ゆ
逃げてきたことを後悔しながらも、もちろんだれも待っていない、一人暮らしの家に帰ってきた。
不思議なくらい、寂しく感じられた。家に帰ってきただけなのに。どうしよう。
①出掛ける ②勉強 ③ゲーム
ーここは①みたいですよー
勉強をこれ以上するような気分じゃないし。ゲームなんて、そんな気分じゃないし。
だから俺は、もう一度、出掛けることにしたんだ。
夜遅くに出歩くことなんて慣れていないけれど、俺だって子供じゃないんだ。少しくらい、大丈夫だろう。
変な人に絡まれないように願いながらも、服を着替えて、家を出ると施錠までしてしまった。
ズボンの右ポケットに財布、左ポケットに携帯電話。
バッグなんて持たなくたって、この二つがあれば問題ないよね、きっと。
でも出掛けると言っても、何をするのだろうか。どうしよう。
①散歩 ②食事 ③夜遊び
ーここは②にしましょうー
ふらふらと、目的も持たずに出歩く気にはなれない。
大人しく家にいられる気分じゃないとはいえ、意味もなく夜の街を出歩くだなんて、俺にはハードルが高すぎる。
だから夕食を食べに行くことを目的にして、俺は家を出発するのであった。
そうはいっても、外食をするほど、懐に余裕はないんだけどね。どうしよう。
①高級料理店 ②ファミレス ③コンビニ ④商店街
ーここは③で結構だそうですー
コンビニで適当なものを買っていけば良いかな。安くはないけれど、外で食べるよりはまだ安くなるはずだろう。
買い物は商店街が安いから良い。買い物は商店街でしたい。
でも今は時間が時間だから、ほとんどのシャッターが閉ざされていることだろう。
「しょうがないよね」
まだ自分の中で渋っているところがあったので、そう呟いてから近くのコンビニを目指して歩き出した。
もうかなり暖かくなってきていると思ったのだが、やはり夜だと少し肌寒い。
薄い長袖だけでなく、上着を羽織ってきて良かったと心から思う。冷たい夜風に当たっていると、火照る体も少し冷まされるようだった。
「ああ、あの、こんばんは」
到着し、何を買おうかと迷っていると、声を掛けられてひどく驚愕してしまう。
同じクラスの、山内聖さん、だと思う。
俺も彼も目立つタイプではないと思うし、会話をしたこともない。
偶然会ったのだとしても、話し掛けてくるようなイメージの人ではないので、正直戸惑いを隠せなかった。
彼も彼で、少し戸惑っているように見える。どうしよう。
①挨拶 ②雑談 ③逃亡
ーここは①を選ぶとしましょうかー
どうしたら良いのかはわからないので、軽く挨拶だけして退散しよう。
「こんばんは」
お互いに戸惑うくらいなら、話し掛けてなんかこないでよ。
山内さんの行動を心の中で呪いながら、相手の出方を窺う。
挨拶をしたら退散しようと思っていたのだが、タイミングを逃して失敗してしまった。
今ここで今更になって別れたとしても、まだ彼も買い物をしていないようだし、店を出て行くことにはならない。
店の中で、果てしなく気不味くなるだけである。
「えっと、何を買いに、いらしたんですか?」
かなり人見知りな人なのだろう。俺も重症だとは思っているが、その俺をも超える人見知りなのかもしれない。
途切れ途切れになりながら、一生懸命に会話を繋げようとしてくれている。
学校ではクールな雰囲気だったし、鼻で笑うくらいして、颯爽と歩き去ってしまうんじゃないかと思った。
挨拶だって気紛れかと思ったのに、なぜだか俺と会話を続けようとしているのだ。どうしよう。
①俺も頑張る ②頑張ってもらう ③無視する
ーここも①を選びましょうー
せっかく山内さんが頑張ってくれているのだ。
俺も会話は得意でないけれど、彼が会話を続けるつもりならば、俺も最大限に努力するしかないんだろう。
彼との話の話題になるようなことを、なんとか探さなければ。
共通点さえあれば、会話もしやすいことだろうに。
「夕飯を買いに……。その、あなたは?」
「文房具を買いに参りました。夕飯かぁ、何をお食べになるんです?」
どうして彼は、こんなにも俺のことに興味を示すのか。
えぇっ? 俺に興味を示しているとか、そういうことじゃないんだよね。
だったら彼はどうしてそんな質問をするんだろうか。
何か企みがあるのではないだろうか。どうしよう。
①探る ②俺も興味津々になる ③自分大好き
ーここは②でどうでしょうー
彼がどういうつもりなのか気になったが、それを探るのは彼に悪いような気がした。
だから俺は、これを彼に近付くチャンスだと思うことにする。
女の子とのリア充道が目指す場所ではあるけれど、男の友だちが一人もいないのは悲しいだろう? このまま、友だちを作れたなら。
山内さんが、俺の友だちになってくれたなら。
友だちになりたいと言って、無理して作るものが友だちと呼べるかはわからない。
それでも山内さんに話し掛けられる人なんて、結構少ないんじゃないかと思うんだよね。
俺は彼のことを何も知らないから、本当はとてもフレンドリーという可能性も消しきれはしないけど。




