ず
買い物に行くと言っただけだというのに、迷わずに走って行っている。
これでは、買い物に行く場所が一つしかないみたいではないか。
彼女はどこに向かって走っているのだろう……。どうしよう。
①尋ねる ②止める ③別方向へ
ーここも①を選びますー
どこまで走って行ってしまうつもりなのか。
止めようと思ったのだけれど、俺が止めた声なんて一つも聞こえていないらしい。
「天沢さん、あなたはどこを目指しているのですか?」
やっと俺の声が届いたようで、彼女は答えを返してくれる。
「そんなの八百屋赤羽に決まっているではありませんか。琴音さんに見せつけて差し上げましょうっ」
商店街へ向かっているのは予想通りだけれど、目的地がまさか八百屋赤羽限定だとは思わなかった。
まして買い物に行きたくなったとふいに言ったのに対し、なぜ、八百屋を目指そうと思ったのかが謎である。
八百屋赤羽は俺もかなりよく行く。
よく行きはするけれど、今このタイミングで野菜を手にしても困る。どうしよう。
①賛成 ②反対 ③別方向へ
ーここも①を選ぶのだそうですー
しかし野菜を手にしたら、帰らざるを得なくなるのではないだろうか。
すぐに腐るものを購入するか? でもだとしても、たった数十分の間に腐ったりするかな。
そのことを考えたら、白菜とか大根とか、持ち歩くと邪魔になるくらいのものを買うか。臭いの強いものを買うというのもある。
どうしても天沢さんから離れたいとか、そういうわけではない。
もちろん、天沢さんと一緒にいたくないだなんてことはありえない。
全てにおいて理想と呼べる天沢さんを、どうして拒むことなど出来ようか。
傷付けたくないからこそ、今は天沢さんと一緒にいるべきでないと俺は思うんだ。
「仕方がありませんね。天沢さんが八百屋赤羽へ行きたいのなら、俺もご一緒しますよ。俺はただ、買い物に行きたくなっただけですから」
帰ろう。今日はもうお家に帰ろう。
「いらっしゃいませ、美海さん」
天沢さんのライバルとされる、三年生のもう一人の美女。赤羽琴音さんが、八百屋赤羽に着いた瞬間に出迎えてくれる。
いつもはそんなに店先に出ない人なのだろうが、今日は偶然ここにいたのだろうか。
それとも、天沢さんが来るのを感じて、琴音さんは出てきたのだろうか。
そして彼女たちはバチバチと火花を散らしていて、俺なんか見えていないようである。どうしよう。
①この隙に ②愛を叫ぶ ③見ている
ーここは③になるのですー
この隙になら、逃亡することも十分に出来ただろう。
しかし俺はそれをせずに、二人の姿をただ見ていることしか出来ずにいた。
二人の気迫に圧倒されているのだろうか。
それとも、ただ単純に、二人の美しさに見惚れているだけなのだろうか。
「そのお方とはどういう関係ですの? 遂にご結婚なさる相手を決めたと言いますのかしら」
俺がぼーっと二人の姿を見ていると、不意に琴音さんからそんな言葉が聞こえてきた。
彼女が言うそのお方というのは、きっと俺のことを指すのだろう。結婚相手とは、それはどういった意味なのだろう。
もしかして、俺が天沢さんの結婚相手ということ?
勝手に妄想して、勝手に嬉しくなって、勝手に照れくさくなって、そんな自分が恥ずかしくなった。
顔が赤くなっているのが、鏡を見なくたって自分でわかった。
「さて、それはどうでしょうね。いずれは結婚も考えていますけど。まあ、外見だけの琴音さんとは違って、私は内面まで良く出来ているので、すぐに素敵な相手が見つかって当然です」
結婚も考えているっ?
それは売り言葉に買い言葉的な感じで発した言葉なのだろうか。
それとも本当に、天沢さんは俺のと結婚を考えてくれているということなのか。
天沢美海という存在を破る力を持っていれば、結婚も考えてくれるのだと、彼女はそう口にしてくれた。
でもここでいずれは結婚を、なんて答えてくれたということは、いずれは俺が天沢さんを救えるのだと、期待してくれているということで良いのだろうか。
そう考えると、天沢さんに飛びつきたくなるくらい嬉しくなった。どうしよう。
①飛びつく ②暴言 ③微笑む
ーここも③となりましょうー
しないけどね。
飛びつくだなんて、本当にそんなことをするはずがないじゃないか。
「あらまぁ、随分と可愛らしい方ですのね。美海さんのことだから、もっと趣味の悪い方を見つけると思っていましたのに、少し意外ですわ。それにファンが山ほどいますのに、その方はファンでもないじゃありませんの。どうして選ばれたのか教えてほしいところですわね」
「なぜそのことをご存知なんですか? どのようにして、彼が私のファンでないのだと見抜いたの? そんなの、そう簡単にわかることじゃありません。だってほとんどが私のファンなのですから」
ファンが多いのは自他共に認めていることなのだろう。
俺だって二人は美人だと思うし、ファンの行動を実際に見たことはないにしろ、ファンがいるというのは容易に想像出来る。
しかし相変わらずな発言だなぁ、と感心してしまうものだ。
「その人、わたくしのことをご存じないと仰るんですのよ。面白いお方ですわよね。美海さんのファンでしたら、わたくしのことも知っているはずじゃありませんの。だからファンではないと考えただけですわ」
楽しそうに琴音さんは視線を向けてくる。それとは反対に、天沢さんは恨めしそうな視線を向けてきていた。




