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何にしても、一度だけで良いから、マドンナたちを連れ歩いてみたいものだ。
注目の的となること間違えなし。きっと妬み殺されるだろうが、それも構わないとすら思えるね。
「ふ~ん、上手だなぁ。マツリちゃんとのことは、遊びじゃないんだよね? 巧みな話術で騙しているとかじゃないんでしょ?」
は、……は? はぁ? 何を言っているんだろうか。
マツリちゃんというのは、花空祭さんのことを指しているのだと考えて良いのだろうか。
しかし彼女とのこと、と言われてしまうと、ほとんど接点がなくて困る。
同じクラスだから知ってはいるけれど、みたいな状態だ。決して親しくはないだろう。どうしよう。
①問う ②確認 ③肯定 ④否定
ーここは①を選ぶとしましょうかー
あまりにも身に覚えがないことなので、もしかしたら花空さんのことではないのかもしれない。
問題点としては、彼女以外にマツリちゃんと呼ばれそうな人を、一人も知らないということである。
特殊な呼び名として、本名とは関係なくそう呼んでいるのかもしれないと、松尾さんに訊くことにする。
「えっと、なんのことでしょうか。マツリちゃんというのがまずどなたなのか……」
「同じクラスでしょ? 花空祭。ファンとして、男女交際しているんだって聞いたんだけど?」
即答である。
常識かのように、さらっと即答されてしまった。
まずマツリちゃんが俺の思う人と一致した。のだが、関係性が全く一致していないので、別人なのだろうと思う。
そもそも、松尾さんが思っている相手は俺ではないのだろうと思う。
人違いなのだとしたら、教えてあげないといけない。どうしよう。
①正直に ②恋人のふり ③疑問が
ーここは③になってしまうのですー
それは多分、俺のことではない。彼女が勘違いしているようなので、教えてあげようと思った。
しかしそれ以上に、疑問ばかりが湧いて出て、俺は言うタイミングを失ってしまった。
「ファンとして、男女交際? その言葉自体、少々理解に苦しいのですが」
そんなことを言いながら、数少ない花空さんとの会話を思い起こす。
ファンサービスとか言っていたような気もしないでもない。一人で騒いでいる苦手なタイプだけれど、クズを軽蔑するタイプではないと思ったから、たまには悪くないかと彼女に声を掛けた。
今思えば、堂本さんという友だちが出来たことにより、随分と調子に乗っていたものだ。
いやいやでもでも、他に彼女との接点はなかったはず。
「じゃあ本当は、マツリちゃんを弄んだだけだというのなら、本当の彼女って?」
俺は、彼女にひどい誤解をされているのではないだろうか。
弄んだ覚えなどないし、彼女なんて出来た記憶もない。どうしよう。
①正直に ②戸惑う ③嘘を
ーここは①を選べますー
相当、俺に対して真逆のイメージを持っているようだから、それをなんとか正さないといけなそうだ。
正直なことを言えば、憐れまれるかもしれないが、誤解をされることはなくなるだろう。
「花空さんとは、クラスが決まったあの日、少し言葉を交わしたくらいです。それ以来、一言の挨拶すら交わせていません。同じクラスでご覧になっていたならば、交際などしていないのは、明白だったと俺は思うのですが、どうしてそう思われたのでしょう」
丁寧な言葉を選びながら、最も不思議な点を松尾さんに問い掛けた。
何が俺と花空さんが交際しているなどという、とんでもない誤解を生んでしまったのか。
そういったスキャンダルとは全くの無縁で生きてきたから、嘘の噂ではあるのだけれど、喜びも感じてしまっているんだけどね。
「だってそれは、マツリちゃん本人から聞いたんだもの。キミとマツリちゃんとが、好き合っているんだって」
ほ、本人ですと?
俺はこの美少女に遊ばれているのだろうか。今こそ俺が、弄ばれているのだといえるのではないだろうか。
本人が嘘の噂を流すなんて、それじゃあるで、そのことを望んでいるようではないか。
松尾さんの言うことが本当ならば、花空さんは俺のことが好きだということになる。
あ、あぁ。う、嘘に決まっている。怪しいも嘘は早く掻き消さなければいけない。でもどうして、松尾さんがそんな嘘を言う必要があるのだろう。
嘘なんて言いそうにないし、やっぱり本当のことなのだろうか。どうしよう。
①本当だ ②嘘だ ③確認を
ーここは③となりましょうー
どちらなのだろうか。
俺に覚えがないのだから、本当とは考えられない。しかし松尾さんの目を見ていると、どうも、嘘とは断定出来ない。
花空さんは、何を思ってそんなことを言ったのだろうか。
突然、仲が良いわけでもない、同じクラスの女子に声を掛けるなんて。その上、内容も内容なわけだし。
かなり俺にはきついことだけれど、変な誤解があるままだと更に困るだろうから。
お互いのためにも、今のうちに勇気を出して、どういうことなのか確認しておくとしよう。
明日にでも明後日にでも、心の準備が整ったなら、チャンスが訪れたのなら、出来るだけ早く確認しよう。
「本人が言うんだから間違えないだろうな~って思って、でも学校でそんな様子はなかったから、内緒にして外でイチャイチャしているのかな~なんて」
なるほどね。意味がわからないや。
この話はきっと、花空さんがいない限り纏まらないだろう。




