久
天沢さんと一緒にいたら、互いにゲームしか出来なくなることだろう。
勉強はほんの少しも出来ないようで、夏休みをゲームに浪費してしまって良いのだろうかと考えるところもあるけれど、俺はそれも構わないとも思っていた。
それくらい、ゲームに夢中になって時間が過ぎていた。
その日の夜。
俺だけでなくて天沢さんも同じように気になってくれたということか、気の利く彼女が俺のことを気にしてくれたということか。
「時間、決めておきます? 調子に乗って、ゲームばかりしているわけにもいかないでしょう? でもゲームに終わりなんてありませんし、飽きることもありませんし、放っておくとゲームしかしそうにありません。だから、勉強時間を決めておくことは効果的ではないかと思うのですけれど、どうでしょう?」
そうしっかりしたことをいきなり言われてしまうと、戸惑ってしまった。
「どうか、しましたか? その、何か変なこと言いました? だってずっとゲームしかやらないでいて、勉強は何もっていうわけにはいかないでしょうよ。それで、二年生の内容ならわかるはずだから、ゲームを教わる代わりに私が勉強をお教えするっていう……。あの、その、それで文系ですか? 理系ですか?」
唐突に挙動不審になりながら天沢さんは首を傾げる。
テンションで自然と話せるようになっていても、不意に挙動不審になってしまうのは俺も同じだから、……気持ちはわかる。どうしよう。
①共感する ②答える ③頼み込む
-ここも②となるのでしょうー
何を言うべきか俺は困った。だから素直に質問にだけ答えることにした。
気まずい初対面になったようだった。
「えっと、文系です、一応」
自信をなくすような内容ではなくて、自分では確実に言えることなのだけれど、なぜか声がフェードアウトしていってしまった。一応、なんて付けてしまった。
間違えなく文系です、自分ではわかっている。
「そっか、そうなんですか、困りましたね。文系なんですね。でもまあ、そこまで教科が違うわけではありませんよね」
この反応からすると、天沢さんは理系なのだろうか。
「ご安心を! 同じく文系です」
にっこりと笑って天沢さんは散乱している冊子を荒らし出した。
この中に学校で使うような教科書やノートも入っているということなのか。
「はいはい、そうだと思いましたよ。ツッコみませんよ?」
一瞬でも、言葉のとおり天沢さんは俺とは違って理系なのだということを考えてしまったことが悔しい。
天沢さんのことだから、そんな素直でストレートなことをしてくれるはずがなかった。
「えー、ボケ殺しは一番なしですって! あ! ありました! 二年の数学の教科書見つけましたよ! さてさて教えて差し上げましょう」
教科を申請した覚えはないのだけれど、勝手に数学ということに決まってしまっていたらしい。どうしよう。
①受け入れる ②拒否 ③別教科
-ここは③を選択しますよー
このまま天沢さんに流されるのも癪だったので、ノリを取り戻して俺は古典の教科書とノートを取り出す。
天沢さんがボケていてくれたら、俺も緊張せずに同じようにいられる。
そうしていると、友だちみたいに接することが出来た。
友だちらしいやり取りをしている間は本当に何を意識するわけでもなくて、自然でいられて楽しくて、厳しいツッコミも迷わず入れられる。しかし熱が冷めてしまうと、夢が醒めてしまうと、激しく人見知りをしてしまうのだ。
これが友だちごっこなんじゃないか、そんな考えが頭を過った。
誘ってあえて友だちごっこを演じ楽しんでいるわけじゃない。
それでも俺たちの関係はそうなってしまっているのではないか?
「何無言で違う教科出してるんですか。古典がやりたい気分なのか、一番教えるべき教科であるのかは知りませんけれど、そうならそれでも構いませんよ? ただ、教科書を探し直すので少々お待ちください。捨ててはいないはずなんです。本当です!」
「教科書なら俺が持って来ていますから、俺の教科書を見てくださいよ。テキストだけじゃなくて、教科書も参考書も持って来ていますからね?」
プリント類の山を見ながら俺が溜め息交じりに言い、ちらりと天沢さんの方を向けば、なぜだか彼女は赤面していた。
今の、どの言葉で……?
「そ、それはつまり、同じ教科書を覗くということですか? それが絶対に無理だから決して忘れものをしないよう念入りに念入りに過ごしてきたのに、ここで、ここで初めてを奪おうって言うんですね! 特別、ですよ?」
ネタだってわかっているのに可愛いからズルい。
しかし赤面に関してはわざと出来るものでもないよな。どんだけの演技派だよって話になる。
何か本当の理由があるということでしょ。
「誤魔化して隠すところもズルいですよね」
呟いてしまった俺の言葉は、天沢さんの耳には入っていないようだった。どうしよう。
①直接聞く ②それとなく聞く ③気にしない
-ここは①を選びますー
流してしまうには大きすぎる内容だと思った。
もし演技だとしたら、それはそれでそこまでしてくれているのを聞き流すのは悪い。




