気持ちを告げることが出来ないのだろう。

「うん、そうだね。俺もコノちゃんの傍で、もっとコノちゃんを見ていたいよ」

「ちょっとそこ! 二人でいちゃつかないで下さい。カップルの愛なんて、自分が全力で妨害致しますよっ」

 恥じらってしまいながらではあっても、彼女のセリフをそのまま返しただけであっても、俺はそう言ってみせた。だというのに、わざわざ雰囲気を壊して来る山内さんは、本当に楽しそうだった。

 そして、楽しそうに妨害などされたら、本来なら腹が立つところだろうが、そういったことは全くなかった。

 山内さんが遠慮しないでいてくれて、むしろ嬉しいくらいだった。

 いつも彼の方から声を掛けてくれるものだから、俺から山内さんに声を掛けたことなど、数えられるほどしかないだろう。もしかしたら、一度もないかもしれない。

 だからこういったときでも、変わらずに明るく話し掛けてくれる山内さんに、安心をしてしまう。

 それに去年まではクールな一匹狼なのだと思っていた山内さんが、親しく接してくれることも嬉しいし。どうしよう。


 ①いちゃつく ②追い払う ③言い返す


 ーここは①を選ぶようですよー


 本当はそのまま、山内さんも含めて三人で、いや、祭さんも含めて四人で話でもしようと思った。

 長い移動時間に憂鬱と吐き気以外を感じるのは初めてだったから、どうせなら班のみんなで楽しみたいと思った。

 そう思ったからこそ、俺は山内さんに背中を向けて、コノちゃんを見つめる。

「コノちゃん」

「どうかしたの? アナタ」

 手を握って見つめ合う。

 雰囲気のイメージとしては、熱々ほやほやの新婚夫婦である。

 しかしそれがいつものネタ言動でしかないにしても、触れ合う手の温もりにはドキドキするし、逸らさず見つめるコノちゃんの綺麗な瞳には、意識が遠退いてしまいそうになる。

 あぁ、綺麗だな……。

「いちゃらぶはお腹いっぱいです。全く、見せ付けて来やがって、苛めのおつもりですか?」

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