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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
天沢美海 前編
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 天沢さんの方は、俺が闘っていることを知っているのだろうか。

 わざとそうしているような気もするし、全てを無意識で行っているような気もする。

 どちらだかわからないのが、天沢さんの怖いところだと思う。

「ただいま帰りました。それでは早速、会議を始めるとしましょうか」

 耐えに耐えていたところ、やっと扉が開き天沢さんの声が聞こえる。どうしよう。


 ①出迎える ②咎める ③不機嫌


 ーここは②なんだそうですよー


 微笑みを浮かべながら、天沢さんは俺の前に缶コーヒーを置き、自分は水のペットボトルを手に取る。そして机の真ん中に、スナック菓子の袋を広げて置いた。

 節約をしているのだろう。無理をしているのがバレバレであった。

 この人も同じで、水を飲んで飢えを凌いでいる人なのだろう。

「遅いですよ。待たせるくらいなら、こんなもの、買ってくる必要ありません」

 口が悪く、彼女に嫌な思いをさせてしまっていることは、十分に理解していた。

 しかし毎回彼女にコーヒーとお菓子を奢ってもらうのは、申し訳がない気がしたのだ。

 初めて会った日にも、彼女は俺に昼食を奢ってくれた。思えば、学校以外で彼女と会う度に、俺は何かを買ってもらっているのかもしれない。

 彼女だって余裕のある暮らしをしているわけじゃない。

 家を見てそれを感じた今だからこそ、遠慮するしかなかった。

 何億円規模の買い物をする大富豪が相手ならば、数百円を奢ってもらうことくらい、ありがたいなぁ、くらいの気持ちで行ける。

 のだが、天沢さんは見たところ、そんな大富豪ではなさそうだ。

 彼女が節約して暮らしているだろうに、それにより出来た金を俺が使わせるわけにもいくまい。

 ただ普通に遠慮したところで、素直にその言葉を飲む天沢さんではない。

 だから俺は、わざわざそのような言い方をすることになってしまったのだ。

「ごめんなさい。急いだつもりだったんですけど、随分とお待たせしてしまったようですね。招いておいて、あんまりですよね。本当にごめんなさい」

 天沢さん……。そんなに申し訳なさそうにされてしまうと、反対にこっちが悪い気になる。どうしよう。


 ①謝る ②黙る ③笑う


 ーここも②を選んでしまうのですー


 まさかそこまで落ち込むなんて、思わなかったんだ。

 今ここで謝ってもかっこ悪いだけだし、得意の微笑みだって、ここで浮かべて見せたら更に性格が悪く見えてしまう。

 どうすることが正解といえるのだろうか。

「こんな悪い子の私に、どうかお仕置きをして頂けませんか」

 なんて俺が頭を悩ませていたというのに、天沢さんはそんなことを言うのだ。

 彼女の性格――と言うか性癖――はなんとなくわかっていた、つもりでいた。

 しかしリアルでまで、それが適応されるとはまさか思わなかったのだ。

 本当に落ち込んでいると思って、一瞬でも悩んでしまった俺の時間を返して欲しい。どうしよう。


 ①叱責 ②お仕置き ③不満


 ーここは③を選ぶんだそうですよー


 ああ、もう! 結局、俺は遊ばれているだけなの?

 凹んでいるような表情も、わざとに決まっている。

 どっちだか、わかんないよ。

 天沢さんは全てを計算でやっているようにも、全てを無意識でやっているようにも、どちらにも見えてしまうんだよ。

 ドSな面もドMな面も持ち合わせているし、ネガティブでありポジティブである。

 どっちなのか、全然わかんないよ。

 二重人格並みに表の彼女と裏の彼女が違う存在であることは、もう実感している。

 だけどどちらがどちらなのかわからないから、どんな選択をしたら正解なのかがさっぱりわからない。

「その気がないなら、誘わないで下さい。さあ、本題に入りましょう? 俺はあくまでも、おすすめのゲームを一緒に買いに行く、その日を決めるために……、ここに来ているのです」

 デートの日、そう言ってしまえば、どれだけ楽だっただろうか。

 それでもそんなことを言えるはずがなく、俺は冷めた顔をして天沢さんにそう言った。

「心外だなぁ。私は君のこと、案外好きなんだけどな。でも期待はしないで下さいね? もちろん、友だち以上恋人未満の男として、好きというだけですから」

 どうして友だち以上だというのに、期待をするのは許されないんだろうか。

 不思議に思いながらも、彼女からの評価がそれなりに高かったので、それはどうも嬉しくなってしまう。どうしよう。


 ①俺も、好きですよ ②俺は嫌いです


 ーここは①を選ぶんだそうですー


 友だち以上恋人未満、曖昧な関係をずっと続けていたら、心が破裂してしまいそう。だって苦しくて、いつもキュッと締め付けられてるみたいなんだもん。

 以前読んだ小説に書かれていた、甘酸っぱい恋に苦しむ少女の、苦悩の一節である。

 ふとその少女のことが頭に浮かんできてしまって、一度浮かんだからには離れなかった。

「俺も、好きですよ」

 だからなんだと思う。

 言うつもりがなかったのに、そんな言葉を言ってしまっていたのは。

「なっ、なんてことを言っているんですか! 恋人未満って言っているのに、いきなり愛の告白ですかっ?!」

 自分から好きなんて言っておいて、天沢さんはひどく動揺している。

 彼女の動揺ぶりのおかげか、俺は意外と冷静でいられた。

 もしかしたら、この言葉や事態に、ついていけていないからなのかもしれない。

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