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言えた。
コノちゃんと呼ぶことは出来ていないのだから、問題の解決には到底至っていない。完全に今だって、堂本さんと呼んだ。
しかしこう彼女に告げたなら、彼女の協力により、俺はリア充マスターにだってなれるはず。
「へえ、わかりました。アナタがそこまで苦しんでいるとは、知りませんでした。コノたち二人の力で、恋人力を上げてしまいましょうか。周囲から見て、疑うこともなくバカップル認定されてしまうくらいにね?」
バカップルを目指す理由はわからなかったが、それくらい堂々と出来たら良いね、という意味なのだろう。どうしよう。
①頑張る ②頑張らない ③二人で頑張る
ーここは③を選びましょうよー
ならば、堂本さんも”二人の力で!”と言うように、二人で頑張らなければいけないね。
俺だけが頑張らないといけないなんて、不平等だと思うんだ。それに、俺だけが頑張ったところで、バカップルには見えないと思うんだよね。
ただ俺が馬鹿に見えるだけじゃないか。
それじゃあ意味がない。
「だったら、堂本さんも口調を変えるとかしませんか? 友だちの時点では迷いましたが、ここまできたわけですし、いっそ敬語すら崩してしまうというのも良いと思うのです。距離も一気に縮まるのでは?」
巻き込んだな。というような顔を一瞬見せたけれど、その後堂本さんは楽しそうに笑った。
「わかりました。コノにはハードルが高いかとも思いましたが、アナタにとってのコノちゃんだって、相当のことですものね。しかしその提案をしたということは、もちろんアナタも敬語ではなくすのですよ?」
本当に恋人同士みたいに、自然な感じで会話が出来るのかな。
憧れていた友だちに、彼女とは自然になれたんだ。恋人にだって、なれる、自然でいられるそのはずだ。どうしよう。
①頑張る ②却下 ③もちろん
ーここは①を選択しますー
もちろんだ。そう言って、笑顔でも見せるつもりだった。
「はい、そうですね。俺も頑張りますよ」
しかしまだ訓練を積んでいない俺には、そんなこと言えなかったから、頑張りますと微笑むだけだった。
親しくなっても丁寧な言葉を使うことは、悪いことではないと思う。
それ自体は悪くないのだろうけれど、俺たちの場合は、距離があり過ぎてしまうのだ。問題点はそこである。
だから一旦は普通に話せるようになってから、お互いを尊重する意味も込めて敬語に戻す。
どうしても敬語が落ち着くようなら、それで良いと思う。そうするべきだと思う。
「あ、あの、何か面白いゲームでも、見つけた? 良かったら、コノにも紹介してもらいたいんですけど。どうかな?」
急になんの話を始めたのかと思えば、彼女は話題が必要だと考えて、提示しただけなのだろう。
彼女のことだから、本当はそれくらい余裕なのではないかと思ったけれど、そんなことはなかったらしい。
なぜだか挙動不審になるその姿としては、完全に俺と同じレベルである。
「途中で敬語になってしまっていますよ」
そう指摘すれば、
「アナタは終始敬語だったでしょ?! 言い出しっぺのくせに。コノだってわかってて誤魔化したんだから、わざわざ言わなくたって良いよ」
なんて彼女は言ったわけだが。
意識しなければ、彼女、自然に話せているじゃないか。そう言いたくなったけれど、本人は気がついていない様子。
だとしたら俺も、無意識のうちにコノちゃんと呼べちゃっていたりするのだろうか。どうしよう。
①無意識を狙う ②意識的に呼べるよう頑張る ③諦める
ーここは②を選択致しましょうー
狙っている時点で、それは無意識とは言えないだろう。
そして無意識でないのなら、このままでは呼べやしない。
だとしたら、意識的に呼べるようにならなければならないということだ。
「タメ口たるものがなんたるかを忘れていたのだから、そんなの仕方ないでしょ? でももうわかったから、コノちゃんとなら、自然な感じで話せると思うよ。だって信頼しているからさ」
さすが俺。自分で自分を褒めてあげたい。
恥ずかしさで死にそうだったし、コノちゃんと言った時点では、全速力で教室を飛び出していきそうになった。
しかしそれら全ての感情を抑えて、俺は最後まで言い切ったのだ。
見たかリア充共! これで、俺もリア充の仲間入りだな。
って。これだと俺がリア充共に仲間に入れろと迫っているみたいになってしまうな。
まぁ何にしても、リア充にとっては普通のことだとしても、俺たちにとってはかなりの難問なのである。
そして俺はその難問をクリアしようとしているのだ。どうしよう。
①他のみんなとも ②友だちとなら ③コノちゃんだけ
ーここは③を選びますよ、そりゃー
それに俺は騒がしいリア充とは違って、そんなに軽い男じゃないからね。
コノちゃんだけ、なんだからな……。
ほら、特別感ってやつだよ。
女子どころか、他のだれと話すこともほとんどないのだから、彼女が嫉妬するようなこともなくて良いでしょ?
特別感はあったとしても、優越感はないだろうけれどね。
みんなのアイドルを、自分のものにしてやった的なあれ。
コノちゃんはそんなことを望んでいるようには見えないし、彼女自身も、自分のことを重いと言っていた。だとしたら、俺が少しくらい重くたって、喜んでくれるはず。
軽い男を好んだりしまい?
つまり、俺とコノちゃんはベストカップルということなのだ。
コノちゃんという呼び名を定着させていくために、頭の中で何度も彼女をそう呼ぶ。
そのテンションのせいなのか、柄にもないような考えに至り、恥ずかしくなってきてしまった。
すぐに指摘されてしまうから、顔には出さないけれどね。もちろん。そうしたらもっと恥ずかしいもん。




