表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
テスト勉強
36/223

 喧嘩を止めることなんか得意じゃない。どころかやったこともないけれど、止めなければ悪化するに決まっている。

 今、この場所には俺しかいないんだ。

「ごめんなさいね。迷惑を掛けてしまったわ。それじゃあ、もう行くわね」

 止めないと! そう思っていたうちに、もう喧嘩は終わっていたらしい。

 二人はもう仲良さそうに笑っていて、雪乃さんはタオルを押し付けると、さっさと女湯へと消えてしまって。

 残されてしまったわけなのである。

 洗濯くらいする、そう彼女は口にしていた。

 それなのにお風呂を出る大まかな時間すら打ち合わせないのだから、どうしたら良いのか困る。

 しかしもう、呼んでくることすら出来ないし。どうしよう。


 ①女湯へ ②諦める ③待てば良い


 ーここは③を選ぶしかないでしょうー


 まあ、出て来てから待っていれば良いんだろう。

 長々と待たされる分には構わないけれど、待たせてしまうのはかなり悪い気になる。だからくれぐれも、それはないようにしなければ、俺としても彼女たちとしても辛いだろう。

 俺が先に出てくれば良いんだ。

 相手があの美少女だと思えば、待っているのも全くの苦じゃない。

 ただ待つという話ではないのだから、彼女はもう帰ってしまっていたので、待てども待てども現れないなんてこともありえる。

 もう、どうしたら良いんだよ。

 これじゃあゆっくりなんてしていられないよなぁ。

「はぁ」

 小さく溜め息を漏らし、俺は大急ぎで入浴を済ませた。

 夏も近付いて来ているのだし、シャワーを浴びて軽く温まりさえすれば、出て来てもなんら問題がない。

 そこまでお風呂が大好きというわけでもないんだし、別にいつも通りといえばいつも通りである。

 お風呂を出た後の椅子に腰掛けて、雪乃さんが来るのをジーっと待つ。どうしよう。


 ①帰ろうか ②待つ ③暴れる


 ーここは②に決まっているでしょうー


 彼女はまだ出ていない。だって出ていたんだとしたならば、待ってくれているに決まっているから。

 無理に自分にそう思い込ませて、俺は雪乃さんを待つ。

 彼女から借りたタオルを握り締めて、その濡れた感触の気持ち悪さに顔を顰める。

 ああ。雪乃さんのことを待っているのに、どうしても一人でいるような気がしてしまい、なんだか寂しくなってくるようだった。

 雪乃さんが出て来てくれるのを、待っているはずなのに。

 待っているというのは妄想ではなく、本当なのに、寂しくなってしまうんだ。

 それはまだ俺が心の中で、雪乃さんというあまりに美しい存在を、否定してしまっているということなのだろうか。

 あんなにも美しい人、俺の妄想が作れる限界を超えているだろうに。

「あら、ずっとそこで待っていてくれたの? ありがとう。本当に優しい人なのね」

 しばらくして、周りからの視線に耐えられなくなってきた頃、雪乃さんと春香ちゃんが俺に気付いてやってきてくれた。

 良かった。二人とも、先に帰ったわけじゃなかったんだ。

 待っている時間は予想よりも不安に襲われたのだけれど、雪乃さんが来て微笑んでくれると、一気にそんなことはどうでも良くなった。

 春香ちゃんの笑顔に、不安なんて吹き飛ばされてしまった。どうしよう。


 ①タオルを返して帰る ②タオルを返さず帰る ③帰らない


 ーここは①なのでしょうー


 もうなんだか、不安になっていたことさえ馬鹿らしく思えてくる。

 こんなに可愛らしく美しい女の子たちにだったら、置いて行かれたとしても構わない。見捨てられるようなことがあっても、構わないと思えるほどに惚れてしまっていたんだろう。

 だからこそ、お風呂あがりの彼女の姿を見ているのは、俺にとってあまりに幸せだった。

 耐えられるようなことではない。無理だよ、雪乃さん……。

「タオル、返さないといけないと思ったので。それでは、俺はもう帰りますね」

 無理矢理にタオルを返すと、俺は自分のバッグを持って立ち去っていく。

 これだとまるで、待たせたことを怒っているみたいに思われるじゃないか。俺が不機嫌みたいじゃないか。

 本当はこんなにも嬉しいのに、雪乃さんに良い気分をさせないであろうことが、苦しくて仕方なかった。

 俺は別に、怒っているわけじゃあないんだ。

 だけどそのままあそこにいては、間違って興奮してしまうこともあるかもしれない。

 それは困る。雪乃さんに気持ち悪がられるに、決まっている。

 飛び出してきてしまったけれど、仕方がないことだったんだ。

 そう思おうとしているのに、家に帰るまでの間に、何度も立ち止まって振り向いてしまうのであった。

 俺なんかのことを、追ってきてくれるはずがないのに。どうしよう。


 ①戻る ②鬼山家へ ③自宅へ


 ーこんなの③に決まっているじゃないですか……ー


 慌てて戻るのは、かっこ悪いったらありゃしない。

 謝りに行くにしても、そんなのは優しさじゃなく恥ずかしさ。俺はそんなにメンタル強くないし、そんなことをしたところで、雪乃さんとしても困るだろう。

 逃げて来てしまったんだから、大人しく家に帰るしかない。

 こんなことなら、雪乃さんの家に何か忘れ物をして来るんだった。

 気不味い別れ方をしてしまったし、明日の勉強会が怪しくなったりしないだろうか。

 だけどまあ、反対に雪乃さんが申し訳なさから話し掛けてくれたりなんて、してくれちゃったりなんて、……ないだろうな。

 春香ちゃんとの約束もあるから、大丈夫だとは信じたいんだけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ