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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
初恋人
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 考えれば考えるほど恥ずかしくなるのだから、考えなければ良いと思うのだけれど、そう思うと更に考えてしまう。

 こんなにもゲームに集中出来ないのは、初めてである。どうしよう。


 ①発狂 ②酔狂 ③抑える


 ーこんなのは③に決まっていましょうー


 気でも狂ってしまいそうだった。

 友だちから恋人に変わったからと言って、何か変わったところが特にあるというわけでもない。

 けれど、名前が変わっただけ、その変化が俺にとっては大きすぎたのだ。

 今さっき告白して、彼女の気持ちを知れて、喜びが抜けないのだとかそういうことでもないのに。

 恋愛経験の少なさのせいなのだろうか。

 いつまでその興奮と喜びは抜けないのだ、という感じである。

 一歩引いて客観的に自分のことを考えてみるけれど、そんなものがいつまでも続くわけではない。

 どんどん思考はコノちゃんのことへと傾いていってしまい、結局は顔を赤くさせてしまうのであった。

 周りに気が付かれないうちに。指摘されてしまわないうちに、感情を自分で抑えられるようにならなければ。

 そうしなければ、変になってしまいそうで……。

 もうどうしたら良いの? こんなことなら、恋人なんて。

 そういった考えを持ってみようとするけれど、残念ながら本心とあまりにかけ離れているがために、失敗に終わってしまった。

 これじゃ、授業に集中出来ない。どうしよう。


 ①コノちゃん ②ゲーム ③成績


 ーここも③を選ぶのだそうですー


 それなら、自分の成績のことを考えれば良いのだ。

 これ以上落ちるわけにはいかない成績を思えば、嫌でも授業には集中するようになるはず。

 とても頭の良い優等生といった雰囲気を纏っているけれど、コノちゃんだって、そこまで成績が良いというわけではないらしい。

 だとすると、テスト前に勉強を教えてもらう、ということも期待出来ないだろう。

 平均点を取れない二人が勉強会を開いたところで、難問が解けずに諦めて終わるだけ。

 だったら逆に、俺が勉強を出来るようになって、コノちゃんに勉強を教えてあげるというのも良さそうだし。

 そこまで考えてから、脳裏に雪乃さんの言葉が浮かぶ。

 ”裏切りとかは絶対に駄目だからね”

 中間テストのときは、雪乃さんと一緒に勉強をした。もしかしたら、期末テストでも誘ってもらえるかもしれない。

 あのときはまさか、恋人が出来るなんて考えてもいなかったからなぁ。

 進級してからいろいろなことがありすぎて、リアルが充実しすぎていて、なんだか……。

「お昼ご飯、一緒に食べよ? 何、考え込んじゃって。コノというものがありながら、他の女の子のこと、考えてたんじゃないでしょうね」

 彼女は明らかに冗談で言っているのだが、すぐに否定を出来ないのがひどく自分を苛んだ。

 そう言われて時計を見れば、確かにもう昼である。午前の授業は、いつの間にか終わっていたらしい。

「えっ。否定しないって、本当にそうなの? 付き合って早々、もう浮気をしようとか、そんな男だったの?」

 わかっている。コノちゃんの冗談。いつもの寸劇のようなもの。

 なのに、だからこそ、だろうか。俺は彼女を傷付けているような気がした。どうしよう。


 ①肯定 ②否定 ③黙る


 ーなんとここでは①を選ぶのですよー


 全く疑うことを知らない彼女の瞳が、本来は罪に問われない、小さな罪さえも俺に圧し掛からせた。

「うん、そうなんだ。彼女がいるのに、他の女の子のことを考えるなんてひどいよね。あーりんとかゆいちゃんとか、みんな可愛くって、完全に妄想の世界にいた。ごめんね」

 嘘だ。俺が考えていたのは、ゲームの中の女の子なんかじゃない。

 嘘なんか吐いてしまっても、後から辛くなってくるに決まっている。恋愛経験以前の問題として、それくらいは理解しているのに。

 コノちゃんの勘があまりに鋭いから、コノちゃんがなんでも許してくれちゃうから。

 その笑顔があまりに可愛いから、後ろめたいことがあるわけでもないのに俺は嘘を吐いた。

 ただ考えていただけ。

 それくらい、浮気なんかじゃないだろうに。隠すことの方が、よっぽど悪いことなのに。

「なるほど。そういうことなら仕方がないね。ところで提案なんだけど、コノがアナタのお弁当を用意しようか? 余ったからあげるだけなんだから、というツンデレ。アナタのために作ったんだから、絶対に全部食べてくれないと……嫌だからね。ふふっ、というヤンデレ。二種類の演出をしたいのです!」

 仕方がないね。俺の嘘を見抜いた上で言っているような、余裕に満ちた表情で、彼女は言う。

 そして弁当を用意してくれるという、経済的にも精神的にも助かり、リア充レベルが急上昇するような提案をしてくれる。

 俺にはプラスの要素しか存在しない。

 アニメファン特有の彼女の演技やセリフは、聞かなかったことにしておこうか。

 だってファンが言うヤンデレというのは、リアルで存在したらと考えると、少しどころじゃなく怖いからね。

 ツンデレほど、既に完成されたものが存在するわけでもないから、自由が利くのもまた恐ろしい。どうしよう。


 ①任せる ②ツンデレ希望 ③ヤンデレ希望 ④却下


 ーなぜだかここは③を選ぶようですよー


 まぁ、自分で言うのもなんだけど、俺くらいの重症なアニメファンからしてみれば、そういうのを夢があると言うんだけどね。

 ツンデレなんて、そんなの初級者向けさ。

 上級者になってくれば、少しずつヤンデレの魅力に気が付いていくに決まっている。

「ありがとう。それじゃあ、お願いしようかな。二種類とも演出してくれるのは嬉しいんだけど、弁当の中身のイメージからすると、ヤンデレベースにしてもらいたい」

「りょーかいっ!」

 楽しそうに彼女は返事する。

 今日は作りすぎた弁当の余りをくれる、ということはないようだから、普通に俺は俺の弁当を食べる。

 断るわけなんてないんだから、わざわざ許可を取ることなんてあったのかなぁ。まして明日からは修学旅行なのだから、弁当を作ってくれるとしたら帰ってきてからになるのだろうし。

 サプライズとかは、相手の反応を怖がっちゃうから、出来ないんだという気持ちはわかる。

 でも絶対に断られる心配のないものまで、許可を取る必要があったろうか。

 もしかしてコノちゃんも、俺が修学旅行までにコノちゃんと呼べるようなりたいと思っていたように、修学旅行を区切りに思っていたのだろうか。

 そこから本格的に、恋人らしいと言える関係へとなっていこうと。

 表情には出ないけれど、もしかしたらコノちゃんも俺のことを考えていてくれて?

 そう思うと嬉しくて嬉しくて、楽しそうな彼女と無言のまま、笑顔で見つめ合っていた。

 周りから見たらかなり変に見えていたことだろうな。どうしよう。


 ①気にしない ②気になる ③可愛いなぁ


 ーここも選ぶのは③になりますー


 でもコノちゃんのこの可愛い笑顔を見ていたら、何も気にならないや。

「お二人ともラブラブですね、邪魔したくなります」

 見つめ合う幸せな沈黙を破ったのは、俺でもコノちゃんでもなかった。

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