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 天沢さんはとても綺麗な人だ。

 外見もそうだけれど、やはり彼女は良く出来た内面をまず褒めるべきである。

 あんなに素晴らしい人は、他に存在しないだろう。

 しかし琴音さんは、勝らずとも劣らない、天沢さんのライバルと呼ぶに相応しいほど魅力的だ。

 俺はどちらかと言えば天沢さんの方に思いが傾いているのだが、それは、彼女との方が親しくしているからだ。

 同じように琴音さんと時間を過ごせば、きっと琴音さんの方が魅力的に見えただろう。

 それくらいに、二人はそれぞれの魅力を持っていて、どちら派かなんて選べないものなのである。

 むしろ、他の人はどうして選べているのだろうか。

 天沢派だとしても、琴音さんに話し掛けられたら赤羽派に変わるに決まっている。逆もしかりだ。

 本人たち二人がライバルとして火花を散らしているから。そうでなければ、皆も両方を好きというに決まっている。

 だってどちらも本当に素敵な人なんだから。


 なんて、ゲームの中の女の子を口説きながら、俺はなんてことを考えているんだろうね。

 ゲームに集中しているというのに、その中でリアルのことを考えるなんて俺らしくもない。

「珍しいですね。ゲームの最中に、何を考えていらっしゃるのですか。もしかして、修学旅行のことでしょうか」

 もっと集中してゲームをしようと頭をリセットしようとすると、隣から掛かる堂本さんの声。

 八百屋赤羽の前で、二人と話をしたのはもう三日も前のこと。今の時間はお昼休み。

 さっさと食事を終えて、いつものように俺と堂本さんはゲームをしていた。

 しかし俺はゲームの世界に入れないくらいに、彼女たちのことを考えてしまっていたのだ。

 そして堂本さんもそのことに気が付いたらしく、俺に話し掛けてきた。

 本来ならば、集中していたならば、お互いに話し掛けるなんてありえないことである。

 それほどまでに、俺は動揺を露わにしてしまっていたのだろう。

 何を考えていたのかと、彼女は問い掛けてきた。どうしよう。


 ①ゲームのこと ②本当のこと ③修学旅行のこと


 ーここで③を選んでしまいますー


 丁度良い。

 今日の午後は、修学旅行についてのことが話されるらしい。

 どうせ班を決めたり、担当やら実行委員やらを決めたり、そんなところだろう。

 あえて気にはしていなかったけれど、考えただけでも吐気がするほどに参加したくない授業だ。

 グループやペアを作る時間は、ぼっちにとって何よりも苦しい時間なのである。

 そのことを、学校側も理解するべきなのではないだろうか。

「修学旅行ですよ? 楽しそうにはしゃいでいる中を、輪に入れず一人で突っ立っている。観光したいのに、ぼっちの希望なんて通らない。結局、行きたくもない場所で、仲良くない人と同じ時間を過ごすだけなんです。その苦しみを、堂本さんも理解して下さるのでしょう?」

 別のゲームのことを考えていた。あはは。

 そう言って流せば良かったのだろう。

 それだけのことだったろうに、なんでこんな感じ悪いことを言ってしまったのだろうか。

 普段からほとんど何も言わないくせに、なんで余計なことだけ、言わなくても良いことだけ言ってしまうのだろう。

 堂本さんが俺と同じ思想の持ち主でいてくれて良かった。心からそう思うよ。どうしよう。


 ①抱き締める ②盛り上がる ③溜め息


 ーここはなんと②を選べるのだそうですよー


 そんな彼女となら、クソみたいな話題でも盛り上がれるから。

「ええもちろん。小学校、中学校と経験してきているのですから、コノも良くわかっていますよ。本当にもう、一人でなら楽しめるのにっ! 旅行を楽しませて下さいよっ! なんで行きたい場所があるのに、行きたくもない場所に連れて行かれて、興味のないことに金を払わされて、信じられないんですけどっ!」

 失礼な問い掛けだとは思ったが、彼女が「もちろん」と答えるであろうことはわかっていた。

 堂本さんなら間違えなく、迷わずそう答えると俺も思った。

 しかしその後に続く言葉は、かなり予想外である。

 控えめで、彼女はほとんど自己主張をしない。好きなキャラクターのことになると、ときどき燃え上がることもあるけれど、彼女の自己嫌悪やネガティブはいつだって健在していた。

 そんな堂本さんが声を荒げるなんて。ましてや、愚痴のような内容で。

 珍しいを通り越して、俺もらしくないことをしてみようと、そんな気持ちにさせる力さえ持っていた。

 勇気を与えてくれた。そういえば、良い意味に聞こえるかな。

 実際のところは、相手が愚痴を言ってくれたおかげで、こっちも言いやすくなったと言うだけのことなんだけどね。

「決定権どころか、拒否権すらないんですから、ひどいものですよね?」

「本当です。コノごときの希望を聞き入れてもらっても、それはそれで申し訳なさで楽しめないと思いますが、ですがあまりに強引なのはコノだって反対したいです。行きたい場所を聞かれても、大丈夫、としか答えないと思いますが、せめて意見を尋ねるだけでもしてくれればいくらか違いますのにっ」

 ゲームをセーブしてバッグにしまうと、結局、昼休みが終わるまで愚痴を言い続けてしまった。

 午後の授業が嫌なのは変わらないが、なんだか、少しばかり楽になったような気がする。どうしよう。


 ①張り切って行こう ②耐えよう ③耐え抜こう


 ーここでは③を選びましょうー


 これならば、最後まで耐え抜けるかもしれない。

 それにきっと堂本さんは俺と同じ班になってくれる。

 確信は持てないけれど、俺と同じ人がいてくれると思うと、ずっとずっと心は楽になっているのであった。

 やっぱり堂本さんは、俺にとって大切な友だちなんだって思うよ。

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