表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/223

 ド変態だけれど、清純な香りがするんだ。

 直接そう言ったら天沢さんは怒るだろうか。彼女なら、喜ぶかもしれないな……。

 何にしても、彼女のことが本当に、俺は好きになってしまっているんだろう。

 どれくらいなんて表すことも出来ないほどに。どうしよう。


 ①告白 ②逃亡 ③帰宅


 ーここで③を選んでしまうのだそうですー


 もう、ここにいることすら、耐えられないほどに……。

「時間も時間ですわ。そこのお方も帰られたいご様子ですし、何も買うものがないのなら、帰っては頂けないかしら? 店の空気を悪くしないで下さいませ。美海さんのオーラに、野菜たちも苦しんでおりますわ」

 そろそろ帰っても良いですか? なんとかタイミングを見てそう言おうとしていたところでの、琴音さんの言葉であった。

 さすがと、そう称えるべきなのだろうか。

 俺の心の中を本当に読んだのだろうか。

 そんなわけはないのだが、琴音さんの言葉には、そう思わざるはいられなかった。

 ただ単に、俺がわかりやすくて、顔に全て出ていたって、それだけなのだろう。だけれど、観察力や気の遣い方を、琴音さんは特技ともいえるほどに極めているのだと。

 そのことは伝わってきた。

 きっと彼女の人気は、外見だけでなくてそんなところからも来ているのだろう。

 天沢さんは完璧だ。

 どこを見ても、欠点らしきところなんて見当たらない。

 学校での振る舞いを見る機会はほとんどないのだけれど、彼女と出会ってから、少しずつ学校での彼女の姿も見るようになった。

 完璧をそのまま形にした感じだ。

 完璧の擬人化キャラ、パーフェクトくんがいたなら、天沢さんと重なったことだろう。

「帰りたいのですか?」

 こうしてわざわざ問い掛けてくる。寂しがりやなところは、彼女の欠点なのだろうか。

 まさか、そんなはずがあろうか。

 パーフェクトくんが寂しがりやだったら、だれしもギャップ萌えにやられると俺は思う。

 帰りたいのかと問えば、俺がそんなことないと答えると思っての問いなのかもしれないが。

 本当に俺と一緒にいたいと思ってくれている、という上での仮定なんだけどね。

 だけど俺のことが好きなら、俺の優しさに縋ってでも、甘えたい……一緒にいたいと思うものだろう。

 そんなものは自意識過剰乙な、残念系妄想でしかない考えだろうけれどね。どうしよう。


 ①帰りたくない ②帰りたい ③一緒にいたい


 ーここは②を選ぶようですー


 彼女はただ、俺の反応を見て楽しんでいるだけかもしれない。

 だとしたら俺は、対応力を持っていない俺は、早々に退却しておくことが正しい選択といえるだろう。

「お二人と過ごす時間は永遠に続いてほしいものですが、時間は残酷にも過ぎていきます。残念ではありますが、そろそろ帰らなければいけないのです」

 もうちょっと国語の勉強をしておくんだった。

 言葉にしていってしまった後、俺は途轍もない後悔の念に襲われた。

 一生懸命丁寧な言葉を選ぼうとした結果、痛いポエムのようになってしまった。

 ゲームのやりすぎ、というのだろうか。

 ラノベばかりでなく、文学作品もたまには読まないといけないなぁ。

「そういうことですから、さようなら、美海さん。わたくしも応援して差し上げましょうかしら。それとも、恋のライバルにでもなって差し上げましょうかしら」

 怪しい笑みを浮かべて、琴音さんは手を振る。

 その姿はあまりに優雅で、見惚れてしまいそうになった。

 しかし帰らなければいけないのだと口にしたばかりじゃないか。そう、帰らなければいけない時間なのだ。

 だからここで琴音さんに見惚れているわけにはいかない。

 それだと完全に、琴音さんと過ごす時間はあっても、天沢さんと過ごす時間はないのだと。そう言っていることになってしまうからだ。

 帰らなければいけない。どうしよう。


 ①琴音さん ②天沢さん ③帰る


 ーここは③です、もちろんねー


 もしかしたら、ここでの選択は、学校に入学した時点で、選択しておくべきものだったのかもしれない。

 多くの生徒がもう既に結論を出したのだろうが、友だちがいないせいで、俺はその選択肢を与えられることすらなかったのだろう。

 赤羽琴音派か、天沢美海派か。

 どちらも好きなんて答えは用意されていない。

 この学校にいる限りは、どちらかの宗派に最初からつかなければいかなかったのだ。

 今の俺が立っている状況は、琴音さんと天沢さんのどちらを選ぶかじゃない。

 俺が特別になって、用意された選択肢なんかでは、全くない。

 全員が選んでいるはずのものだったのだろう。

 そうなのだとしたら、ゆっくり迷うためにも一人でいるのが良いのだろうか。

 最終的にどうなるのだとしても、今は帰るのが一番なのだ。

 だってもう、帰るんだと言ってしまったのだから。

 ”恋のライバルにでもなって差し上げましょうかしら”

 頭の中で、琴音さんの声が木霊しても、今の俺には大人しく帰宅することしか出来ないのだ。

 それに彼女の楽しそうな、怪しい笑みを見たはずである。あれは、俺と天沢さんに仕掛けた罠なのだろう。

 彼女は遊んでいるだけ。そうに、決まっている……。

 天沢さんと琴音さんが俺のことを取り合ってくれたら、なんて、思わないわけではないんだけどね。

 叶うはずのない。大き過ぎる願いだからこそ、反対に願いやすいというものだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ