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俺は女の子を探しにここに来たんだった。その目的を忘れてしまっている。
やはり、ゲームでだけなのだろうか。
実際にはぶらぶら歩いていても女の子との出会いはないと、そう言うのだろうか。
もしかして、八百屋という選択が間違っていたとでも? どうしよう。
①八百屋を出る ②商店街を出る ③諦めない
ーここも①にしましょうかー
野菜は重いから、帰りに買ったほうがいい。
そう思ったのが本当の理由ではあるが、それは内緒にしておこう。
八百屋にいても可愛い女の子に巡り会える可能性は低いと思い、俺は別の店へ行くことにする。
女の子がいそうな店。もっと可愛くてオシャレな店、どこに行けば女の子がいるのかなんて、やはり一つも見当が付かなかった。
どこへ行ったらいいんだろうか。
「こんにちはぁ。赤羽さんと随分親しげにお話なさっていたご様子ですねぇ」
頭を抱えていた俺に、女神のような声が聞こえてきた。
頭の中に何度も繰り返される、何にも例えがたい美声だった。女神という、空想上の美女にしか例えられない。
だって俺は、こんなにも美しい音を聴いたことなどないから。
振り向けばそこには、自分の目を疑ってしまうほどの、絶世の美女が立っていた。
これだけの容姿を持っているのなら、あの美声も彼女の魅力のほんの一部に思えてしまうくらいだ。
すらりと綺麗な黒髪が、宝石のような輝きを纏いながら、腰の辺りにまで垂れている。
前髪もどうやら長いようで、左右に分けて耳に掛けられている。その隙間から覗く耳は、色っぽさを表しているようだった。
小さな鼻。薄く、濃紅色の唇。
大きな目は微妙に吊り上がり、その周りを長い睫毛が縁取った。
眉は細いわけではないが、それがまた彼女を魅惑的に魅せた。
日本古来の美しさを持つ人なのだと感じるとともに、彼女のあまりの美しさから目を離せなくなっていた。
スタイルも抜群である。
身長は俺より少し低いくらいだから、女性としては高い方なのではないだろうか。
たわわに実った胸は、ランクメロン。サイズ感もあり、高級感もあり、堂々の最高ランクである。
だがお腹や手足はスラリと細く、非の打ち所などなかった。
絶世の美女を、そのまま絵に描いたらこうなるのではなかろうか。
それか金髪美女ね! 絶世の美女というのは、黒髪美女か金髪美女の二択だから。
その正反対とも言える美しさが、絶世の美女という言葉を作っているのだと思う。
「すみませぇん、無視ですかぁ?」
いつまでも見惚れていたせいだろうか。
唇を尖らせて、彼女は俺にそう言ってきた。子供のようなその仕草にさえ、大人の魅力を感じさせるのだから、さすがである。
まさか女の子に飢えて幻覚でも見え始めたのではないかと、俺は何度か目を擦る。夢ではないかと頬を抓ってみるが、ちゃんとした痛みを感じた。
現実だ。
本当にこの美女が俺に話し掛けてきてくれているんだ。どうしよう。
①口説く ②話す ③逃げる
ーここは②しか選べないんですねー
ここまでの美女と出会ってしまうと、もう口説くことなど出来まい。
そりゃまあ、美女じゃなくても口説くことなんて出来ないと思うけどね。
「えっと、何かご用でしょうか……」
心の中で、自分を笑いながらも、なんとか自分を応援する。
そして戸惑いながらも、掠れた声で美女に問い掛ける。
「ミーがだれであるかも、わからないのですかぁ? いくら赤羽派なのだとしても、そこまで純粋に彼女だけを信仰されちゃいますと、ミーも少し傷付きますぅ」
細い首を傾げ、美女は俺にそう言ってきた。
何を言っているのか、俺にはよく理解が出来ない。
だれかと間違えているのではないだろうか。それだったら、これだけの美女が俺なんかに話し掛けてきた、その理由にも納得がいく。どうしよう。
①伝える ②あと少しだけ ③悪巧み
ーここも②を選んでしまいますー
でも、たとえ人違いなのだとしても、あと少しだけ彼女に見惚れていたい。
それがこの美女を騙すことになるのだとしても、俺は甘えてしまっていた。そうさせてしまうほどに、彼女は美しかった。
あと少しだけならば、神様も許してくれるはず。
むしろそれさえ許してくれないのに、巡り会わせたりするほど神様は意地悪じゃないと信じよう。
「えっ、どうして八百屋赤羽にいらっしゃっていたのですかぁ? どうにかして彼女に近付こうとする、熱狂的かつ知能派のファンなのではないのでしょうかぁ」
少しの沈黙が流れると、戸惑い気味に美女はそう問ってきた。
どうしてって、八百屋なんだから野菜を買いに行ったに決まっているじゃないか。今は買っていないけどさ。
ただ、その後の言葉に関しては少しも理解することが出来なかった。
そもそも、この美女が言っている彼女というのは、だれのことなのだろうか。八百屋赤羽に何か関係がある人、ってことになるんだよね。
思い当たる人がいなかった。
確かに女の子に出会いたいという不純な目的で商店街へ、そして八百屋へ行った。しかしそれはギャルゲライフを目指す自分への口実であって、実際はただの買い物に過ぎない。
まさかいくらリアルでの経験値が低い俺だって、そう簡単に女の子との出会いがあるとは思っていない。
こうして絶世の美女に出会ってしまったから、実はあるのではないかと、思い始めてきちゃっているけどね。