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リア充としての仮面も持ちながら、きちんと冷静な顔も持ち合わせている。
そしてリア充とは対極とすら言える、二次元への愛情も持っているんだ。
あの人、イケメンじゃない? うわぁ、やばい。
彼のこと、好きなんでしょ。告っちゃえば良いじゃん、大丈夫、行けるって。
その程度の恋話しかしない女子とは違うのだ。自分に絶対的な自信を持って、叶うはずのない恋すら叶うと信じて疑わない、自意識高い系と自意識過剰系を間違えてしまった女子とは違うのだ。
何をどう頑張っても叶わないとわかっている、そんな恋に夢を見れている。
二つの顔を持ち合わせた彼女のことを、羨ましいと思ってしまう。どうしよう。
①俺もなりたい ②俺ではなれない ③隣にいたい
ーここでは③を選びますー
ただその羨ましさは、自分もなりたいというものとは違う。
彼女の隣に自分がいられたなら、どちらかと言えばそういったものであった。
「ごめんなさい。空気を悪くしてしまいました? 私はそこまで優秀じゃないし、空気を読むことも気を使うこともできませんから。……では、話を戻しましょう」
そういえばそうだよね。
俺と天沢さんとは、ゲームのことを話そうとしていた。
最初からそれを目的にして、ペアを組んだわけではない。天沢さんが誘った理由はともかく、俺は少なくともそうじゃなかった。
しかしだれもいないここに座った時点で、ゲーム愛を語ることが目的となっていたのだろう。
だって俺は天沢さんの友だちになりたいのであって、恋人になりたくて鼻の下を伸ばしているわけじゃないんだから。
彼女持ちのリア充にはなりたいけれど、女の子をその欲のために利用もしたくないし。どうしよう。
①でも彼女がほしい ②友だちがほしい ③やはりゲームが
ーここは②になってしまうそうですー
女の子と友だちになれたら、あちらも好意を寄せてくれるかもしれない。
少し下心が見え隠れするけれど、やっぱり俺から強要して、女の子を傷付けたくはないじゃない。
その考えはリア充向きじゃないんだって知ってるけどね。
「ちなみに、それ以外でおすすめのゲームとかはありますか? どうやら私よりも詳しそうですので、情報を頂きたいのですが」
本当に周りに人はいないのだろうか。声が聞こえてしまってはいないだろうか。不安になるくらいに二人で騒いでいたのだが、しばらくすると話題にも尽き始めてくる。
響き渡る奇声の数が減ってきた頃、天沢さんはそう問い掛けてきた。
一つのゲームについて詳しく語りすぎると、ネタバレにも繋がるし、もしかしたら失望させることもあるかもしれない。
まだお互いに楽しみたいところがあるから、深すぎるところまでは語るまいと決めたのだ。
それと、異性の前で、その……堂々と如何わしいことを口にするのは、どうかと思ったので。
ここで話題を僅かに変えたのは、やはり天沢さんの完璧な気の遣い方だと思う。どうしよう。
①教える ②教えない ③逸らかす
ーこれは①で良いでしょうー
こうして天沢さんが俺に質問をしてくれているのだから、俺はそれに答えない理由なんてないだろう。
それで天沢さんが喜んでくれるなら。そして、俺の大好きなゲームの宣伝ができるのなら。
「ジャンルとしてはどういったものを望みますか? やはり、乙女ゲーでしょうか。いっそのこと、子供向けゲームだとかクイズゲームだとか、全く違うジャンルでも大丈夫ですよ」
俺はゲームの専門家か。俺はゲーム屋さんの店員か。
自分で軽くツッコミを入れながらも、大まかなジャンルを天沢さんに訊ねる。
「変化は望みません。乙女ゲー、それもできるだけ、キャラクターがドSなものが私は好きです。現実からは離れたいので、学校や学園での話よりも、異世界や歴史などの方が望ましいですね」
最初に言った変化を望まないというのは、本当だったらしい。
そのことから、「今宵は月が綺麗ですね」というゲームがどれだけ天沢さんに響いていたのか、ということが知れる。
ストライクゾーンが広すぎる俺とは違って、天沢さんにとっては、狭いそこにピンポイントで狙われていたらしい。
似たようなゲームはあまりプレイしないけれど、持っていないわけではない。
天沢さんの望みに合うゲームに、俺はちゃんと心当たりがある。どうしよう。
①紹介する ②貸してあげる ③買ってあげる ④教えてあげない
ーここでも①を選んでしまうとのことですー
俺が買ってプレゼントしてあげる。なんてするほど、俺の懐は豊かじゃない。
俺がプレイしているものを貸してあげる。なんてことをするのは、恥ずかしいのでやめておきたいところだ。
どんなゲームをプレイしているのか知られることも、十分に恥ずかしいところがある。
特にこういった恋愛もの、その上、イケメンに囲まれるゲームなんだぜ? 男がそれをやっているのは、相手に知られていることとはいっても恥ずかしいだろう。
それなのに、使っているものを貸したりしたら、データを覗くことが簡単にできてしまうのである。
わざわざ覗くことなんて、だれもしないってわかってはいるんだけどさ。




