呂
話の輪に入っていない俺は知らないけれど、神様ほどの人となれば、いくらだって陰口を叩かれていることだろう。
本人はそれを気付いている上で気にしていないのだ。
気にしないふりをしているようで、本当に気にしていないのだろうと思う。
俺なんかには見せないだけで、どこかで傷付いているのかもしれない。どうしよう。
①押し切られる ②言い返す ③抱き締める
ーここは②となってしまいましょうー
どうにも俺は止まれなかった。神様の様子に、留まる気になれなかった。
「俺さ、神様の陰口なんて聞いたことないんだけど。神様について聞く噂なんて、その可愛さについてばかりだし」
「それは男だからでしょ! 知ってる! ワタシが男どもにチヤホヤされてることくらい、理解してるからね~」
こう言われてしまっては、その後を続けられなかった。
俺は女子の中にいたことなどないのだから、当たり前だった。
男子の噂だって欠片くらいしか入ってこないのだから、女子の噂などが入ってくるはずなどがなかった。
だから何も言えない。
「だったら神様の噂が悪口であるとは限らないじゃないか」
「ワタシが可愛いのは噂じゃなくて事実。あれ? そんじゃ、あの子が地味なのも、陰口とかじゃなくて事実。ね~、ワタシとキミは何を言い合ってるんだっけ~?」
彼女の苛立ちは唐突に収まったらしい。
言われると答えられない。何を言い合っているんだっけ。
明確な怒りのポイントがあったとしたら、それはコノちゃんを見下す彼女の態度に対してだ。
だからといって、その気持ちをもう一度興そうとして興すのはまた違っていよう。
「なんでも良いや。そんなことよりも~、マツリちゃんだよマツリちゃん」
こうして彼女がそんなことと言い表すのはいつものことだ。
今更、こんなことに対して何を言うものでもないのだろう。
何も神様と言い合いがしたいのではない。誕生日のお祝いをしたいという気持ちには賛成だし、彼女の強引さにはどうかと思うけれど、友人を想う気持ちは彼女なりに本物なのだろう。
悪気がないからには、何も言いづらい。どうしよう。
①指摘だけ ②責めるだけ ③言及しない
-ここは③を選んでいきますー
神様だって俺に気を遣われたくなどないだろうし、聞き流されるのを嫌がっているようではあったけれど、全て指摘していたらあまりに話が進まない。
それに、言っても良いとは言ってくれるものの、神様は必ず言い返してくる。
だから更に話が進まないのだ。
「誕生日パーティだよね。誘ってくれるのは嬉しいけど、相談なら力になれないと思うよ。俺、誕生日を祝った経験も祝われた経験もないし、彼女の好みだって知らないから」
言ってて情けなくもなりはするけれど、事実だからそう言わないでもいられまい。
知ったような顔をしてみたところで、そんなものはすぐにバレる嘘だ。
強がりな嘘を吐いてみるよりは、最初から正直に言った方がまだ惨めではないんじゃないかと思う。どっちもどっち、というのは事実は変えられないから言っちゃ駄目ね。
彼女がそれに敏感に気付いて気にするかどうかには拘らず、彼女に対してそのレベルの低い嘘は良くないだろう。
普通だったら、こんな俺の悲しい事実には反応に困るところだが、そんな気の遣い方や空気の読み方を彼女は知らない。
空気が悪くなることに気付く彼女ではない。
「それもそうね~。キミもワタシもマツリちゃんが何をしたら喜ぶなんて知らない。知ってるわけない。そうなんだよね~。だけどさ~、いろいろと考えたなら、気持ちがあるんだったらば、なんだって喜んでくれるに決まってんじゃん。むしろ、喜んでくれないなんてどゆこと~?」
ものが何であれ気持ちがあれば嬉しいというのは、言うにしても受け取った側が言うものだろう。
少なくとも、あげる側が何をするか考える前に言うようなことではない。
喜んでくれるだろうとは思ったにしても、喜んでくれないことをどういうこととはそれこそどういうことか。どうしよう。
①ツッコむ ②スルー ③落ち着く
-ここは②を選びましょうー
漫才をやっているような速度でのツッコミの必要性だから、神様の発言にツッコミを入れてはいられない。
喜んでくれないなんてどういうことかとは、自信と余裕のなせる業だ。
「優しい子だから、何をしたって喜んでくれはするだろう。だけど、だからこそ、本当に嬉しいと思えることをしてあげないとだろ。俺も神様も気を遣うのは苦手だけど、彼女は気を遣える人だから、気を遣わなくて済むことをしよう。祝われる側を困らせないで、ちゃんと祝ってあげて、ちゃんと喜んで貰おう。せっかく誕生日パーティをするんだから、本当に喜んでくれることをしよう」
「……そうね。せっかくだから喜んで貰いたい。それはそうだよね~」
溜め息を吐きながらも、神様は本心から喜んで貰いたいとは思っているのだろう。
その気持ちまでが嘘だとはとても思えなかった。
「あのさ、マツリちゃんもワタシたちと一緒にいたいって思ってくれてるんだから、一緒に買い物に行っちゃうのはどう? 良くない? 良い考えだと思わないないない?」
にっこりと笑った神様の心が、嘘か本当かはさっぱりだった。




