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って、ベタなセリフにもほどがあるよね。
どこからか持ってきたような、使い古されたセリフを使っているようじゃ駄目だ。最新を取り入れていかないと。
「……あの……、着いた、みたいですよ?」
話し掛けるのも戸惑うような様子で、少し怯えたようにすら見える様子で、堂本さんはそう教えてくれた。
まずは笑顔。
そうだ。作戦を考えるのは当然だが、笑顔を絶やすのは良くないことだ。
堂本さんがこれで去っていってしまったら、俺はどうするのだ? 諦めてしまうのか?
元からメンタルは強くないんだから、なかったことになど出来ないだろうに。どうしよう。
①謝る ②笑顔 ③諦める
ーそりゃまあ②ですよー
教えてくれたことにお礼を言うと、とりあえず笑顔で対応する。
雰囲気を悪くしてしまっただろうし、謝らなくてはいけないとも思った。
でも謝ったからといって、更に気不味くなるような気もするから、確かに謝りもしないのは問題だけど。
そこまで考えてから、俺は一旦思考をリセットする。
……この、一人で繰り広げる葛藤が行けないんだよな。
何も考えないで動くわけにはいかないけれど、考える時間は出来るだけ短く。頭の回転が早ければ良いんだよね。
「運動部の方々はジャージですが、コノみたいな朝練もやらない文化部、まして部活動に所属さえしていない奴らは、登校したところなのでもちろん制服です。遠足の目的が明かされましたから、観念してジャージに着替えるんですね」
遠足の目的? 首を傾げる俺に、堂本さんは顎を少し動かし外を見るように促した。
外に何かあるのだろうか。外に何か、あった。
「山?」
驚きのあまり、つい声が溢れてしまう。
この辺に山なんてなかったはず。というか、遠足の目的ってもしかして山登りなの?
堂本さんが観念してと口にした、その理由がよくわかった。どうしよう。
①嫌だ ②楽しもう ③仕方がない
ーここも②を選ぶしかありませんー
こうなったら、楽しむしかないじゃないか。
やりたくないと言ったところで、そんなのはきっと許されないのだろう。先生によって、強制されるに決まっている。
それだったら楽しむしかない。
「では、行くとしましょうか」
普段から制服の下にはジャージを着ているので、着替えというほどの着替えはない。
むしろじゃなかったら、バスの中なんかで着替えさせないだろう?
堂本さんがそうしていたので、畳んだ制服はバスの中に置き去りにして、手ぶらでバスを降りる。
何も聞かされずに連れて行かれたので、バッグは学校にある。だから上着を持っていないので、必然的に半袖短パンで行かなければならないことになる。
なぜ知らせておかないんだ。
そうは思うけれど、今更そんなことは仕方がないだろう。
地味に風が冷たいので長袖くらいは着たいところだが、我慢するしかないのだろう。
しかし山登りって、怪我の危険性だってあるし、長袖ながズボンの方が良いんじゃないの?
転んだときとか、装甲がいくらなんでも薄すぎるんじゃないかな。
楽しもうとは思うけれど、浮かんでくるのは不満ばかりだった。どうしよう。
①楽しむったら楽しむ ②無理だって ③もう帰る
ーここで①を選べるのだそうですー
後ろ向きな考え方は全て捨てて、前向きに生きていかないと!
きっと山を登っていれば暑くなってくるだろうし、この格好でも大丈夫。寒くなんかない。
無理矢理そう思い込ませて、先生の説明に耳を傾ける。
どうやらこの遠足にきていたのは、我がクラスだけではなかったらしい。当然のことなのだが、撫川先生ならばやりかねなかったから、そこで一安心する。
だよね。他のクラスもだよね。
まさか全校生徒できているとは思わなかったけどさ。
二年生の学年行事かと思ったら、学校全体での学校行事だったらしい。
「どうします? 他学年に知り合いなんていらっしゃいますか?」
気を付けろとか、競争だとか、そんなどうでもいい言葉の中に、聞き流せないものが一つあった。
他学年とペアを組んで、二人で協力して山を登らなければいけないそうだ。
同じ学年でと言われてもペアなんて厳しいところなのに、他学年だなんて鬼畜にもほどがあるのではないだろうか。
グループだったらまだ、余りものとして、嫌な顔をされながら入れてもらうことが出来る。
しかしペアとなったら、そういうわけにもいかないだろう。
どうせ親しくない人と一緒に協力するのなら、仲の良い三人と俺、みたいなタイプよりも二人の方がましなのかもしれない。三+一よりはまだ、一+一の方が、差はなくて済む。
気不味いのはお互い様だろう。
だからこそ、仲良しがいる人にとって、その人とペアになれないのは地獄なのだろう。
それどころか俺のような奴と? 嫌がるはずだ。どうしよう。
①誘われるのを待つ ②誘う ③逃げる
ーここも①を選びましょうー
でも待っていれば、哀れに思い、誰かが声を掛けてくれるかもしれない。
学校内での評判を気にする、ぶりっ子系人気者が俺に声を掛けてくれるかもしれない。本当は死ぬほど嫌なくせに、嫌な顔一つせずに。
だったら誘って断られ続けるよりも、待っていた方が良い。
見たところ、堂本さんも宛がなくて困っている様子だし、それまで二人で話していれば良い。
そうすればぼっち感も拭われて、ただの待ち人のようではないか。




