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「バスに乗り込め! 席は適当で良いぞ!」

 先生の叫び声に、逆らうことも許されず俺はバスへと乗り込む。

 適当で良いとは言うものの、ほとんど開いている席などなかった。

 運が良かったのは、二人がけのシートが一つだけ残っていたということ。場所としては、一番前に座っている先生の、真後ろの席である。

 それ以外は、下手したら一人で二席を使ったりして、完全に埋まってしまっている。どうしよう。


 ①一人で二席は許せない ②堂本さんと ③別の人と


 ーこれはまあ②でしょうねー


 悪いことをしようとしているわけじゃないんだし、先生の真後ろの席でなんら問題はない。

 当然のように俺はそこに座り、堂本さんもその隣に乗り込んでくる。

 しかし、……近いな。

 どうして気付かなかったのだろうか。普段の席は机があるからともかくとして、バスの座席ではかなり近距離での着席となる。

 だからといって、今更席を替えることなど出来ない。

 もうバスは出発しちゃってるし。どれくらいの時間、バスに揺られていなければならないのだろう。

 荷物は持っていないので、荷物が当たることはないし、俺も堂本さんも大柄ではないので、狭いということもない。

 だからこそ、絶妙に足に当たる堂本さんのスカートに興奮してしまう。

 変態じゃないよ。男なんだから、これは仕方がないことなんだよね。

 スカートを踏まないように気を付けながらも、ちょっと悪戯したい心も湧いてくる。どうしよう。


 ①少しなら ②いけない ③成り行きに


 ーここでも②になってしまうのですー


 いけないよ。そんなこと、絶対にしてはいけない。

 だってもしそれで、堂本さんが転んでしまったらどうするのだ。怪我でもしてしまったら、どうするのだ。

 そのことを考えたら、悪戯を仕掛けることなど出来ないだろう。

 平気で人を傷付けられるほど、俺のメンタルは強く出来ていないし。

「どうかなさいました?」

 一人で葛藤を繰り広げる俺に、堂本さんは無邪気な瞳を向けてくる。

 不思議そうな表情をしているので、俺は彼女に笑顔で応じる。

 するとだね、天使が舞い降りたのだよ。

「でもなんだか、……緊張しますね。こんなに近くに座ることはありませんから、少し照れてしまいます」

 俺の笑顔にはにかみで返し、堂本さんは頬を微かに紅潮させる。そうして目を逸らすと、頬を指先で少し掻いたのだ。

 もう! こんなに可愛い生き物が存在してもよいものか。

 この一ヶ月間、堂本さんには良い友だち像を見てきた。

 それなのにこうして可愛らしい女の子としての姿を見せられてしまうと、意識をせずにはいられないではないか。

 だってこんなに可愛いんだよ?

「本当に、アナタは単純なのですね。結婚詐欺に引っ掛かったりしないか、余計なお世話とは知りつつも、コノは心配になってしまいます」

 俺が堂本さんの可愛さに胸を撃ち抜かれていると、彼女はそんなことを言った。

 今の彼女に、照れたようなはにかみは、無邪気な瞳の輝きさえも、全く感じられない。

 友だちとしてしか認識させない、親しみに距離を置いたいつもの堂本さんの姿だ。どうしよう。


 ①恋人に ②友だちで ③もう嫌だ


 ーここで①を選べるのだそうですよー


 あの可愛らしい表情は、作られたものであったというのだろうか。彼女が意図して作ったものだったのだと、そういうのだろうか。

 褒め称えたいほどの演技力である。

 しかし本当に期待しちゃっただけ、メンタルは擦り減るよね。

 やっぱり堂本さんは、友だちとしての関係しか求めてくれないのだろうか。

 友だち以上の何かに、関係が進むことなどないのだろうか。

 そもそも堂本さんが身に纏っているような、この拒絶感はなんなのだろう。

 いつだって彼女は笑顔なのに、いつだって彼女は優しいのに、どこかで俺を否定しているし拒絶している。

 それは、堂本さんを友だちではなく恋人として見ようとしている、俺への嫌悪感なのだろうか。

 恋人としては決して受け入れられないという、暗示なのだろうか。

「もしかして、怒ってしまいました? ごめんなさい。堂本木葉というクズが、生きている価値もないようなクズが、調子に乗ってしまいました。ごめんなさい、どのようにお詫びをすれば許して頂けるのでしょうか? それとも、許して貰おうという考え方が、間違っていましょうか。ごめんなさい」

 どんな意味があるのかはわからないけれど、堂本さんはときどき、俺を試すようなことをするのだ。

 すぐに謝るのも、いつものことである。

 何をしたいのだろうか。

 距離を近付けたいのか、それとも遠ざけたいのか。

 そのどちらなのかすらわからなかった。

 そしてそれさえも彼女は計算しているのか。ただ、不器用なだけなのだろうか。

 何もわからなくて、堂本さんの不思議に魅力を感じている俺もいるのだ。

 いつか、友だちなんかじゃいられなくなるって、わかっている。

 せっかく出来た友だちだから、この関係を崩したくはないと思っているんだ。だけど、俺はこの気持ちを抑えてなんかいられないだろうから。

 堂本さんの本心なんて、堂本さんの気持ちなんて、何も掴めない俺だけど。どうしよう。


 ①それが恋愛 ②やっぱり悪い ③これから知っていけば良い


 ーここは③に決まっていましょう! よくありがちなものですがー


 でも今は堂本さんの気持ちなんて知れなくたって、これからわかっていけば良いのだろう。

 最初から相手の気持ちが読み取れる、俺は超能力者じゃないのだから。

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