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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
テスト勉強
33/223

 帰ってこい、俺。

 ここで良い結果を残させてあげれば、これからも俺に勉強を教えるよう頼んでくれるかもしれない。

 将来を考えて、ここはふざけるのではなく真面目に教えるべき。


 それから、二時間が過ぎていた。

 一人で勉強をしていても、そんなに集中力が保つことは絶対にないので、雪乃さんに悟られないようにしながらも、俺は時計を二度見し驚いていた。

 遅くまで滞在するつもりはなかったのだが、時刻はもう七時半。

 普通に高校生ならば出歩いていてもなんら不自然でない時間だが、俺からしてみれば十分な夜である。

 家でゆっくりしているか、銭湯に行っているかくらいの時間なので、帰宅後勉強のみというのはありえない時間帯である。どうしよう。


 ①急いで帰る ②泊めてもらう ③ほんとどうしよう


 ーここも③となってしまいますー


 まさか、こんな予定ではなかったのだ。

 真面目に勉強しようとは思っていたのだけれど、三十分もすれば春香ちゃんがやってきて、結局は遊んでしまうんだと思っていたんだ。

 二時間も集中して、時間を忘れて勉強をしていただなんて。

 いつの間にか、提出物も半分近くが終わっている。

「ありがとう。あんたのおかげで、それなりに問題を解けるようになった気がするわ。もし良かったらなんだけど、明日も教えてくんない? まだ一教科しか終わっていないじゃない。明日は他の教科もお願いよ」

 筆記用具を片付けている俺に、雪乃さんは言う。

 これってもしかして、テスト当日まで放課後は雪乃さんの家に来れるってことじゃない?

 このような奇跡、本当に起こってしまっても良いのだろうか。どうしよう。


 ①許可 ②喜んで ③却下


 ーここは②を選びましょうかー


 雪乃さんがせっかく誘ってくれているというのに、断る意味なんてないだろう。

「はい。雪乃さんに教えるという話ですが、俺の方がたくさん教えてもらえていますよ。雪乃さんさえ良いのなら、喜んで明日も一緒にお勉強致しましょう」

 断る意味なんて一つもない。

 だからこの返事は本心だったはずなのだが、雪乃さんは少し、困ったような苦笑いを浮かべているようだった。

「無理はしなくて良いのよ? 嫌なら嫌って言ってくれても良いんだから。私はあんたの君主じゃないもの」

 無理なんてしているつもりはなかったのだが、雪乃さんにはそう見えてしまったのだろうか。

 君主じゃない、か。

 俺は本当に嬉しいのに、それは雪乃さんには伝わっていなかったらしい。どうしよう。


 ①無理なんてしていない ②それなら、君主になってくれませんか?


 ー意味がわかりませんがここで②を選ぶのですー


 今更、無理をしていない、なんて否定したって逆効果に決まっている。

 ”ほらまた、きみは無理をして、そうやって笑うんだね……”

 何事にも無頓着そうな元気キャラにそう言われて、それ以来振り向いてくれなくなって、攻略失敗となってしまった痛い思い出が俺の中に蘇る。

 今こそ、ゲームで培った恋愛力を発揮するとき。

「それなら、君主になってくれませんか?」

 無理をしていると、そのことを認めているわけではない。否定するわけでもない。だからといって、無理に話題を逸らすわけでもない。

 雪乃さんの言葉をよく聞いて、俺はそう答えた。

 雪乃さんが俺の君主じゃないと言うのなら、いっそそうなってもらえば良いのである。

 そういった立場を作っておいた方が、友だちという曖昧な関係よりもきっと、彼女だって俺のことを信頼してくれる。酷使してくれるって、そうも思うし。

 友だちだと言われると、どこか遠慮してしまいがちだろう? だから。

 ここで勘違いしないで欲しいのは、酷使して欲しいわけじゃないってことね。

「な、何をそんな、理解が出来ないことを言っているの? 君主になれって、私があんたのっ?」

 驚き戸惑うこの反応は、予想通りである。

 これでなんとか誤魔化せたのなら、俺の作戦は成功。これからもきっと、雪乃さんと一緒に勉強出来る。

 そう思ったのだが、雪乃さんはしばらく考えると、答えを出したのだ。

「まあ、どうしてもって言うなら、別に良いわよ? あんたの君主になってあげる。だけど、裏切りとかは絶対に駄目だからね」

 まさかの了承である。

 願わくば了承してもらえらば、でもまあ、無理をしているという言葉を誤魔化せればそれで良い。その程度の思いで発した言葉なので、雪乃さんからの答えに驚きは隠せない。

 本当に彼女と主従関係が結べるのだろうか。どうしよう。


 ①交渉成立 ②裏切るかも ③願い下げだ!


 ーここはもちろん①ですよー


 裏切りなんてするわけがない。だって裏切る場所なんてないのだから。雪乃さん以外に、俺を受け入れてくれる物好きなんていないだろう。

 そう考えたときに、いくつかの顔が浮かんだ。

 堂本さん。彼女は自分をクズと卑下して、俺と近い視点から物事を見てくれる。俺にとっては、初めて出来た友だちといえるかもしれない存在だ。

 天沢さん。彼女は学校内で常に完璧美少女としての仮面を被っているが、実際はかなりの残念系美少女である。その姿を俺にだけ見せてくれる。本当に俺だけに見せる素なのだとしたら、俺を信じてくれているということなのではないだろうか。ただの哀れみではないと、そういうことなのではないだろうか。

 琴音さん。彼女は八百屋赤羽で買い物をする際に出会った、自惚れ美女である。俺との接点は少ないが、確か話し相手になってくれると言っていたような気がする。つまり話し掛ければ、適当だとしても嫌々だとしても、対応してくれるということなのではないだろうか。

 彼女たちならば……。

 しかしそれは裏切りとは呼ばないはずだし、雪乃さんだって俺を束縛したいと望むわけがない。

 だから俺は強く頷き、肯定の意を込めて大きく返事をした。

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