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 以上のことから、俺はそのゲームを紹介するに留めておこうと決めた。

 それに天沢さんに遠慮をさせてしまったり、気不味い思いをさせてしまったりするだろう?

 うん、きっとそうだよ。だから俺は、余計なお世話とかお節介とか、自己満足とか言われるのが嫌だから。

「そんな天沢さんに、良いゲームがありますよ」

 テレビショッピングみたいにそう言って、なんとか天沢さんの興味を引く。どうしよう。


 ①タイトルを教える ②後日資料を送る ③一緒に買いに行く


 ー選べるならばここで③を選ばない理由がないでしょうー


 普通にタイトルと大まかなあらすじを説明しようとして、俺は気が付いてしまった。

 これはずばり、さりげなくデートにお誘いするチャンスなのではないだろうか。

「良いゲームとは、なんでしょう。もったいぶ、……何よ、焦らしているつもりなの?」

 勿体振らないで教えて、天沢さんが言おうとしていたのはそういったことだろう。

 わざわざ言い直す必要はないと思うが、そこに触れるのもまた面倒だから良いや。

「ここでタイトルを言ってもわかりにくいと思うので、後で一緒に買いに行きませんか? どこに行っても売っているようなゲームでもありませんし、直接入手までを俺がサポートしますよ」

 邪な気持ちを必死に押し隠して、自然な微笑みを意識しながらそう言うと、天沢さんが戸惑うようにこちらを見る。

「でも君、それじゃあ、まるで――」

 パソコンがエラーを起こしたときのような、ドゥンという嫌な音が俺の耳に聞こえてきて、天沢さんの声が最後、掻き消されてしまった。

 驚いて辺りを見回すと、そこはもう森なんかではなく、校庭のど真ん中であった。

 もちろん、二人きりでもなくなっている。どうしよう。


 ①逃げる ②戸惑う ③叫ぶ


 ーここは②を選ぶしかありませんー


 突然の出来事に、俺は戸惑うことしかできなかった。

「タイムアップのようですね。私はまた、天沢美海に戻ります」

 優しいその声が聞こえたと思うと、隣りにいたはずの天沢さんもいなくなっていた。

「すっげーだろ! あの山さ、仮想現実とかなんちゃら、よくわかんないけど、ゲームで作られた偽物なんだぜ! 気付かなかっただろ!」

 相変わらずな撫川先生の叫び声、一気に凄まじくなる生徒たちの騒ぎ声。

 あの山がゲームだったという事実には驚きを隠せないし、すごいとは思う。

 しかし今の俺はそんなこと、全く気にならなかった。頭が痛むくらいに五月蝿いのだが、ほんの少しも気にならなかった。

 彼女は何を言おうとしていたのだろうか。途切れてしまった言葉が気になって。

 彼女は何を思っていたのだろうか。最後に俺の目に映った、彼女の喜びとも困惑とも取れる、複雑で儚くて……何よりも美しくて。

 その表情が頭から離れてくれなくて。


 それから数週間が過ぎると、二年生になって最初のテスト、第一学期中間テストが迫ってくる。

 天沢さんのことを妄想しながら、ゲームの中で美少女攻略に力を入れる。そんな日々を過ごしているような場合ではないのだ。

 正直に言おう。

 俺の成績は、あまりよろしくないのである。

 去年のテストで一番良かったときでも、中の下といった感じであった。どうしよう。


 ①勉強 ②猛勉強 ③なんとかなるさ


 ーここでも②を選ぶことができるんですねー


 俺は決意した。

 高校二年生、一年遅れてしまったけれど、高校デビューをしてみせるんだと決意した。

 リア充になりたいのは確かだけれど、自分だけ楽しいけれど社会に出てからは蔑まれてしまう、そんなリア充になりたいわけじゃない。

 密かに馬鹿にされる存在ではなく、憧れられるくらいの存在になりたいのだ。

 だから今年こそ、テストの点数も上げてみせる。

「久し振りだね、おじさん。はるちゃんのこと、覚えてる?」

 テストまで一週間を切って、やっと決意を固めた俺は、バッグを持つ手に力を込め帰宅路を辿っていた。

「ねえねえ、おじさん」

 暮らしているアパートまで着いて、立ち止まったところで、俺は隣りにいる小さな気配に気が付いた。

 春香ちゃんである。ランドセルを背負っているところを見ると、小学生なのだろうか。どうしよう。


 ①家に誘う ②家に帰す ③無視する


 ーここでも②を選ぶようですー


 ちょっと待って?

 ランドセルを背負っているということは、学校帰りということになる。これは不味いのではないか。

 一緒に帰る人とかはいないのだろうか。

 この小さな子を、一人で帰れと追い返すのには少し抵抗がある。

 しかしここで俺の家に誘ってしまえば、幼女を誘拐したとして逮捕されてしまう。それはないとしても、ロリコンとしてリア充の夢は絶たれてしまう。

 どうしたら正解なんだろうか。

「もちろん覚えているよ、春香ちゃん。……えっと、春香ちゃんは、どうしてここにいるんですか?」

 必死に言葉を選んでそう問い掛けると、春香ちゃんはきょとんとしてしまった。

「どうしてって、決まっているでしょ? おじさんが見えたからだよ」

 何がおかしいのかわからないとでも言うように、彼女は言うのだけれど。俺が見えたからって、その意味はさっぱりわからない。

 小学生に詳しい説明を求める、俺の方が間違っているのだろうか。

 ただでさえコミュニケーションを取ることが苦手だというのに、更に慣れない子供が相手なのである。扱いに困るったらありゃしない。

 どれくらいのレベルで会話をすればわからない。

 馬鹿にしていると、賢い小学生に抜かされちゃったりもするしさ。怒らせてもいけないし。

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