ゑ
友だちでもファンでも、まして恋人なんかじゃ、……全然ない。
リアルでは少しの接点さえもない、ゲーム師匠でしかないのだから。どうしよう。
①今から ②後日 ③行かない
ーここは②を選ぶでしょうよー
でも恋人気分を少しでも味わいたいから、デートに誘いたいと思うんだ。
相手がなんとも思っていないことを、わかっているからこそ、さ。
「後で会えないでしょうか。もし天沢さんに暇な日がおありでしたら、少し遠くまでショッピングへ行きたいかな、なんて。どうせなら、俺もゲームを買い足したいですから」
二人きりでショッピング。そんな言い方をすれば、完全にデートとしか考えられないだろう。
しかし天沢さんはきっと、思いもしないんだろうな、俺とデートだなんてね。なのに。
「それじゃあ、まるでデートじゃないですか。遠足のときもそうですが、どうして君はそう、なんでもないように言うんですか? 男の人と二人きりで買い物だなんて、私は結構ドキドキしているんですよ」
彼女はあろうことか、頬を赤らめて、微妙に視線を逸らして、本当に意識しているかのようにそう言うんだ。
遠足のとき? そういえばあのとき、最後に何かを言おうとしていた。
そのときもまさか、彼女はこう言おうとしていたのだろうか。
つまりはその時点からデートではないかと、彼女はドキドキしていてくれていたと? どうしよう。
①恥じらう ②平然を装う ③平然
ーここは①になるそうですー
そう思えば思うほど、顔が赤くなっていくのを感じた。
俺と二人きりでゲームを買いに行くということを、天沢さんがデートではないかと考えてくれた。彼女は俺のことを、男としても認識してくれているということである。
そんなことを言われてしまえば、こっちだって更に意識してしまうに決まっている。
天沢さんは俺のことをなんとも思っていないと、そう思ったから、そう思うことで、俺は意識しないようにしていたんだから。
それなのに、なんてことをしてくれるんだろうか。
「今更、顔を赤くさせないで下さい。こんなところで顔を赤くさせていたら、完全に愛の告白をしているみたいじゃないですか。とりあえず、学校からは離れましょう。知り合いに会わない場所へ、早く移動しましょうか」
顔を赤くさせている男女が、放課後校門の前で会話をしていたら、愛の告白に思えるかもしれない。
デートのことで頭がいっぱいだったから、そのことまで頭が回らなかった。
天沢さんほどの美女と俺とでは、勘違いする人も少ないだろう。
しかし、見られている前で、天沢さんは俺の耳に口を近付けて、優しい囁きを残してくれた。不穏な噂が流れかねないだろう、あんなの。
耳元で囁いた本当の理由は、変態ゲーマーであることを隠すためなんだけどね。どうしよう。
①更に赤くなる ②逃げ出す ③同意する
ーここは③を選びますー
そんなことを知らない人たちから見れば、俺と天沢さんはそういった関係に見えてしまう。
「そ、そうですね。でもどこへ行きましょうか? 知り合いに会わない場所だなんて」
首を傾げた俺に、天沢さんは怪しい笑みを向けてくる。
「絶対に知り合いに会わないで済む、最高の場所があるでしょう? 行くまでの間に発見されると、かなり痛いかもしれませんが」
どこだろうか。絶対に? そこまで言えるような場所。
元から俺は知り合いと偶然出会すことは少ないけれど、絶対とは言い切れないだろう。じゃあ、どこだ?
行くまでの間に発見されてはいけない、どんな場所なのだろうか。
「決まっていましょう。ホテルですよ」
「んぶっ」
わざと色っぽく言うものだから、想像してしまい、吹き出してしまった。
って、想像なんてしてないっ! なんも想像していないから!
ただホテルというのは、ラブなあれだろう? それなら会うことはないだろうね! 入っている姿を見られたら、もう確固たる証拠となってしまうが。
入っていくところを写真に撮られれば、よく浮気の証拠として提出されるあれになるわけだ。
言い逃れることなんて出来なくなってしまう、確実な証拠なのだろう。
「何を仰っているのですか! そんなところ、行くわけがないでしょう」
抑えられない動揺のままで、まずは本気っぽい天沢さんの笑みを止めさせる。
いくら美女とはいえども、顔を両手で挟んでやれば、口を突き出す形になり色っぽさは消えるからね。
変顔にはならず、それでもなお可愛いところはズルいと思うが。どうしよう。
①抱き締める ②恥じらう ③弄ぶ
ーここは②を選びますー
……ちょっと待って?
俺のこの行動だって、十分なバカップルではないか。
「あっ、あぁ、ごめんなさい。俺、調子に乗って」
慌てて手を離すと俺は謝る。
すると、天沢さんは子どものように唇を尖らせて、こんなことを言ったんだ。
「行くわけがないなんて、あんまりです。これでも私は本気なんですけど?」
期待してはいけないと頭では思いながらも、高鳴る胸の鼓動は止めることが出来なかった。
でも本当に怒っているような傷付いているような、そんな表情で、天沢さんが俺のことを見つめてきているから。




