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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
テスト勉強
29/223

 もし本当にそうだとしたら、俺は自分のことを、包み隠さず全て教えたって良いくらいんだんだけどな。

 そんなわけないか。どうしよう。


 ①さりげない努力 ②あからさまな努力 ③頑張れない


 ーここは①を選んで頑張りたいと思いますー


 下心に気付かれないように気を付けながらも、俺なりに努力してみよう。

 彼女に、この美しい彼女に、少しでも近付くために。

「あ、あのさ、その……ゆっ、あぅえ」

 というわけで努力しようとしたのだが、無理だったみたいです。

 手は握っているが、春香ちゃんに話そうと言うつもりはないようだし、結局沈黙が広がってしまっていた。

 気不味いところだが、これは自分から話題を降るチャンスだ!

 そう思った。自分にとって都合の良い話題を広げ、他愛のない話に見せ掛けて、彼女の個人情報を収集できるのだと思った。

 しかし、そんなに簡単なものではなかったらしい。

 名前で呼ぼうとして、まず俺はたじろいでしまう。

 春香ちゃんだったら迷わずに名前で呼べるのに。そもそも、琴音さんのような美女も、名前で呼べるではないか。

 それならどうして、彼女のことは呼ぶことができないのだろう。

 ゆ、雪乃……さん。

 無理だった。脳内ですら、スムーズに名前を再生できないようだった。どうしよう。


 ①頑張る ②諦める ③絶望する


 ーここでも①を選びますよー


 どうしてなんだろうか。

 彼女のことだけは、軽々しく名前でなんか呼んではいけないんだって、そう感じるのであった。

「雪乃と呼んでくれて大丈夫よ。そうしないとわかりにくいでしょう? 苗字で呼ぶつもり? 言っとくけど、姉妹なんだから、それだと春香だって同じになるわよ」

 するとどこで俺が迷っているのかが伝わってしまったらしく、彼女はそのように言ってくれた。

 確かに苗字で呼んでしまえば、春香ちゃんとも一緒になっちゃうよ。

 そうだよね。彼女自身だってそう言っているんだから、下の名前で呼ぶしか、ないよね……。うん、大丈夫、俺ならできる。

 彼女が許可してくれているんだから。

「あっそうですか? わかりました。ゆ、ゆっ、雪乃さん……」

 なんとか声にはできたのだが、ボッと顔から火が出るような感覚がした。

 恥ずかしいなんて言ったレベルではない。

 これだけのことなのに、どうして俺はこんなにも。女性耐久値も経験値も低い俺だけれど、まっまさか、ここまでではあるまい?

 名前を呼ぶことくらいは、許可を貰えれば自然とできたはずだ。

 少なくとも、照れるくらいで恥ずかしがることはなかったはずだ。どうしよう。


 ①やっぱり苗字で ②頑張ってみる ③アダ名とか


 ーここでなんと③を選ぶようですよー


 でも頑張ろうにも、雪乃さん、なんて呼べない。

「どうして真っ赤になってるの? おじさんったら変なのー」

 からかうような口調で、春香ちゃんがそう言ってくる。

 どうしてこう子供というのは、人の痛いところを突いてくるのだろうか。

 素直で無邪気なところは可愛いと思うし、子供の特権と魅力だと思うけれど、こういう場合には傷付くのでやめて欲しいと思う。

 変だって、自覚しているから。

「その……、じゃあ、アダ名とかで呼んではいけませんか? やっぱり同級生の女の子を、下の名前で呼ぶということにあんまり慣れなくて、嬉しいんですけど、かっ、関係が疑われるというか。だからその、アダ名とかの方が、友だちって感じがして良いかな、とか思うんですけど、どうでしょう」

 挙動不審だ。完全に怪しまれてる。

 今更ながら自分の口下手さを痛感した。

 もうこんな状態じゃ、絶対に怪しまれる、そうに決まっている。嫌だ、帰りたい。

「ふん、随分と面白いことを言うのね」

 しかし当の彼女の方は、訝しむとか怪しむとか警戒するとかではなく、楽しそうに笑っていた。

 鼻で笑うような笑い方だけれど、決して馬鹿にしているような笑い方ではなかった。どうしよう。


 ①喜ぶ ②頑張る ③死ぬ


 ーここは②を選びましょうー


 引いている様子はないから、もう一頑張りしてみようかな。

 俺にこんな美女はもったいないし、釣り合うはずもないし、俺なんか彼女の視界にも映っているかどうかってところだろう。

 偶然、春香ちゃんが俺に懐いてくれたから。

 偶然、俺と同じ学校で、俺と同じ学年だったから。

 偶然、テスト前の期間に会ったから。

 そんないくつかの偶然が重なって、今は一緒にいるというだけ。

 そして一緒にいるという事実は、彼女が俺のことをなんとも思っていない、証拠でもあるような気がした。

「昇降口で出会でくわして、教室まで一緒に行った日を覚えているかしら? あの日のあんたも言ってたわよ。あんまり慣れなくて、って。何もかもが慣れていないのね。今まで、どうやって生きてきたの? それに私、思うのよ」

 軽く落ち込んでいた俺に、彼女は優しくそう言い出した。

 その言い方は冷たいものだったけれど、突き放すようだったけれど、俺にとってはひどく優しいものに感じられたのだ。

 彼女の声に聴き惚れながら、彼女の言葉に喜んでいると、思わせ振りな微笑みで言葉を区切った。

 思うのよ。と言ってから、少しの沈黙を作るのだから、彼女はテクニシャンだと思う。

 こんなにも意地が悪いこと、きっと俺にはできないから。

 こんなにも鼓動が早くなるなんて、触れ合っているわけでもないのに、愛を囁かれたわけでもないのに。どうしよう。


 ①問い返す ②待つ ③耳を塞ぐ


 ーここも②を選ぶとしましょうかー


 一体、彼女はその先にどんな言葉を紡ぐつもりなのだろうか。

 それを待つのは不安で、春香ちゃんと繋いでいる手に、少し力を込めてしまっていた。

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