ざ
このまま、天沢さんと一緒にゲームをするのか。
時間も時間だし、天沢さんのことだ、夜になればきっと、危ないから泊まっていけとか言い出すに決まっている。
そうなってからでは、何を言っても聞かないだろう。
いつの間にか俺が流されていて、天沢さんの家に泊まらされる。
それは少し、夢があまりに多くて……どうしようもないよ俺には。どうしよう。
①帰る ②本題に ③残る
ーここで①を選んでしまうのだそうですー
天沢さんはゲームを漁り始めている。
この間に帰るとなると、まるで逃げ出したかのように思われてしまうだろう。
しかし帰らせてくれるかどうかわからないし、逃げ出すというのも道かもしれない。
天国と地獄は同じもの。
家を知れたのは良いことだけれど、泊まるとどんな危険があるかわからないからね。
「どこへ行くんですか?」
バレずに逃げ出せるはず、なかったみたい……。
そーっと立ち上がり、そーっと歩いて、そーっと靴を履いた。
そしてドアを開けると、そのタイミングを見計らっていたかのように、天沢さんは尋ねてきた。
立ち上がっただけならば、トイレとでもなんでも言える。
最初から気付いていて、言い逃れの出来ない完全なる現行犯を狙っていたというわけか。どうしよう。
①帰ります ②買い物に ③トイレに
ーここでは②でも選んでおきますかねー
靴まで履いてしまっているのだから、用事が家の中にないことは明らか。
だけどここで帰宅すると正直に言ってしまえば、確実に捕縛される。「私を置いていくの?」みたいな感じに言われたら、そのまま去るなんて絶対に出来ないからね。
脅されるか、あざとく攻められるか、どちらにしても、素直に帰れる場所じゃない。
天沢さんの家にいるという幸せのせいで、気付くのがかなり遅くなってしまった。
ゲームを教えてくれと手に取った時点で、帰らせる気がないのだと、俺は漸く気が付いたのだ。
明日だって学校はあるんだし、今日は泊まるわけに行かない。別の日にまた。
素直なその言葉を、天沢さんは聞き入れてくれるだろうか。
そもそも、自意識過剰なのでは? 俺の勘違いだろう、そうなんじゃないだろうか、きっとそうだ。
だって天沢さんが俺を拘束して、強制的に家に泊まらせる理由がわからないだろう。
「あ、えっと、買い物にでも、行こうかと……思いまして……」
だから帰るって正直に言えば良い。そう決めたところなのに、俺はそう言ってしまっていた。
変だな。
自分の中で結論が決まってから、違うことを言ってしまっている。
これは、天沢さんに魅せられているってことなのかな。
「買い物? 何か必要なものでもありましたか?」
彼女も彼女で、適当な嘘を言う俺をからかおうとしているのが見え見えだ。
大人しくからかわれるつもりはないけれど、買い物と言ってしまった以上、その設定を引きずりながらいかなければならない。
天沢さんの魔の手から逃れるのは、容易ではないのだろうね。どうしよう。
①ある ②ない ③帰りたい
ーおや? ここでも②のようですー
しかし買い物に行くといったからといって、必要なものがあるとも限らない。
咄嗟に何を買うのか思い付かなかったのなら、何もなくしてしまえば良い。
「いいえ、特にありませんよ。ふと、買い物に行こうかなって、そう思っただけです」
こう言った時点では、敗北宣言ではないと思った。俺にもまだ勝機は残っていると思っていた。
言い終わった後も、どこがいけないのかわからなかった。
一瞬だけ輝いた天沢さんの瞳を見れば、どこかがいけなくて、もう完全なるバッドエンドを辿ってしまうことは嫌でもわかったけれどね。
丸ではないけれど、今の答えは罰でもないはず。三角といったところだろう?
少なくとも、敗北まっしぐらというほどの失敗はしていないだろうに。
輝く瞳、逸らされた目、俯く悲しげな表情。天沢さんの態度を見れば、彼女が勝利を確信したのはわかりきっている。
でも、どうして……。
「私の家、そんなに居心地悪かったですか? それだったら、帰ってくれても、大丈夫ですよ? 無理しないで下さい」
そういうことかっ! あぁーー!
俺の言葉を聞いてすぐに、彼女は”居心地悪かったですか”が思い付いたのだ。
だからあれだけ自信たっぷりな、勝利を確信したかのような態度でいられたのか。
そもそも友だちだと言っているのに、俺と天沢さんはなぜ勝負をしているのだろうか。それ以前に、勝負ってどういう基準なんだろう、これ。
なんてそもそも過ぎることが不思議になってきてしまったが、気にしない。
だって大切なのは、勝負をしている理由とか、勝負のルールとかじゃなくて、負けられないってところなんだから。
間違えないで欲しいのは、お互いにお互いのことが、嫌いなわけではないってこと。
だけど困らせ合って楽しんでいるのだとしたら、とんだドS二人かもしれないね。どうしよう。
①買い物に行きたい ②帰りたい ③ここを出たい
ー仕方がありませんから①で行きましょうー
まあ、ドM二人だって取り方も出来るかもしれないけどさ。
言っている側じゃなくて、言われている側が喜んでいるような気もするし。




