多
二人がどういった本を買おうとしているのかがわからない。
男の子だからとわざわざ言ってくれたということは、いかにも女の子らしい狙いが二人にはあるということなのだろう。
しかし相手がどういう類のともわかっていないのに、何か推しを語れというのは恥ずかしいのレベルの話ではない。どうしよう。
①合わせて語る ②遠慮なく語る ③黙る
ーついつい③となってしまうのですー
何が正解なのかと考えて、どうにも黙ってしまっていた。
「たまきは百花繚乱というゲームが好きなんですにゃ」
「愛しているのは君だけさ?」
もしたまきが言っているものが俺が思っているものと一緒なら、それはボーイズラブゲームである。
コミケで入手する同人誌なら、原作が普通の少年漫画だって、腐女子の手でそういう本に作り替えられてしまう。設定なんて正直関係ないくらい、そうされてしまう。
実際同人誌はネットで普通の男性向けの作品を読んだことがある程度だけれど、イメージながらそういうものだと思っている。
そして俺は、たまきと同じものを想像しているかどうか試すように、その百花繚乱というゲームのサブタイトルを俺は尋ねた。
違ったら、いきなり俺は疑問形で告白をしたことになってしまう。
ボーイズラブ所謂BLゲームなのかそれはと直接聞いて違っていたときに比べたら、それでも恥ずかしさはましなことだろう。
「えっとぉ、こっちとしては知らない体で言ったんですけど」
いつだって隙のないたまきが、キャラを作るのも忘れて驚いた様子だ。
ということは、よくあるタイトルだから偶然同じだけかと思ったのだけれど、俺が考えているものとたまきが考えているものは同じらしい。どうしよう。
①語る ②誤魔化す ③黙る
-ここは①でも大丈夫だと思いますよー
ドン引きされるか一緒に盛り上がってくれるか。
「はい。好きです」
「そういうゲームが好きなんですか?」
猫口調もなく、たまきは普通に聞いてくる。
驚いているからテンションが低いだけなのだろうか。それともやはり俺に対して……。
「そうい、そういうゲームとは?」
たまきが醸し出す圧力といえるほどのオーラのせいで、妙な緊張感を感じてしまっていけなかった。
「あたしはそのゲーム知らないんだけど、まっきーと同じ趣味ってことだったら、あんまり特別会議を別開催する必要はないかな。ちなみにちなみに、奇跡的に推しとかも一致しているのかな」
もうたまきの答えを待っている間も怖くなっていたところで、答えてくれたのは愛美ちゃんだった。
「秋原ですにゃ」
秋山というキャラクターと原田というキャラクターがいて、たまきはそのカップリングが好きだということを伝えてくれたのだろう。
安心したのは、たまきの中の猫が戻って来たところだ。
「違うようですにゃあ。それでは、そちらも教えてくださいにゃ」
俺の表情から完全に読み取ったようでたまきの笑顔も少し複雑そうだ。どうしよう。
①伝える ②教える ③黙る
-ここは②ですよー
たまきが言ってくれているのに、俺がそれを無視しているわけにもいかないだろう。
「青原ですよ」
青木というキャラクターと、たまきの推しにも入っていた主人公の原田の組み合わせが、俺としては一番好みのルートストーリーだった。
「でも原田受けなんですか。珍しいですね。そもそも百花繚乱が好きな人に実際会うことが初めてなんですけど、ネットで見ている感じでも原田受けは見掛けないので、ほんま珍しいなぁゆうてな。ほんまのほんまで思ってますねん。って、普段は抑えていますのに、興奮して地元の方言が出ちゃいました。てへぺろ、忘れてくださいにゃ」
似非丸出しの適当な関西弁を挟んで、たまきはそんなことを言う。
しかし彼女の言うとおり、俺とたまきの推しはどちらもにんきのところとは少しずれていて、それでいて珍しいものなのだ。
興奮して、話したくなるほど近い。
近い。近いだけに、悔しいというか、なんというか。
「ごめん、余計なことを言ったみたいだね」
俺たちの間に流れた空気を感じてか、愛美ちゃんが謝ってくれてしまった。どうしよう。
①逆にごめん ②ごめん ③俯く
-この攻略ではここで③になるのですー
ちゃんと俺だって謝らなければいけないだろうと思ったのだけれど、俯くことしかできなかった。
推しの違いは大きな対立を生む。
そのせいでこの空気を作ってしまっているのは俺だというのに、何も言えずに俯くことしかできないのだ。
そしてたまきもまた、同じように俯いてしまっているようだった。
怒涛のように語ってはくれたのだけれど、推しが同じとは言いがたいところだったので、たまきだって嬉しいばかりではなかったのだろう。
俯いていても仕方がないのはわかっている。
一番好きは一番好きなのだからそこに嘘は吐けないというだけで、俺は基本的に敵対とかはしていかない。どうでなければ、何でなければ、とは思わない。
しかしたまきのせいにするではないが、たまきがわりとガチっぽいから軽いようにもいきかねるところなのだ。
うむ。なんて言うべきかわからない。




