げ
わざと、天沢さんは話を逸らしているようにも思える。
でもそんなことをする理由はないから、わざとだなんて、ないとは思うんだけど。
「それよりも」
「ああ、デートの日ですよね。わかっています。今週中に確認をしておきますから、少し待って頂けませんかね」
彼女だってわかっていたらしい。
口を開いた時点で語りを止め、俺がほとんど何を言う前に、言いたいことを彼女の方が言ってしまった。
それと、天沢さん、さらっとデートの日って、言ったんだ。
あまりに自然だったから、聞き流してしまいそうだった。
デートの日だなんて、デートみたいとは言っていたけれど、デートをするわけではないのだ。デートじゃないのに、天沢さんは何を言っているんだろうか。
表情には出さないようにしているけれど、絶対にバレているだろう。
この動揺を、天沢さんほどの人に、隠せている気がしない。どうしよう。
①デートではありません ②デートって、何を言っているんですか
ーここは②を選んで大丈夫だそうですー
どうせ隠せていないのなら、冷静を装う方が無駄だし恥ずかしいというもの。
「デートって、何を言っているんですか」
また話が逸れてしまう。
言ってから気付いたけれど、もう手遅れであった。
「違うんですか? どう考えても、異性と二人きりでのショッピングは、デートとしか思えないのですが。それとも、君にとってはそれくらい、日常茶飯事だとでも?」
俺を試すかのような眼差し。それは大人の色気を感じさせ、子どもの悪戯のような輝きを放つ。
しかし悪戯感覚で、天沢さんほどの美貌を持った人が、色気を使うことは控えるべきだと思う。どうしよう。
①沸騰 ②否定 ③肯定
ーここは①を選びましょうかー
本当にその姿は魅力的で、俺はもう恥ずかしさで顔が真っ赤になっていくのを感じた。
そもそも、日常茶飯事だなんて、そんなはずがないじゃないか。天沢さんならともかく、俺は学校でも、いつもずっとこんな感じなんだから。
異性じゃなくて同性だとしても、二人きりでショッピングなんてないし。
「もう嫌だ。天沢さん、もう嫌です」
やはり俺のメンタルは弱く、もう耐えられないと思った。
全然、天沢さんはドMなんかじゃない。完全なるドSじゃないか。
天沢美海と天沢さんの差とかではなく、天沢さんの中にドS心が入っているんだよ。
もっとメンタルを強くして、本当に天沢さんを救出出来るくらいになってからじゃないと、彼女との会話なんて無理だったんだろうか。
自分で顔が赤くなっているのもわかるくらい、顔が熱かった。
恥ずかしくて、恥ずかしくて、もうここにはいられないと思った。
「なんてことを言うんですか。私のことを嫌いになってしまったと、そう仰るんですかね?」
からかわれているばかりなのに、どうしても天沢さんに見惚れてしまっているのが、悔しくて恥ずかしくて仕方がなかった。
本当に俺は、天沢さんに惚れてしまっているのではないか。
そう思ってしまうと、なぜだか悔しさに襲われるのであった。
そんな俺をまた、天沢さんはからかうように、楽しそうに見ている。どうしよう。
①帰る ②堂々とする ③顔を隠す
ーここは③なのですー
もう恥ずかしくて、恥ずかしくて、俺は両手で自分の顔を覆った。
せめて恥ずかしがっているこの姿を見られたくない、そう思った。
全て彼女に乗せられている気がして、全てを見透かされている気がして、本当は最初から俺で遊ぶだけだったんじゃないか、なんて思ってしまった。
苦しそうな表情をしている彼女のことも、俺は知っているはずなのに……。
そう思うとますます彼女と俺が不釣り合いに思えて、一緒にいることを許される存在ではないのだと、改めて感じさせられるようだった。
だけど天沢さんが求めてくれている間だけは、俺も傍にいなければいけないのだろうか。
「嫌いならば、帰れば良いでしょう? 君もやっぱり、私ではない、天沢美海の影を見ていただけなのですね。信じていたのに」
思ったのだけれど、どうやら、彼女は俺など求めてくれはしなかったようです。
天沢さんのことを嫌いなんて、そんなはずがない。だけど帰れば良いなんて、天沢さんは俺のことなんとも思っていないんだ、そうだったんだ……。
帰ると言っても、引き止めてくれる人だと思っていた。
だけどこのまま俺が帰ったら、俺が天沢さんを嫌っているということになってしまう。彼女を傷付けてしまう。喧嘩してしまったような別れ方で、次もなくなってしまうと思うし。
ここまできて、全てを失ってしまうわけにはいかない。どうしよう。
①帰る ②抱く ③俯く
ーここも③でしょうー
何かをしなければ、失ってしまうとわかっているのに。
勇気を出せ!
天沢さんも俺も、傷付くことになってしまう。最悪の結果を招くことになってしまうじゃないか。
そうならないためにも、勇気を出して行動を起こさなければいけない。
何もしないままだと、この状況を何も変えられない。
それなのに俺は俯くだけで、結局は天沢さんを守る力などないのだろうか。




