ね
「あっ、見付けましたぁ。お久しぶりですぅ。ミーと一緒に、ペアを組んで下さりませんかぁ?」
多くの生徒たちがペアを組んで出発しているというのに、いつまでも出発点で、堂本さんと二人。
いい加減、待っていることにも辛くなっていたところで、美しい声が聞こえてきた。
天沢さんっ! 俺を迎えに来てくれたんだ。どうしよう。
①飛び付く ②喜ぶ ③断る
ーここは②としましょうかー
驚いたような、寂しそうな堂本さんの顔は見ないことにして、俺は天沢さんの誘いに大きく頷く。
「ありがとうございます! 喜んでっ!」
嬉しさをそのまま表情に出す俺に、天沢さんも嬉しそうな微笑みを浮かべた。
俺を裏切り者と恨むかのような、その視線は痛いけれどキニシナイキニシナイ。
だって俺の方が勝ち組だったんだ、それだけのことだもん、ね。
ここまで残され続けていた時点で、全体で見たときに勝ち組だったかどうかはともかく。
あっでも、天沢さんのような美女に誘われるということは、全体で見ても勝ち組かな。
「それでは行きましょうかぁ」
どういうつもりなのか、そう言うと天沢さんは、細い指を俺の手に絡ませてくる。そして反対の手で、ジャージの胸元にシールのようなものを貼り付けてきた。
見れば、天沢さんも同じものを付けている。
ペアとなった証拠のようなものなのだろうか。どうしよう。
①お揃い ②剥がし捨てる ③出発
ーここは③でしょうー
手を掴んだまま天沢さんが走り出してしまうので、嫌でも俺は走らなければならない。
そりゃまあ、手を繋いで一緒に駆け回るなんて、リア充の青春っぽくて素敵なものだと思う。
しかし、これは違うと思うんだよね。
手を繋ぐというよりは、逃げられないように一方的に掴まれているという印象である。一緒に駆け回るというのも、一方的に彼女が引っ張っているとしか思えない。
もちろんさ、嫌なわけじゃないんだよ?
天沢さんみたいな美女が隣なんだから、嬉しいことは嬉しいんだけど。
斜面であることすら気付かないというように、不安定な足元にも気付かないというように、猛ダッシュで走り抜ける天沢さんには、恐怖しか覚えない。
幸せだし天沢さんは綺麗なんだけど、掴まれている右手とそのスピードで動かされている両足が千切れそうだ。
「このくらいで良いでしょうかぁ」
そろそろ限界を感じ始めていた頃、天沢さんはそう言って急停止をした。
「うわぁ!」
いきなり止まるものだから、そのまま俺は前に倒れ込みそうになる。
それを天沢さんが細い腕で支えてくれ、人工的なものが全く見当たらない山道の中で、木に掴まりながら二人そこに立つ。
「この場所ならば、恐らく誰もいらっしゃらないと思いますぅ。安心して二人でお話出来ますねぇ」
何を話すつもりなのか。不安には思いながらも、天沢さんの言葉を聞く。どうしよう。
①同意 ②話題提供 ③逃亡
ーここは①となりますかねー
残念系美女なところが見られる天沢さんだから、何を言い出すのかと身構える。
しかしこの誰にも邪魔をされることのないこの空間の中で、美女と二人きり。秘密の話をするというのは、かなり興奮するところがある。
「そうですね。安心して話をすることが出来ましょう」
体勢はかなり不安定だが、他人に漏れる心配もなく話は出来そうだ。
機密情報漏洩を心配するような立場にはないんだけどね。
「ここ出会った天沢美海は、学校に普段現れる天沢美海と、別人としてお考え下さいね。まずはその約束をして下さらないと、私としては十分な安心と言えませんから」
美しくも愛らしい微笑みを浮かべ、天沢さんはそう告げる。どうしよう。
①約束する ②約束出来ない ③約束しない
ーここも普通に①で良いのではないでしょうかー
別人として考える、か。
でも普段、学校に通い過ごしている中で、天沢さんの接点なんてないから大丈夫だと思うけどね。
俺と天沢さんが会話をしていたら、周囲の視線が刺さることだろう。一周回って、なぜ一緒にいるのかという疑問に戻ってくるかもしれないね。
今回ペアを組んだことも、かなり不自然だろう。
天沢さんが優しさゆえに、俺を誘ってくれたようにしか見えないのだろうか。
「わかりました。お約束致しましょう」
周りの見え方を気にしながらも、約束を求めているようなので、とりあえず俺はそう返しておく。
「ありがとうございます。これで心置きなく、私が私として会話を出来ます。もしかしたら、友だちと呼ぶことも出来るのかも、……しれませんね」
何を思うかわからぬ複雑な笑みで、天沢さんはそう言う。そこから、急に満面の笑み。
「好みのタイプとか、語り合っちゃいましょう!」
楽しそうに言う彼女の姿は、同族の臭いしか感じない。
外見の美しさがあるから、リア充の仮面を上手く被れているだけで、本当の彼女は俺と同じ世界に生きているのではないだろうか。
それを考えたら、好みのタイプを語るということが、単なる恋話じゃないことなど明白だった。どうしよう。
①語る ②語り合う ③語ってもらう
ーこれは②を選びましょうよー
二人の価値観を共有してこそ、天沢さんにとっての友だちという存在に近付けるのだろう。
だったら語り合えるくらいじゃないといけないね!




