と
「……はあ」
俺の楽しみにしていた、期待していたあの気持ちを返して欲しい。
そもそも去年から銭湯は使っていたけれど、あの美女に遭遇したのは初めてじゃないか。昨日は偶然、運が良かったってだけ。
何を調子に乗っていたんだろうか。
そうだよ! 会えなかったんだよ! どうしよう。
①諦める ②もう一回行く ③待ち伏せする
ー①にして下さいー
でもだからって、会うためにそこにいるとか、ただのストーカーになっちゃうもんね。
あくまでも俺は彼女を作りたいのであって、それを転じさせストーカーになりたい訳じゃない。
好きとストーカーの境界は、ちゃんと弁えているつもりである。
潔く諦めよう。
それに、偶然だったからこそ、下心も何もなかったからこそ、昨日はそれなりに接点を持てたんだと思う。
本当は今日の朝、話し掛けていったことも嫌がっていたのかも。
彼女は美人だから言い寄られた経験とか沢山あるだろうし、そういうのは嫌いなのかもしれない。
恋愛マスターになれるのはゲームの中だけだから、現実では、こういうときにどうしたら良いのかなんてわからないよ。
多分、押し過ぎるのは駄目だよね。
そう思ってあの美女のことは一旦忘れることにした。どうしよう。
①勉強 ②運動 ③ゲーム ④食事 ⑤寝る
ーここも①といきましょうかー
勉強をしていれば、そちらに意識が傾くから大丈夫だろう。
何をするにもあの人のことが頭から離れなくて。なんて、一途な純愛は謳っていない。そんなことを言えるほど、彼女のことを知りもしないし。
完全に浮かれモードな頭をリセットして、勉強に集中する。
今日から普通に授業が始まって、既に置いて行かれつつある。
リア充になりたいだとか、堂本さんのことだとか、授業中に考えていたことが主な原因だろう。
勉強に集中することが出来ない訳ではないのだが、授業に集中するのは苦手なんだから不思議だ。
そんなことを思っているうちに、復習も予習も終わってしまっていた。
あれ、意外と悩まずにスムーズな感じに出来ちゃったな。
時間としても、寝るにはまだ早いくらいだ。どうしよう。
①運動 ②ゲーム ③食事 ④寝る
ーここで②を選ぶんですねー
時間がある。ということは、ゲームをするということである。
やることはやったんだから、だれに咎められる謂れもない。
俺のことは構うなよ。俺がゲームしてようとなんだろうと、お前には関係ないだろ? 死ね。
なんて、反抗期真っ盛りみたいなことは言わない。
やるべきことを済ませてからゲームをする、俺は良い子なのさ。
だから、彼女を募集しています。
一人でそこまで考えてから、一人暮らし独特の寂しさを味わう。
ゲームは決して、それを紛らすためにやる訳ではない。ゲームは現実逃避ではなく、素晴らしいものなのだ。
そう思おうとするけれど、どうしても寂しさを感じてしまって。どうしよう。
①運動 ②食事 ③寝る
ーここではもう③を選ぶのですー
まあ夢中にならずに終わりにしたから、時間としても丁度良いくらいだよね。
ポジティブな思考を持とうと決めたからには、そう考えることにして俺はゲームを片す。
そして歯を磨いてそのまま眠りについた。
これでやっと二日目までが終了したことになります。
攻略対象となっている全員とは言わなくとも、この二日間でかなり多くのヒロインたちと、出会うことが出来たのではないでしょうか。
これからハーレム完成へと向けて頑張らないといけませんね。くっくっくっく。
翌日、目を覚ました午前七時。売り物にならない野菜や余ったものではあるが、一日を過ごすのに十分な食料だ。
規則正しい生活を心掛けるということで、もちろん遅刻間際の登校なんてしない。
そもそも、早寝早起き朝ごはんは基本である。
去年までの俺とはおさらばして、全くの別人に生まれ変わるのだ。その為には、それくらいの努力は当然だよね。
自分を変えようと決意して、高校二年生を迎えた。そこからまだ一週間も経たないというのに、世界はこんなにも輝きに満ちているのだ。周りにはこんなにも美女が溢れているのだ。今はいないけど。
それだったら、頑張れる気がするし、頑張るしかないって思う。
その幸運がいつまでも続くはずもなく、それからは今までの俺と変わらない感じになってたんだけどね。
八百屋赤羽に赤羽琴音という女神が降臨することは、滅多にないのだと気付いたし。
銭湯の美女とも、天沢さんともあれ以来一度も会っていない。
変わったところといえば、堂本さんという友人と日々を過ごせているということだ。
俺にとっては、それも大きな成長だよね。
多くを望み過ぎていた。そう諦めていたところに、俺を試しているような、悪戯なチャンスが与えられた。
もう四月も下旬。早めの登校にも慣れてきた頃。
教室に入ると、すぐに違和感を覚えた。
それがどこから発せられるものかと思えば、なんと教室に先生がいるではないか。
一見するとそれは普通のことに感じられるが、我がクラスの担任である撫川先生は、登校完了を告げるチャイムが鳴り終わってから教室に入ってくる。
生徒だったら遅刻になるような時間にやってくるのだ。
それなのに、今日は少しどころではなく早い。どうしよう。
①様子を窺う ②怪しむ ③偶然だろう
ーここは②を選びましょうー
偶然だとは思えなかった。一分二分じゃない、三十分も早いのだから。
何か理由がなければ、ここまで早い時間にわざわざ来たりしないだろう。時間があるなら職員室でコーヒーでも啜っていれば良い。




