ぎ
理想の女性から、こんなことを言われてどうしたら良いってんだよ。どうしよう。
①救出宣言 ②決意を固める ③助けられない
ーここで①を選べるのだそうですー
どうにか俺が天沢さんを救い出してみせる。といっても、俺にそんな力はない。
力を手に入れてみせるのだと決意しても、途中で諦めてしまうに決まっている。俺はあまりに弱すぎる。
リア充になるといったのに、もう諦めかけているのが、その証拠ではないか。
……でも、だれかに宣言をしておけば、そう簡単には諦められなくなると思うんだ。
「つまりは天沢先輩のイメージを壊してしまえば良いのでしょう? でしたら勇気を出して、天沢さんを出してしまうというのもありでしょうが、それは辛いのでしょうから、俺が救い出すしかありませんね」
自信はないけれど、余裕を醸し出して、俺はなんとかそう言い切った。
こんな言い方をしてしまえば、諦めるわけにいかなくなってしまうではないか。
余裕だよやれやれ、みたいなことを言ってしまったんだから、達成させるしかなくなってしまうじゃないか。
「救い出して、……くれるのですか? では、期待していますよっ」
本当に期待してくれているようだ。
見惚れざるはいられない、可憐な笑顔をこちらに向けてきたのだ。どうしよう。
①口説き落とす ②話を戻す ③帰る
ーここは②としましょうかー
このまま話を続けていては、完全に口説き落としに入ってしまうと思う。
いや、それは悪いことじゃないんだけど、問題なのは、俺にそこまでの度胸がないということである。
口説き落としに入ってしまう、が、最後まで行くことはなく、メンタルが折れてしまうのだろう。
もうかっこ悪いったらありゃしないだろう? そんなの。
「こんどこそ本題に入りましょうか。まずは天沢さんの予定が空いている日を、教えて頂きたいのですが……」
「少し待って下さい。ほとんど空いていると思いますが、一応、確認してみますね。ちなみにですが、丸一日あった方が良いでしょうか?」
手帖を開いて、天沢さんはそう問いかけてきた。
可憐な笑顔は作られたものだったのか、無視して話を続けたことに、不満を抱いているような表情を一瞬見せた。のだが、すぐに普段と同じ微笑みを浮かべ直してくれる。
だから、不満気にしている表情を可愛いと思ったことは、天沢さんには内緒である。
そんな彼女と、丸一日をともに過ごすチャンスが来ているのだ。
しかしその楽園に俺が耐えられるとも思えない。どうしよう。
①丸一日 ②半日 ③数時間
ーここは①を選びたいのですー
せっかくなら、丸一日、天沢さんと過ごしたいと思うけど……。
うぅ、ここで勇気を出せなかったら、絶対に後で後悔するだろう決まっている。
勇気なんか出せないことも、それで後悔をするということも、もう痛いくらい知っている。
だったら後悔しないように、天沢さんと二人きり、一日を過ごすことを望もうじゃないか。
「はい。一日あった方が余裕があって良いと思います」
何も意識していないようなふりをして、下心の中にそう提案する。
一日中、天沢さんと一緒に買い物をしていられるのだ。それも買い物に付き合わされる感ではなく、大好きなゲームショップで!
夢だよね、そんなの。
美女と一緒にゲームショップデートだよ。
ロマンティックは欠片もないけれど、夢の詰まった素晴らしい場所だよ。
「思ったよりも予定が入っています。部活とかもありますから、まだどうなるかわかりませんが、夏休みまで待って頂いて宜しいでしょうか? 少なくとも、そこまでは、休日が全て埋まってしまっています」
嘘だろ? さすがである。
夏休みまで、休日が全て埋まっているということだろう?
彼女の言葉をそのまま脳内で繰り返すけれど、やはり意味が理解出来なかった。
そもそも俺にとっては、予定が入っているということ自体、珍しいことなのである。だから休日が埋まっているだなんて、そんな発想はなかったのだ。
天沢美海の人気者っぷり、侮るべからずだな。どうしよう。
①変更 ②優先させる ③待つ
ーここでは②のふりをしてから③にしますー
予定がもう既に入ってしまっているのならば、それは仕方がないのだろう。
何年も予約待ちの人気店みたいなものだもんね。
それだったら、順番はちゃんと守らないといけないのだろう。
「へえ、俺とのショッピングより、そちらを優先なさるのですか」
俺の都合に合わせるために、決定していた予定を消してもらおうなんて、そんなことはもちろん思っていない。
ちょっとした、嫉妬のような感情からの言葉なのだろう。
だけど天沢さんは、本当にどうしようか考えてくれているようだった。
俺なんて予定はほとんどないのだから、俺なんかに合わせてくれる必要はないのに。
「嘘ですよ。天沢さんが行ける日が決まるまで、俺はちゃんと待っていますよ。今すぐ買いたいものがあるわけではありませんし、どちらかといえば、早く手に入れたいのは天沢さんの方でしょうから」
どの予定を断ろうか考え出しているようだったから、慌てて俺は冗談であることを告げた。
そして微笑みを向けてあげれば、天沢さんも安心したように微笑みで返してくれ、心から申し訳なさそうに謝った。
謝ることなんてないのに、な。




