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女性を守れる強い男になりたいのに。
本当は、天沢さんだって、弱い人なんだ。女性なんだ。
俺が守らなければいけないし、俺が守るべきなんだ。
強そうな彼女は、強い鎧を身に纏っているだけで、とてもとっても弱いのに。重い鎧のせいで、動けなくなるくらいに、か弱い女の子であるのに。
やはり勇気が出せず、俺は俯くばかりであった。どうしよう。
①勇気を探す ②勇気を拾う ③勇気はいらない
ーここは①となりましょうかー
もっと肉食系な男子になれたりなんか、したらな……。
なんて願っている時点で肉食系男子になんてどう頑張ってもなれないわけで。
俺は女の子に近付こうと思う前に、勇気を探し出してこなければ、女の子と仲良くなんてなるのも失礼なのではないだろうか。
そう、思い始めてきていた。
「……天沢さんは、俺のこと、試しているんですか……?」
出直してきた方が良いのかな、そう思って立ち上がろうと、俺は思っていた。
しかし俺の口は勝手に、天沢さんに対してそんなことを言ってしまっていた。
失礼なことを言ってしまったと、慌てて訂正しようとするのだが、天沢さんは楽しそうに笑って返してくれた。
心底楽しいかのように、笑ってくれた。
馬鹿にしたようなものではなく、楽しそうな笑顔であった。
完全に笑われているだろうに、不思議と嫌な気にはならない笑い方である。
「ええ、そうなのかもしれませんね。今日だって、ただ君と会ってお話がしたかった、君のことをもっと知りたかった、それだけですし。本当は今日の時点では何も決まらないって、わかっていたのかもしれません」
ただ会って、話したかった。もっと知りたかった。
用があるわけでもなく、そんな理由で会うことが出来るのは、もう恋人としか言いようがない。
わかっていたのかもしれない。と、自分のことだというのに、他人の気持ちを推測するかのようなのも、天沢さんらしいのかな。
これじゃあ、更に帰れなくなってしまったよ。
ここで帰ったら、俺は怒っているみたいじゃないか。
そりゃ当然帰りたいなんてそんなわけはないんだけど、もう、わからなくて。どうしよう。
①帰る ②もうちょっと ③泊まる
ーここは②で良いのではないでしょうかー
でも天沢さんが拒絶していないのなら、もうちょっとだけここにいたい、なんて思ってしまっていて。
俺はどうしたら良いんだろうって、考えても考えても答えなんてないから、結局は俯いてしまうしかなくて。
そうしたら、天沢さんが笑ってくれた。
「気を遣う必要はないのですよ? 今の私は女王様じゃないのだから、私を対等なものとして見て下さい。まあ、従順な犬になりたいというのなら、それも構いませんがね」
……最初から天沢さんが望んでくれていることは、一つだったんだ。
それがなんなのかわかった気がして、俺は、なんだか楽になっていくのを感じた。
ただ会いたかったのは、恋人だとか、そういったことではない。ただ一緒にいて、笑い合いたい、傍にいて欲しい、それは、友達になって欲しいということだったんだ。
だから俺を家に呼んだ。だから彼女は、理由じゃなくて、俺を誘った。
デートだなんて、それも彼女が本当に望んでくれていることなのだろうか。
何にしても、最初から天沢さんの中に、偽りなんて存在していなかったのだ。
それを俺が勝手に遠ざけていた。
女王様じゃないのだから、従順な犬にならなくても良い。
友だちのいない変態ゲーマー同士だから、友だちになって慰め合おうということだったのか。
だから、だから天沢さんは、笑っていたんだ……。
だけどなんだか、皮肉なものだよね。
友だちになれると思って、嬉しくて、天沢さんは笑顔を浮かべているんだ。
それなのに俺はその笑顔を見て、美しさに見惚れてしまう。
そして何度も何度も、自分の中で問いを繰り返すのだ。俺は、天沢さんをどう思っているのかと。
俺は、天沢さんをに対して、どんな思いを向けているのだろうかと、悩んでしまうのだ。どうしよう。
①女王様 ②友だち ③女性
ーここは③を選ぶんだそうですー
相変わらず、天沢さんは楽しそうな笑顔を浮かべている。嬉しそうな笑顔を浮かべている。
その笑顔はあまりに美しくて、俺は……俺は天沢さんを女性として見てしまっていることを知る。
これは、彼女の思いを踏み躙っていることにもなるのかもしれない。
彼女は俺となら、友だちになれるのではないかと考えた。友だちと鳴ることを望んでいたのに。
俺だって彼女に群がる他の男と同じで、彼女を異性として捉えてしまっているだなんて。
天沢さんもデートとか言っているのだから、同じといえば同じなのだろうけれど、本当に彼女が俺のことを異性と捉えてくれているのかは怪しいし。
男として意識してくれているって、嬉しくはなったけれど、どれが冗談なのかわからないし。
偽りも嘘もない本当の彼女の、本心がどれなのかがわからない。
「あっ、やっぱり対等ではありません。だって私の方が、一つ先輩ですからね。これから私はゲームをやろうと思うので、技を伝授してはくれないかね、後輩くん」
天沢さん? 思い悩む俺が馬鹿らしく思えるほどに、天沢さんはふざけた口調でそんなことを言ってきた。
普段の美声と比べると、おかしな声がよりおかしく思えてしまう。
そうだよね。天沢さんだって同じ人間なんだから、崇めている方がおかしいんだ。
今は友だちだとしても、いずれ恋人になれたらなぁ。とか思っていれば、俺も天沢さんと一緒にいやすいのかな。
一つ下の立場として、そしてゲーマー師匠として。つまり、対等な立場で……。




