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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
初恋人
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 名前にちゃんだと、馴れ馴れしさを感じる。だけどさん付けなのだし。

「祭ちゃんで良いってのに、まぁわかった。あたしのこと、今度から祭さんって呼んでくれよな?」

「あぁ、はい」

 花空さん。じゃなくて、祭さんが席に戻っていくと、台風が去ったくらいの静けさだった。

 残念なことに、台風一過は訪れてくれないようだけれどね。

 余程疲れたのか、堂本さんは完全にダウン状態である。

 彼女の表情を天気に例えるのならば、間違えなく曇りだろう。どうしよう。


 ①励ます ②放っておく ③そっとしておく


 ー似ていますが②ではなく③を選ばなければいけませんー


 ここでは何を言っても、逆効果となるだろう。

 元気を取り戻すまではそっとしておいてあげよう。そうしたらきっと、またすぐに読書を始めることだろうからね。

 今は少し疲れただけ。

 いつまでも沈んでいるような、そこまで大きなショックを受けたわけではない。

 彼女も俺も、感じていることは同じはず。

 そう考えた俺は、あえて堂本さんに声を掛けはせず、机に突っ伏して意識を手放した。


「下校時刻ですよ。いつまでボーっとしているのです?」

 休み時間が終わり、授業が始まるチャイムを聞いた。そのときに、きちんと目を覚ましたはずだった。

 しかしウトウトしてしまっていて、そのうちにいつの間にか授業が終わってしまっていたらしい。

 すっかりいつも通りの微笑みを取り戻した堂本さんが、俺を起こしてくれる。どうしよう。


 ①ありがとう ②もう少しだけ寝かせて


 ーここはなんと②を選ぶのだそうですよー


 起こしてくれるのだけれど、まだ俺は眠り足りない。

「もう少しだけ寝かせて」

 ここは学校で、もう下校時刻なのだから、家に帰らなければいけない。

 それなのにボーっとした頭で、俺はそう答えてしまっていた。

 自分で何を言っているんだろうと思ったけれど、結局眠気には勝てず、そのまま目を閉じてしまった。

「ちょっ、寝ないで下さいよ。時間ですって。それとも、このまま行っちゃって良いんですか? 早く起きてくれないと、コノはこれから部活なのですから、ずっと構ってはいられませんよ」

 遠くに堂本さんの声が聞こえる。

 なんとか意識を手繰り寄せて、うっすらと目を開けたところで、堂本さんに体を揺らして無理に起こされた。

 少し強引な気もしたけれど、声掛けだけではまた寝てしまいそうなところだったし、ありがたいことだ。

「あぁ、ごめんね。堂本さん、起こしてくれてありがとう」

 謝罪をしてお礼を言うと、俺は鞄を取りに行こうとする。

 とそこで、堂本さんが俺の手首を握った。王道な胸キュンシチュエーション過ぎて、動揺が止まらない。

 手首をこのまま力強く引いてくれたら、俺は胸の中に収まって優しく抱かれてしまうのだろう。何が怖いのか、振り向くことは出来ずにいるけれど、それがまた胸の鼓動を速めた。

 俺は男だからあまり読まないけれど、少女漫画にはこんなシチュエーションがよく見られる気がする。

 本当に、こんなにもドキドキするんだ……。

 性別が反対だったならもっと良いんだけどな。どうしよう。


 ①俺が男らしく ②彼女を女性らしく ③このままで


 ーここは③を選択するのですー


 この態勢から、反対に俺が彼女を抱き締めようか。

 恋人となることを許してくれたくらいなのだから、その、そういうことも、少しは望んでくれているってことだもんね?

 大胆な行動を起こしてみても、気持ち悪いと通報されたりはしないはず。

 そんなことを考えるけれど、それを実行出来るだけの力を生憎持ち合わせていなかった。

「ありがとうございます。コノは今、本当に幸せなのです。アナタの、おかげですっ……。だから、ありがとうございます。それと、堂本さんではなく、コノちゃんですよ?」

 楽しそうな声が聞こえてきた。

 幸せと言う彼女は、それが嘘ではないと簡単にわからせてくれるくらい、本当に幸せそうな声をしていた。

 彼女のこの嬉しそうな声が、幸せそうな声が、俺のために発せられているのだと思うと、俺が少しでも貢献出来ているのだと思うと、それだけで俺も、嬉しさの波に吞まれそうなくらいだった。

「俺も、とても幸せです。ありがとうございます、コノちゃん」

 照れながらにはなってしまったけれど、堂本さんではなくコノちゃんと呼び、俺は振り向いた。

 彼女の幸せそうな微笑みに、幸せな微笑みで返し「さようなら」と告げる。

 さあ、下校時間だ。

 帰るのは相変わらず一人だけれど、この満たされた心は寂しさや空しさという感情を全て追い出してしまったようだった。どうしよう。


 ①キスをする ②抱き締める ③帰る


 ーここも③を選びますー


 スキップしたい気持ちを抑えて、今度こそ鞄を手に取り荷物を詰めていく。

 これから部活だと言っていた割に、彼女は俺が教室を出るまでずっと隣で俺に微笑みを向けていてくれた。

 何を言うわけでもない。二人して微笑んでいるだけ。

 言葉のないその空間が、照れくささを生み出しているのがなんだかおかしくて、笑いを零すと俺は再び「さようなら」と言った。

 明日また会えるのに、さようならは寂しいだって? そんなのは、悲恋ものだからさ。

 俺と堂本さんの幸福な恋の中には、どんな言葉だって幸せとなってくれるのさ。

 校舎を出てからは、もう抑えきれなくなって、周りの目も気にせず俺はその日スキップで帰宅した。

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