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照れたように笑う彼女は、発言に反して可愛らしい。どうしよう。
①照れる ②従う ③注意する
-ここで①になるからいけないのですよねー
可愛らしい表情を向けられてしまったものだから、俺もどうしたって照れてしまった。
こんな様子だとバカップルみたいに見えるのだろうか。
「この辺りのアイテムなんていかがでしょうか?」
ピンク色の可愛らしいノースリーブのワンピース。節々でリボンに飾られたところも愛らしく、色合いと合わせて神様らしさを感じられるような可愛さだった。
ドレスだとかコスプレというようなほどではないので、誕生日パーティで戸惑うほどのものでもない。
完璧なチョイスだと思えた。
「へえ~、どんなアイテムよ」
店員さんにストレスをぶつけようとでもしているのだろうかというくらいに意地の悪い言い方で神様は睨む。
持って来てくれたワンピースを奪い取って、「ふぅん」と呟いた。
それがどういうつもりでのことなのかは俺にもわからない。
「ど?」
彼女が不機嫌になりませんように、そんな願いを持ちながら彼女の無言を待っていると、たった一言そう尋ねられた。
俺の感想を聞きたがっているといいうことなのだろうか。
せっかく一緒にいるんだから選んで貰うつもりでいると言ってはいたが、がっつり俺の意見を聞く感じなのか。
あんまり意見を採用されるとなるとそれはそれで勝手に責任を感じちゃうんだよな。
別に意見を聞くとは言ってくれたけれど、採用すると言ってくれたわけでもないのに、そもそも視線を向けて貰えるだけで嬉しくなっちゃっているんだろう。
きちんとした感想を答えられる気がしない。どうしよう。
①辛辣 ②デレデレ ③照れる
-ここで②になってしまうのですよー
丁寧な言葉を、参考になる意見となるように感想として送れたらと思ったのだけれど、どうにも彼女の愛らしさを前にそうはいかないらしい。
鼻の下が伸びてしまって止められない。
「可愛いし、可愛い神様に似合うんじゃない?」
「ちょっと雑な気がするけど……、キミが言うんじゃそうなのかな~。適当なことばっかりのファンよりは、参考になると思うよ」
俺は本気で言ったつもりだったんだけれど、冗談かからかい程度に神様には取られてしまったのかな。
膨れた頬で俺を誘惑して来る。
いや違う、誘惑じゃないんだって。
いやだって可愛いにもほどがあるんじゃないかと思うわけで!
「雑じゃないですよー」
「何それ! 今度はわざとじゃん! かっこ棒って書かれちゃうような奴でしょ~」
「神様が本当に可愛いから可愛いって言っているだけだよ。似合うだろうと思うのも本当」
「ちょっと嘘っぽいのが気になるんだけど、似合うってのはワタシもそのとおりだと思う。間違えないことだよね~。そんじゃ、まず試着するよ。好きな服を好きなように着せて、美少女を着せ替え人形にするのが洋服を買うときのベタってもんでしょ~?」
面白い友だちくらいの感じでいられたのだけれど、時折そうしてどうしたって抗えないほどの可愛らしさを見せられると、返事が出来なくなるから困る。
答えられないじゃないか。
言葉のキャッチボールというものをここで初めて知るように、気持ちの良い即答が出来ていたというのに、美少女性を再認識させられるとどうしたって無理だわ。
自然に会話をしていることも悪いことをしていた気になる。どうしよう。
①ファンに謝る ②クリスに謝る ③美海に謝る
-ここは全部を選ぶのですー
もうだれもに謝りたい。
神様のファンにはもう何より申しわけないよね。彼らは傍でずーっと神様のことを見守って、大好き全開で気を遣いまくって、彼女のために頑張っているというのに俺みたいなのがこうして隣にいる。
学校ではなんでもないのが増して腹立たしいことだろう。
そうして神様自身にも謝りたいよね。
勝手に彼女が俺のことを勘違いしているだけだし、俺だってそうじゃないってちゃんと否定しているだけなんだから、半分くらいは神様の方にだって非はあると思う。
なんだけど、彼女にとって男というのはきゃーきゃー言って跪いてくれるものという認識で、彼女に対してそうしない男というのは、だれもが他の女性に対して更なる熱狂的な愛を注いでいるためだと考えているらしい。
他の人のファンなら他の人のファンで、とりあえず美少女にアイドル的な愛を叫ぶことが当然というような認識が彼女の中にはあるのだろう。
だから俺だって当然に神様のことを可愛いと思っているに決まっているけれど、そうではないのだと勘違いした。
だとしたら、この点もまた神様のファンに謝り直さないといけないことだよね。
それに今日に関しては天沢さんにも謝った方が良いのかもしれない。
連絡がないから大丈夫だとは思うけれど、心配をさせてしまってなければ良いけど。
天沢さんが俺の心配をしてくれる前提がおかしいのかもしれないが、友人として彼女はそういうことをしてくれる優しい人だ。
そう思うと、申しわけなさが心の底からやって来る。
表情が暗くなっていく俺をどう判断したのか、神様は妙に悲しげな顔で俺の顔を覗き込んだ。




