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堂本さんは、いつまで諦めずにいられるのだろうね。
彼女は意外と負けず嫌いなところがあるようだから、授業が終わってしまわなければ良いのだけれど。
「もうわかりません。コノは可愛ければなんでも良いので、助けを求めてはいけないでしょうか? 審査員側に回りたいです」
あれ? 負けず嫌いだと思ったのは、完全に気のせいだったらしい。
早過ぎて面白くないくらいに、堂本さんは一瞬でギブアップ宣言をした。どうしよう。
①許可 ②却下 ③応援
ーここで①を選ばないわけにもいかないでしょうー
どこまでいっても堂本さんは無理そうなのだから、いずれは俺の方から助けを呼ぶつもりでいた。
もう少し粘ってくれれば、彼女の救援要請にも、迷わず応じることが出来るだろう。
それなのに。堂本さん、諦めるのが早いよ……。
しかし彼女が助けを求めているのに、それを断るわけにはいかない。そうしてしまうと、後で助けを呼びづらい。
最終的に、堂本さんの出した意見の中から、採用案を見出すことになってしまうかもしれない。
それは困る!
「良いですよ。考えてもらいたい方に、ご自分でお願いされれば良いでしょう?」
「はいっ!」
俺が許可すると、堂本さんは嬉しそうに返事をした。
そうして、即座に山内さんを捕縛する。
暇そうにしている花空さんではなく、黙々と作業をしている山内さんを捕まえるところが、堂本さんらしいのだろう。
迷惑を考えないという意味では、もちろんない。
俺が自分でお願いしろと言ったものだから、山内さんの方へ行ったのだろう。
最初は花空さんに話し掛けようとしていて、それを諦めたのが見てわかった。
粘り強さも負けず嫌いさも、なんだか欠片ほどもないような気がしてきた……。
「堂本さんの名前を使って、可愛いあだ名を考えるんですね? 可愛いというのが、自分のセンスで考えて良いものかわかりませんが、考えてみようと思います」
呻き声のような低い声を漏らしながら、山内さんは考え込む。
「……思い付きませんよ。普通な感じで良いのなら、コノちゃん、なんていかがでしょう?」
そう! そういった普通なので良いんだよ。さすがは山内さん。
提案している彼は、とても恥ずかしそうにしているようだけれどね。
採用したら実際に呼ぶことになる俺よりも、ここで一言口にする山内さんの方が、恥ずかしそうに見える。
それはつまり、山内さんは自分が恥ずかしくて言えないのだから、恥ずかしい答えが出てこないということである。
だったら、初めから山内さんが一番の適任だったんだろう。どうしよう。
①採用 ②不採用 ③堂本さん判断
ーここでは一応③を選びますー
俺としては、少し恥ずかしいくらいなので、採用したいと思う。
あほな感じもバカップルな感じもせず、それなのにカップルらしさはある。
求めていたのはこういうのなんだろうと思うね。
「うぅん、微妙ですね。しかしまぁ、可愛いは可愛いですし、コノはそれで良いですよ」
却下はしなかったけれど、堂本さんの方はピンときていない様子。
どうしてなのだろうね?
なぜだか上から目線な物言いなのは、審査員側に回ったから、ということで良いのだろうか。
謎の設定に不思議と従順なものである。
「俺も、それくらいなら呼べると思うし、可愛くて良いと思う」
拍手が起こる。
俺が良いと思うと言った途端に、拍手が起こった。
驚いて音がした方を見ると、全く関係のないことで、恥ずかしくなったわけだけれど。
リア充間の話し合いの中で、拍手が起こるような何かがあったのだろう。
「これで決定だな。二人の意見も一致したようだし、クラスの皆も拍手で賛成してくれている」
審査員どころから審査員長くらいの雰囲気を放ちながら、花空さんが言う。
タイミングがぴったりだっただけに、あの拍手をエキストラとして利用するってことなのかな。
まさか本当に俺たちのことを拍手しただなんて、さすがの花空さんだって思いやしないだろう?
そういった設定で行くのなら、訂正も面倒だし乗ろうじゃないか。どうしよう。
①喜ぶ ②照れる ③怒る
ーここでは②を選択致しますー
コノちゃん。
まだ、一度も口に出して言ったことがない。
本当にそう呼べるだろうか。いざ呼ぼうとしたら、口を開いた瞬間に、きっと恥ずかしくなってしまうに決まっている。
それを耐えて、逃げ出さずに、本当にそう呼べるだろうか。
急激に自信がなくなってきたけれど、ここでやっぱり無理なんて言えるはずがない。
でも顔が赤くなっていくのを感じる。
「なんだかこういうのって、とても照れますね。恋人になったからといって、呼び方を決めるだなんて……。そもそも呼び方なんて、自然に変わっていっているものですのに。急に変えたら、恥ずかしさや照れが増すではありませんか」
頬をほんのり赤く染めて、目を逸らす堂本さんが可愛いから、俺は何も言わない。
けれども、それは俺のセリフなのではないだろうか。
呼び名を変えようとそもそも言い出したのは、俺ではなく堂本さんの方だ。
最初に言い出したのは? といったら、俺と堂本さんのどちらでもなく、花空さんになるのだけれど。
「ひゅーひゅー! 新婚熱々って感じで良いな! 羨ましいぜ! ひゅーひゅー」
茶化して来る花空さん。こいつが全ての元凶である。
そう思ったら、周りでこんなに騒がれたら、腹が立つのではないかと思った……。
でも、今は怒りだなんて気持ちはどこにもなく、嬉しさと照れだけが俺の中を満たしていた。
花空さんの茶化しすら、なんだか嬉しく感じられてしまうくらいである。
「し、新婚? そんなんじゃないですよ。それに、付き合ってすぐに結婚とか言い出したら、重い彼女だと思われてしまうではありませんか……」
恥ずかしそうにしながらも、その小さなところを気にしている乙女な堂本さん。可愛い。
一つ残念なところを挙げるとしたら、それを俺の前で言ってしまうところ。
重い彼女だと思われてしまう。という言葉を、彼氏の前でだれが言うのだろう。
だけど堂本さんがそんなに気にしてくれていると思うと、……嬉しかった。どうしよう。
①重いのなんて嫌々 ②軽いよりは良い ③重いくらいで良い
ーここでも②を選ぶとしますー
想ってくれているのは、想われていないのよりも良いに決まっている。
だから、少しくらい重い愛だったとしても、軽いよりはよっぽど良いだろう。
それに俺はヤンデレキャラも嫌いじゃないくらいだし。
「想いが軽い方が嫌だよ。軽いんだったら、想いは重いくらいで良い」
堂本さんを励ましたつもりだったのだけれど、言った瞬間に笑われた。
そして俺もすぐに気が付いた。
決して狙って言ったわけではないのだ。こんな残念なダジャレ、狙って言うわけがない。
しかし狙っていないからこそ、だからこそ恥ずかしいのだ。
「そうですよね。重い想いが良いですよね。ふふっ、そのお言葉を頂けて、なんだか元気が出ました。ありがとうございます」
どういう意味だろうね?
重い想いのところを強調しているみたいだけれど、どういう意味があるんだろうね?
もう嫌だ。恥ずかしいよ。どうしよう。
①開き直る ②顔を隠す ③逃亡する
ーここも②を選ぶとしましょうかー
言われるほどに恥ずかしくなるので、俺は熱くなっていく顔を両手で覆った。




