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どんな顔をして、祭ちゃんは驚くことだろう。どんな反応をすることだろう。
誕生日パーティをすることは知らせるのだろう。
プレゼントを一緒に買いに行って、いざパーティ当日、高校生同士のバースディとは思えないほどにしっかりとした衣装を着てくる神様のことを……。
でも、祭ちゃんならそれくらいは想定するのかな。
俺がこうして二人のどちらとも話すようにはなっていなかった頃から、あの二人は”友だち”だったのだから。
神様のそれくらいのことはわかるのだろうか。どうしよう。
①クリスに言う ②祭に言う ③呑み込む
-ここで③を選ぶことになりましょうー
やはり衣装の用意など必要ないと、神様に言うべきだろうか。
または祭ちゃんに事前にそうしていくつもりでいることを伝えておくべきだろうか。
二人の間で結ばれた常識がわからないので、俺は言葉を呑み込んだ。
「あんまりに可愛い格好をしちゃうと、主役の座を奪うことになっちゃうよね~。やっぱり元の可愛さが違うってとかがあんじゃん? そりゃマツリちゃんは女子から見たらワタシよりも可愛いんだろうけど、それって一種の、見下したような可愛い~なわけでしょ~? 圧倒的美少女ワタシに男子諸君から注ぐ素直な可愛さへの可愛いとは違う可愛いだからさ~」
入る店を探して、歩きながらなんでもないことのように神様は言う。
本当になんでもないことのように言うから、この人はいつも怖いのだ。
表情を一切動かしはしないんだもんな。
「ワタシだってマツリちゃんのこと、可愛いとは思うよ? むしろワタシこそいっちばんマツリちゃんの可愛さがわかってるだろうね~。なんだけど、普通の人から見たら当然にワタシの方が可愛い。キミから見ても当然そうでしょ~? ましてキミは、全然従ってくれないし跪いてもくれないにしたって、一応は男の子だもんね。だからワタシがお洒落しすぎちゃうと困っちゃうよね~」
否定するのは難しかった。
跪くつもりはないが、神様の可愛さには俺だって正直、……クるところがある。
返す言葉が見つからなかった。どうしよう。
①否定 ②肯定 ③黙る
-ここも③ですー
言葉に詰まってしまって、すっかり黙ってしまうしかなかった。
「でもワタシの可愛さって罪の域よね~。実際、迷惑するときもあるんだ。少し都会へ出てみたらば、大体スカウトを受けるし、嬉しいんだけど面倒でね~。それにワタシはそうそういない美少女ではあっても、特別なほどの美少女ではない。騒がないから目立たないけど、だから非常識な取り巻きなんて着いていないけど、見た目だけならもっと綺麗な子がいること、知ってるよ。少なくとも一人は、嫌でも知らされちゃってるよ~」
ファンが付いて回るだとかではなく、ちやほやされるようなものではないけれど、シンプルに見た目だけならば圧倒的に美しい。……雪乃さん。
親しみやすい馬鹿さ、じゃなくて明るさと、あの笑顔を普段から外面に出していたならば、彼女ほどの美貌が放っておかれるはずがない。
けれど彼女はいつだって冷たい視線で、クールな横顔は必要以上に近付きにくさを演出してしまっている。
話し掛けるようなことなど、到底出来そうにもないことだろう。
「もうワタシのことを美少女として認識してしまっているからこそ、ワタシの行動の全てを彼らは可愛いなどと見てくれる。可愛いと叫んでくれる。きっと今ならば、意味のわからないことを言おうとも叫んでくれるの~。この地位を確立したのはワタシの努力だけど、顔だってあってのことに決まってるし、それにここまで来るとちょっと苦しいんだよね~」
「苦しい、んだ」
「そりゃ苦しいよ。何回も言ってると思うけど、ワタシが欲しいのは友だちだからね~。仲良くなりたいのに、仲良くして欲しいのに、距離を取られて苦しくないわけない。それに、ワタシ、マツリちゃんの応援をしたときに思ったんだ。乗っ取っちゃって、これじゃワタシ、マツリちゃんの応援じゃなくて邪魔だって思ったの。わかっちゃいるんだけどさ~」
笑顔のままで表情の動きはなく、くるりと回って髪を靡かせると近くの店へと入った。どうしよう。
①着いていく ②メンズ店へ ③一緒に選ぶ
-ここは①でしかありませんー
レディースオンリーの店なのだようなので、入店する前にどうしたって少しは躊躇いで止まった。
ここに入って来る男とは、どういう奴なのだろう。
今の俺のように女子に連れられてくるものだろうか。って、そのパターンって恋人確定じゃないか。
男一人で店に入って来ることもあるのだろうか。
女装目的なのか、プレゼント目的なのかは、その人の外見で判断されてしまうことになるのだろうか。可哀想に。
何にしても、何がどうであったとしても、普通にしてたらこの店に入る男なんていないんだろうな。
いかにもお洒落女子しか来なさそうな店だ。
気まずい。気まずい。居た堪れない。
男性客がいないわけではないけれど、恋人らしき女性と仲睦まじく洋服選びをエンジョイしているような人で、いや俺だってちゃんと神様って言う美少女と一緒に入っているんだけど。
緊張は、尋常じゃなかった。




