よ
すぐに仲良し宣言をするチャラい人よりは、山内さんのように固そうな人の方が良い。
「まだ選んでいません。山内さんは、もうご夕飯を済ませてしまったのですか?」
友だちもいない俺に、恋人だなんてとんでもないよな。
目指す順序を間違えていたんだ。山内さん、気付かせてくれてありがとう。どうしよう。
①讃える ②崇める ③頑張る
ー普通に③で結構ですよー
努力しても簡単に手に入るものじゃなかったからこそ、今まで俺は、友だちたるものを手にしたことがなかったのだ。
しかしそれは、今までの俺だからだ。
今の俺ならばいける気がするんだよね。
努力さえすれば、本当に頑張りさえすれば、友達になって貰えるような気がする。
「えっ? いいえ、まだ、です。ああそうだ、早く帰らないといけないんでした。それじゃあっ! 今日はもう、帰ります。その、また明日、学校で会いましょう」
会話をなんとか広げられないものかと、次の手を悩ませていたところなのだが、山内さんはわざとらしくそう言って、会計を済ませると出て行ってしまおうとする。
これは彼からの拒絶なのだろうか。どうしよう。
①追い掛ける ②行かせない ③さようなら
ーここも③になってしまうのですー
そちらから話し掛けてくれたというのに、逃げるだなんてひどいじゃないか。
短い間の中で、俺はそこまで嫌われるような行動を取ってしまったのだろうか。
もしそうなのだとしたら、無理に追い掛けたとしても、更に拒絶されて俺が傷付いて終わりだろう。
それに喧嘩した彼女とかじゃないんだから、腕を掴んで引き止めるわけにも行かないし。追い掛けても、その後に何をして良いものかわからない。
山内さんが帰ろうとしているのに、引き止める術なんて持っていなかった。
俺は山内さんを引き止める理由さえ、持っていないようだった。
「また明日、さようなら」
聞こえるわけがないが、一応はそう告げ、俺は夕飯の選択に戻ることにする。
適当に安いパンでも買っていけば良いかな。量は少ないくらいが良いや、食欲もあまりないかもしれない。
購入して帰宅して食事して、そこまでの流れは、無意識のうちに行っていたようでかなりスムーズだった。
しかしやるべきことが終わったと思うと、急にドッと疲れが伸し掛かってくる。どうしよう。
①だらける ②勉強 ③ゲーム ④眠る
ーここは④を選んでしまいますー
何をする気にもならないほどの疲れだったので、俺はそのまま眠ってしまった。
どうせ敷きっ放しなのだから、せめて布団までは行けば良かったとも思うけれど、その体力も残っていなかった。
中間テスト、ですか。思い掛けないイベントで、難関鬼山雪乃の攻略を進めたものです。
そのことには驚きましたし、チャンスをものにしようと、僕なりの努力を重ねました。一つのイベントに与えられるのは、頑張っても精々一日や二日程度が限界だそうです。
これから、いくつのイベントが、存在しているのかはわかりませんが、慎重に進めている場合でも、なくなってしまいそうですね。くっくっくっく。
あんな別れ方をしてしまったのだから、一緒に勉強会などしづらいかと思った。
それでも雪乃さんは全く変わらない様子で、学校にいる間は声も掛けてくれなかったし、学校が見えなくなるまで歩いた頃、決まって声を掛けてくる。
内容はもちろん、勉強を教えてほしいというもの。
気にしないでいてくれているのなら、俺としても嬉しい。
一人で気にしてるのは少し寂しいけれど、雪乃さんが変化なく接してくれるのなら、それに甘えたいと思う。
だから断るはずもなく、テストの前日まで雪乃さんの家で二人きりの勉強会を開いた。
山内さんの方も、全く変わらないようだった。
コンビニで出会った彼は幻だったのかと思うほど、第一印象と同じ冷たい雰囲気を纏って、当然話し掛けてくれるようなこともなく。
学校ではやはり変わらずに、俺は堂本さんと過ごしているのであった。
あれだけ一緒に勉強をしたのだから、雪乃さんの成績がどうなったのか少し気になった。
しかし彼女の方は、テストが終了すれば俺なんて用済みなのか、話し掛けてくれることなんてない。
だからといって、話し掛けていく勇気もない。
断言しよう。俺には無理だ! どうしよう。
①話し掛ける ②待つ ③諦める
ーここは③になってしまうようですー
無理なんだから、諦めるしかないだろう。
何度も雪乃さんの背中に手を伸ばそうとした結果なのだから、これも仕方がないのだろう。
「テストも終わりましたし、私との約束をお忘れでないならば、ゲームを買いに行きましょうよ。おすすめ、紹介して下さるのでしょう?」
雪乃さんとの距離が一気に遠ざかった気がして、ガックリしていた俺の元に、これまた美しい声が掛かった。
天沢さんである。
彼女は校内屈指の美女として有名なので、他の生徒の前で耳打ちなんてされると、視線が集まってかなり痛かった。体が焼け焦げて、引き裂けるかと思った。
耳打ちさえせず、普通の声量で言われてしまっても、それはそれで困るかもしれないけどさ。




