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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
放課後の教室
44/223

 俺はそんな扱いを受けることが、なんだか気に入らなかったんだ。

 ……その程度の言葉だった。それなのに、松尾さんの顔が近付いてくる。どうしよう。


 ①避ける ②目を瞑る ③俺から


 ーここは②になりましょうかー


 遊ばれているのだとはわかっている。キスなんて、するわけがない。

 するようなふりをして、彼女はまた、俺の心を弄ぼうとしているんだ。

 そうやって、小悪魔的なキャラクターを演じて、男心を掴んできたんだろう。

 期待するだけ無駄なんだろうけれど、俺は目を瞑ってしまう。

 これは……、キスを期待してのことではない。

 そうじゃないんだ。

 キスを期待して、目を瞑っているわけではないんだ。

 遊ばれているのだとしても、こんなに可愛らしく整った美顔が目の前にあったら、だれだって気が動転しそうになる。奇行に及んでしまいそうになる。

 犯罪にさえ、手を染めてしまうことだろう。

 でも俺にそんな度胸はないだろうから、本能に対するせめてもの抵抗として、目を瞑っていただけ。

「んっ」

 期待なんてしていない。冗談に決まっている。

 それだったのに、唇に柔らかい感触が重なっていた。全身に、電流が走るような衝撃が駆け巡った。どうしよう。


 ①目を開く ②突き飛ばす ③目を瞑ったまま


 ーここは①を選びますー


 驚きのあまり、俺は目を見開く。

 何か柔らかいものを押し付けて、にやけている俺の顔を笑っているのではないか、そう思った。そう、思いたかった。

 しかし彼女は、本当に俺と、唇と唇とを重ねていたのだ。

 どうして……?

 悪戯のためにここまでするなんて、信じられない。

 彼女にとって、キスなんてその程度の行為だったのだろうか。

 そんな彼女に弄ばれているのだと思うと、憤りが心の中で燃え盛った。どうしよう。


 ①されるがまま ②目を瞑る ③突き飛ばす


 ーここも①になってしまうのですー


 キスをしろだなんて、そんなことを言った二分前の自分を呪いたくなった。

 まさか、本当にするとは思わないじゃないか。

 簡単にこんなことを出来てしまう彼女だから、本気だなんて嘘も、簡単に吐くことが出来るんだろうね。

 怒りに任せて突き飛ばしてしまおうかと思った。引き剥がして、逃げされたら……、と思ったんだ。

「ふふっ、これで本気だって、信じてくれた?」

 だけど俺が動けないでいる間に、彼女はゆっくりと唇を離し、不敵な笑みを浮かべた。

「それとも、まだ信じられないのかな~?」

「やめっ、何をしているんですか!」

 口ではなんとか強く言うものの、体に力が入らなかった。

 唇を離したのは、会話をするためだろうか。会話をするのに差し支えがないから、この近すぎる距離はそのままなのだろうか。

 おかしくない?

 距離感がおかしいのだろうか。そうではなく、わざとだろうね。

 女の子と触れ合いそうな距離で会話をすることなんて、初めてなのに、耐えられるわけがないじゃないか。

 松尾さんにとっては、当たり前のことなのだろうか。どうしよう。


 ①問う ②咎める ③逃げる


 ーここも①だそうですよー


 清純系マドンナが、こんなことで良いのだろうか。

 俺の中にも彼女に対するイメージはあったらしく、彼女にとっての当たり前なのだと、納得してしまうのはどこか躊躇われた。

 彼女にはアイドルでいて欲しい気持ちもあったのかもしれない。

「松尾さんは、だれにでもこんなことを出来るのですか? 俺みたいな男にも、簡単に出来てしまうのですね、汚らわしくは思わないのですか?」

 俺が彼女に問い掛ければ、無意識のうちにもう一つ問いを付け加えてしまう。

 自虐は相手を困らせるだけだと理解し、封印したはずだったのに。

 松尾さんは、好きでもない相手とキスが出来るのか。

 それを問うだけのつもりだったんだ。

 空気が悪いのは元々だから、そこだけでも彼女からはっきり聞いておきたかった。だけど二つの目の質問は不要だったかと、言ってから後悔する。

 松尾さん側は、全く気にしていない様子なんだけどね。

「失礼しちゃうなぁ~。だれにでもって、そんなわけないでしょ~? キミだから、だよ?」

 ゲームによくありがちなセリフを吐いて、真面目に答えようという気すら見られない。どうしよう。


 ①真面目に答えて下さい ②そうですか


 ーここは②になってしまうそうですー


 これはもう、何を言っても無駄ということなのだろうか。

 俺と彼女とでは、前提となっている条件が違うのだから、仕方がないとも言えるのかな。

「そうですか」

 諦めるしかないと思い、俺は何も言わずに彼女の言葉を流した。

 それからも何が面白いのか話し掛けてきたけれど、ほとんど相槌だけで聞き流した。

 会話が成り立っていないのなら、会話をするだけ無駄になるし。

 まあ、彼女の考え方を参考にすれば、人の心を簡単に手玉に取り、弄ぶことも出来るのかもしれないが。

 外見だってあるだろうし、俺に試せるようなやり方ではないからさ。

「でもさでもさ、ワタシってこう見えても、意外とモテるのね? キミみたいな人って、案外初めてかもしれないな~。ときめいちゃう」

 松尾さんが来てから一時間も経っていたことに驚きながらも、六時を回ったのでそろそろ行こうかと、俺は立ち上がった。

 すると松尾さんは、今までの話を全て投げ出して、そんなことを言い出した。

 それまでは勉強の話をしていたのに、いきなり何を言っているのだろうか。

 そのことにより、俺の気を引こうと思っただけだろうか。そうだとしたら、完全に引っ掛かってるけど。

 でも、そんなことをする意味がわからない。俺の気を引いてどうする。

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