ど
俺は山内さんのことをイメージでしか知らないように、反対もそうなのだろう。
そうしたら、そのイメージと花空さんの存在は、きっと真逆に近い場所にある。
それで驚いただけのことなのだろうね。
「堂本さんが心配ですし、急いで戻るとしましょうか」
用紙を先生から受け取ると、二人で小走り気味に戻った。
二人きりで残された堂本さんが、気まずさで気絶しているかもしれない。
残されるのが嫌で俺が行ってしまったのだから、二人きりとなった堂本さんとしては、俯くくらいしか出来ないだろうからね。
もしかしたら、俺が思っている以上に堂本さんが社交的で、二人が仲良くなっていたりして?
とか思いながらも戻ってみると、想像通り、堂本さんは全く目を合わせず俯いてしまっている。どうしよう。
①励ます ②救う ③心配
ーここは①となりましょうー
置いていってしまったお詫びも込めて、彼女を救って見せようかと思ったのだが、一先ずそれは諦める。
今は残念ながら、花空さんテンションになれる気がしないからだ。
その代わりとして、俺は堂本さんを励ましてあげようと考える。
何があったのかは知らないけれど、目を逸らしているだけでなく、彼女は微妙に落ち込んでいるようにも見える。
きっと花空さんが放った、無意識の刺に刺さったに違いない。
「元気を出して下さい。堂本さんのことは、俺がお守り致しますので、一緒に頑張りましょう」
応援のような、励ましのような言葉を堂本さんに掛けてあげる。
どちらもなんとなく違うような気がしないでもないが。
「アナタに守ってもらうほど、コノは腐っちゃいませんよ。でも、……ありがとう。とても嬉しいです、本当に、本当に」
「グサッ」
落ち込んでいるというか、怒っているのだろうか。
笑顔でかなりの毒を吐いてきた。
俺の心の大打撃である。守ってあげるだなんて、何様感はあるかもしれないけれど、そう言われると傷付くなぁ。
ただ、彼女の笑顔は、本物だったと思う。
嬉しいという言葉が嘘でないのだと教えてくれるような、素敵な笑顔。
もう何もかもがどうでも良く思えるような、美しくて可憐で、なぜだか華やかさに切なさを添えるような笑顔。
でもそんなところが堂本さんらしいような気もして、そう思うと……。
俺は完全に、彼女の魅力に魅せられちゃっているんじゃないかな、と感じる。
友だちとは言えないほど。どうしても、意識してしまうほどに。どうしよう。
①本人に伝える ②告白する ③隠しておきたい
ーここは③となってしまうのですー
これから修学旅行だというのに、意識してしまってどうするのだ。
同じ部屋でなんか、過ごせなくなってしまうじゃないか。
ここで告白をしてしまったら、彼女は軽蔑するに決まっている。堂本さんだけじゃなくて、他の皆だってそうに決まっている。
このために彼女に近付いて、同じ部屋で過ごすときを、良からぬものにしようという欲望を働かせているように思われてしまう。
そんなつもりはないのだ。
彼女の笑顔に魅力を感じた、彼女と一緒にいたいと思った。
彼女を汚すような真似はしたくないと、そう思うのだ。
だから、だからこそ、彼女への想いは隠しておかなければならないのだろう。
友だちを失ってしまうのが怖くて、隠しておきたいと自分で思っているだけかもしれないけどね。
綺麗な理由を持ってのことか、醜い理由を持ってのことか、理由は自分でもわからない。
けれど、俺は堂本さんと友だちでいたいのだ。
彼女は大切な友だちなのだと、自分に言い聞かせてでも。
「黙り込んじゃって、そこまで凹まれているんですか? コノなんかの言葉で凹むようじゃ、まだまだですよ。リア充たちの刃には、抗うことも出来ないでしょうね」
楽しそうな笑顔で俺の顔を覗き込んで、堂本さんはそう言ってくる。
近くに見える彼女の顔に、鼓動が早くなってくる。どうしよう。
①強がる ②目を逸らす ③言い返す
ーここは②になってしまいますー
なんだか照れくさくて、目を逸らしてしまう。
すると俺の照れが伝わったかのように、堂本さんの顔も見る見る赤くなっていく。
「あっコノ、あぁ、ごめんなさいっ! ちょっと、調子に乗り過ぎてしまいました。ごめんなさい」
彼女が急に顔を離したのは、俺の鼓動の音が聞こえたからなんじゃないだろうか。
そんなわけないのに、心配になってくる。
「二人とも、付き合ってんのか? なんか、カップルみたいだな。ファンきっかけで、お互いに惹かれ合っちゃったような奴か?」
花空さんのこの言葉、ナイスと言うべきか、空気を読めと言うべきか。
ただでさえ二人して恥ずかしさに襲われているこの場面で、その、そんな質問はないよな。
でも本当にそうなったら……。なんて期待している俺からしてみれば、背中を押してくれるような言葉にもなり得るわけで。
だけどこの場面で告白はしないと結論が出たばかりだから、やはり恥ずかしさが増すばかり。
悪意は全く感じられないのだから、咎めるつもりはないけれど、もう少しだけ空気を読んで欲しい。
そんなことを言われたら、もう、更に恥ずかしくなるしかないじゃないか。
そして、この場面でも欠かさないファン設定が、さすがと言える。
はて。どこまでが本気でどこまでが冗談だかわからない人だな。
ここで何も答えなかったら、きっと更に余計な言及をされてしまう。どうしよう。
①嘘 ②理想 ③希望 ④真実
ーこんなに選択肢があるのに④を選んでしまいますー
本当は理想でも、嘘でも、付き合っているのだと言いたい。
付き合っていると言えたなら、楽になれるのだろうか。
それとも堂本さんを困らせてしまうだけなのだろうか。
付き合っている設定。を守るために恋人役をしていて、本当に付き合うことになっちゃうだとか、期待してはいけないのだろうか。
はぁ。これ以上設定を増やしたくも、堂本さんを困らせたくもない。
変に思われても困るから、正直に答えるしかないのだろう。
「堂本さんとは、ただの友だちですよ。友人、フレンドです」




