き
「食事はここでいいでしょうかぁ。君のお口に合うかはわかりませんが、とても美味しいところですよぉ」
そう言って彼女が案内してくれたのは、高級レストラン。ではなく、定食屋さんだった。
商店街へ来ているくらいなのだから、この見た目でも意外と庶民的な方なのだろうか。まあ美女だから金持ちとか、そういうわけじゃないもんね。
そもそも奢ってもらうのに、高級な店を望んでいる時点で間違っている。
俺ったら、なんて図々しい輩なのかしらね。どうしよう。
①自責 ②謝罪 ③定食万歳
ーここも③だそうですー
でも高級レストランよりも、リーズナブルな定食のほうが俺の口には合うと思うんだ。
「特に食べたいものというのはないので、天沢さんにお任せ致します。オススメのものを頂けますか?」
「わかりましたぁ」
親指を立ててグッジョブ! と微笑むと、天沢さんは早速買いに行ったようだ。
何がやってくるのかはわからないけれど、別に天沢さんが買ってくれるものなら、なんでもいいと俺は思えてしまっていた。
本当に、美女って怖いよね。
「あの、ミーの方からいろいろと質問をしてもいいですかぁ? 君の時間が許す限りで、大丈夫ですからぁ」
いろいろと、という表現に多少の恐怖は感じるが、見の危険を感じたならば予定があると入って逃げればいい。
この美女を相手に俺は、どうして逃げることを考えているのか。
そうも思うのだけれど、やはり彼女は美女である前に不思議な人間だ。
ちょっと怖いし。ちょっとじゃなく怖いし。普通に怖いし。滅茶苦茶とは言わないけど怖いし。
「ええ。ちなみにですけど、俺の方から質問をする権利は」
「ありませんよぉ? もちろん」
言い終わる前に否定されてしまった。どうしよう。
①怒る ②了承 ③不平等だ
ーここは②でしょうー
予想通りの回答だったので、反論するつもりもない。
一方的に天沢さんが俺に質問をし続ける、ということでいいんだろう。
それに、美女に自分のことを聞いてもらえるんだから、嬉しいに決まっていよう。何一つとして不満はない。
不安はあっても不満はない。
「服装から見て、学校と学年までは特定出来ますぅ。だからクラスと入ろうとしている部活動、それくらいの情報はとりあえず教えて下さいますかぁ?」
質問は意外と普通のものだった。
ただ彼女に時間がないのかわからないが、質問開始は食べ終わってからでいいのではないかと思う。どうしよう。
①彼女に従う ②気に食わん ③気にしない
ーここは①を選びますー
でも食事中にお行儀が悪いとか、そんなことをわざわざ言っても仕方ないだろう。
彼女がそうしているのだから、俺は彼女に従えばいいさ。
質問をされたことにもちゃんと答えないと、今の俺は彼女に従うだけだから。
奢ってもらった立場であるからだよ、もちろん。彼女が美人だから跪いてでも従うとか、そういうことじゃないからね。
そこは勘違いしてもらっちゃ困るね。
まあなんにしても、この程度の質問だったら、誰が相手でも隠すことではあるまい。
「クラス、えっと、二年八組です。部活動は、帰宅部でいいかなと思っています」
他に何を付け加えるわけでもなく、彼女の質問の答えだけを返した。
今日知ったクラスだから、自分のクラスが何組だったか考えてしまったけどね。
「帰宅部、その決意が揺るぐことはありませんかぁ?」
俺の言葉を聞いてか、期待を込めたような瞳で天沢さんは問い掛けてきた。どうしよう。
①場合によりますかね、まだ ②揺るぐことなどありません
ーここでは②を選んでしまうようですよー
まさか、彼女は俺を部活動に勧誘するつもりなのだろうか。
ここまでして誘うほどの特技、俺にはないと思うけど、何部なのだろうか。
「揺るぐことなどありません」
しかし興味本意で聞き出すために、彼女の期待を煽るようなことをしてはいけないと思った。
到底、俺にそこまでの期待をしているとは思えない。
ただどんな奴でもいいから、どんな手段を使ってでも、人数を集めたいような部活なのかもしれない。そのために必死なのかもしれない。
それら様々なことを考えたら、やはりはっきりと言わないとだよね。
「ほう、それは残念ですねぇ。まあ勧誘が目的ではありませんし、別にいいでしょうぉ。話をずらしてしまいそうでしたぁ。質問を続けますねぇ」
俺の予想は、一瞬にして否定されてしまった。
勧誘が目的ではなかったらしい。どうしよう。
①目的を警戒 ②質問に答える ③彼女に任せる
ーここも②になりますかねー
でもまあ、俺は彼女の質問に答えればいいだけだから。
それに俺は秘密組織の人間とかじゃないんだし、正直に答えることが出来ない質問なんて別に持っていないだろう?
普通の男子高校生でしかない俺は、普通の男子高校生らしい答えしか持っていない。
いずれ天沢さんもそれに気付くだろうから、それまでの間、彼女との至福の時間を堪能しよう。この、不味くはないけれど美味しくもない、絶妙な定食を食べながら、ね。
「ゲームとかは、お好きなんですかぁ? 違ったら失礼だと思うんですけど、かなりゲーマーの顔付きをしていますぅ」
次の質問を待っていると、天沢さんはそんなことを聞いてきた。
ゲーマーの顔付きとは、どんな顔付きなのだろうか。
それはわからないけれど、ゲームが好きであることに違いはない。どうしてそれがバレたのか、その仕組みを教えて欲しいところである。
だが、こちらに質問をする権利はない。どうしよう。
①質問する ②質問に答える ③沈黙
ーここも②でいいでしょうー
ゲームが好きであることは、恥じることではない。
「はい。ゲームが大好きで、多くの時間をゲームのために費やしてしまい、自分でも困っているくらいです」
実際に困ってはいないのだけれど、この際ちょっと大袈裟に、俺はそう言った。
ゲーム好きであることを、恥じるわけではないのだ。
しかしゲームへの愛を単純に語るくらいならば、こうして開き直った態度をを示した方がまだ、引かれずに済むだろうかと思ってさ。
嘘は吐いてないよね? 俺は別に、嘘を吐いたわけではないよね?