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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
天沢美海 前編
47/223

 本気になってしまいそうじゃないか。どうしよう。


 ①行こう ②行かない ③帰る


 ーここで③を選べるのですー


 天沢さんは、自分の美しさをわかっていない。

 本当に美しい人に誘惑をされてしまうと、男は耐えられなくなってしまうものだ。我慢なんて、吹っ飛んでしまうかもしれない。

 ネタのつもりで言っているんだろうけれど、ネタとして捉えられない。

 だって美人がホテルに誘ってきたら、嫌でも期待してしまうじゃないか。

「ああ、待って、行かないで下さい。ごめんなさい、私が悪かったから、待って待って、待って下さい」

 どう答えたものかわからないから、俺は無言でその場を立ち去ろうとした。

 すると天沢さんは、慌てて俺のことを止めてくれる。

 実際に「帰る」と口にするわけではなく、何も言わずに無言のままで、俺は家の方向へと歩き出したのだ。

 絶対に引き止めてくれるという自信がないと出来ないことなので、俺にしては良くやったものだと思う。

「冗談です。もう、行っちゃうなんてひどいなぁ。えっと、私の家なんていかがでしょうか? 一人暮らしですから、いっそ泊まってくれても大丈夫ですよ」

 二度連続でボケはしないだろうから、これは本気なのだろうか。

 今から天沢さんの自宅に行かせてもらえるのだと、そういうのだろうか。

 何もやましい気持ちはないのだが、しかし、しかしだよ。彼女だって俺に異性という認識を持ってくれている、そのことを考えると俺の理性が保つかどうか。

 ゲーム好きという共通点を持った、彼女は俺の同志でしかないのに。どうしよう。


 ①彼女の家へ ②俺の家へ ③ここで ④解散


 ーここは①を選んでしまうんだそうですー


 そうだよ。家に行くくらいは、セーフの域なんじゃないかな。

 女性の家に行くのは初めてのことだし、緊張はするけれど、二人で会話をすると考えたらそれが最善の手だとも思う。

 天沢さんがゲーマーであることを隠さないといけないのだから、それも仕方がないのだろう。

「わかりました。天沢さんの家に伺いたく思います」

「それでは、見つからないうちに、急いで向かうとしましょうか。距離はありますから、大変になるかもしれませんが」

 大変とは言っても、天沢さんが毎日通っている距離なのだろう?

 問題ないという意味を込めて、俺は大きく頷いてみせた。

 二人きりで道を歩く時間を、出来るだけ短くしようとする図らいだろうか。小走りより早いくらいを要求する早歩きで、天沢さんはスタスタと歩いて行ってしまう。

 これはあえて距離を取ろうとしているのだろうか。

 そんなことを考えながらも、俺は天沢さんの後をなんとか追った。ストーカーみたいだな。

「着きました。ここが私の家です。期待外れの汚いところでしょうから、嫌だったら断って下さっても結構ですが」

 謙遜ではなかった。

 俺が想像していたものとは程遠い、汚くて小さなボロアパートである。失礼なのは承知であるが、俺の住居以下なのではないかと思う。

 こんなところに天沢さんが住んでいるなんて、信じられるはずがなかった。どうしよう。


 ①疑う ②断る ③微笑む ④褒める


 ーここは③でしょうよー


 だけど、高貴な印象のある美人だからといって、それは勝手に周りが付けたイメージである。

 お嬢様っぽい見た目なのに、豪邸に住んでいないんだね? なんて言われても、本人は困るだけであろう。

 とはいえ、この家を褒めたとしても、天沢さんは良い思いなどしまい。

「意外ではありましたが、嫌だと断るほどの家ではありませんよ。そこが天沢さんの暮らしている場所だというのならば、このチャンスを逃してしまう馬鹿はいませんって」

 ここは変な気を遣った方が、かえって天沢さんへの失礼にあたってしまう。

 そう考えた俺は、微笑みながら正直な気持ちを述べた。俺だってそう良い家に住んでいるわけではないし、そもそも住める家ならば、入るのも躊躇われるほどの家ということなどないはずだ。

 この美女の自宅だぞ? 入らないわけがない。

「そうですか、ありがとうございます。では適当な場所に座って、待っていて下さい。コンビニで飲み物とお菓子を買ってきますが、何か希望のものはありますか?」

 そのアパートの一室に案内された。室内も、外観とそう変わりなかった。

 それなりに片付いた部屋ではあるけれど、それは家具という家具が置いていないせいだろうか。

 床に洋服や本が落ちていたり、部屋に埃が充満していたりと、綺麗にされているとはお世辞にも言えないだろう。どうしよう。


 ①言葉に従う ②着いて行く ③遠慮する


 ーここで素直に①を選べるんですよー


 意外だな、本当にさ。

 普段の天沢さんがこれなのだとしたら、よくぞまあ、学校であれだけのキャラクターを演じていられるものだと思う。

 学校での天沢さんの姿を俺は知らないけれど、クールで少しSなところがある女王様だそうな。

 全くの別人じゃないか。何度も思う、全くの別人じゃないか。

「希望は特にありません。行ってらっしゃい」

 天沢さんの演技力に感心しながらも、天沢さんの言葉に答える。

 そして彼女が家を出て行ってから、しまった、と俺は気が付いたのであった。

 彼女がなんでもなく言うから、俺もなんでもないように返してしまったではないか。

 天沢さんはコンビニに行っているらしく、俺は天沢さんが暮らす部屋に、一人きりになっているわけである。

 欲望を抑えきれなければ、俺は犯罪者となってしまう。

 それでも、こんなシチュエーションを作り出した天沢さんの方が悪いんじゃないかと思う。

 もしかしたら、彼女は俺のことを試しているのかもしれない。どうしよう。


 ①こっそり荒らす ②堂々と荒らす ③荒らさない


 ーここは③に決まっていましょうよー


 部屋を荒らすだけの度胸があるのか、試しているのか。この欲望に耐えるだけの強い理性があるかを、試しているのか。

 どちらを望んでいるのかはわからないけれど、間違っても犯罪者にはなりたくないので、たとえ天沢さんが望んで期待しているのだとしても、俺は荒らしたりなどしない。

 彼女が帰ってきてくれるまでを、静かに待っていることしか出来ないのだ。

 一人、闘いながら……。

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