礼
ここでサービス精神を働かせる意味がないのだから、恐らく無意識に、彼女は光り輝くような笑顔を俺に向けて、上目遣いに小さく首を傾げる。
「そういうキミは? 部活動なんてやってるイメージないけど、何部なのさ~? 美女を侍らせていることを納得することが出来るような部活じゃなかったら許さないかんね~」
許さないと言われても、美女を侍らせていることに納得するような部活とはどんな部活のことなのか。
俺が部活動をやってるイメージがないんなら、そのイメージのまま納得してくれ。どうしよう。
①はぐらかす ②正直に ③嘘を吐く
-ここで②を選ばないわけにはいかないでしょうー
何にしたって、どうせすぐにばれるような嘘を吐いても仕方がない。
「帰宅部だけど」
「でしょうね」
即答で、一瞬での納得だった。
でしょうねって、そう思うんだったら本当に変な言い方をしないで欲しい。
「美少女とやりたい放題する俺様には、部活なんてやってる暇はない! ってか? いやはや、実にキミらしいことじゃないか」
悪役らしい笑い方で散々笑ってから、神様は悪戯っ子のような笑顔を俺の目の前まで持ってくる。
「反論、しないんだ~? そうだよね、出来ないよね~、だってそれが事実なんだから。目標は全ての女子を制覇することかな? それともブスには興味ない? ワタシみたいな美少女とか、随分特別に想ってるらしい天沢先輩みたいな美女にしか、キミは目もくれないのかな~?」
どんなに可愛い顔で、可愛い声で言っているにしても、それだって彼女の言葉には悪意というものがこめられすぎていた。
もしこれがわざとでないのなら、悪いけれど、彼女が友だちを作るようなことは出来ないだろう。
自分のことを美少女と言い切るところは、実際にだれがどう見ても間違えなくそうなのだから今更構わないのだけれど、この煽りはさすがに何も思わずに聞き流すには苦しい。
しかしこれだけに留まらず、俺が呆気に取られて何も言えないでいると、彼女は更に続けた。
「でも変だね。堂本さんはなぜだかキミといつも一緒にいる」
これはつまり、遠回しでもなんでもなく、彼女はコノちゃんがブスだということを言いたいのだろう。
客観的に見て、外見だけを神様と比べたなら神様の方が優れているのかもしれないけれど、こんな風に言われる理由はない。
顔こそ神様ほどの飛び抜けた輝きがあるわけではないにしても、それだってあれほど素敵な子にどうしてこんなことを平気で言えるのだろうか。どうしよう。
①話を合わせる ②納得する ③責める
-ここは③を選ぶに決まっていますー
放っておくとこの人は何を言い出すかわかったものじゃない。
「神様から見たら、コノちゃんは可愛くない、ということ? だとしたら、その目は節穴なんじゃないかって思わないではいられないな」
少しきつくなってしまったかとも思ったけれど、別に神様は気にした様子など欠片もない。
「何それ。も~う、失礼しちゃうな~。だって他に比べてあの子ったら地味な顔してるじゃないのよ~。ね~、ね~、ワタシの言うとおりでしょ~? だってそうじゃん!」
唐突に彼女からの逆切れがあった。
こうやって言う神様が華やかなことを否定出来ないから、彼女はそういうところが狡いと思う。
もしこの場にコノちゃんがいたとしたら、彼女は神様の意見の方に頷き、俺の反論を止めたことだろう。
地味か派手かで言うならば、コノちゃんは地味だろう。
それでも彼女はキュートな人だと、少なくとも俺は思う。どうしよう。
①わかってくれ ②わからせる ③わからなくても
-ここも選ぶのは③となりますー
こんな俺の考えもコノちゃんには失礼なことなのかもしれないけれど、勝手なことながら、彼女の魅力は俺にさえわかっていれば良いなんてことを思ってしまっているところもあった。
どうせちやほやされることに慣れた神様に彼女の魅力はわからない。
そしてわかって貰おうとも俺は思わなかった。
「ね~、今日、怒ってる~? そんなに不機嫌そうにされたって、知ってると思うけど、ワタシは察するのなんて苦手だよ~」
「察するとか、そういう問題じゃないでしょ」
「なんで怒ってるの! ワタシの何が悪いって言うの! もう、ワタシはキミのそういうとこがイヤ!!」
どうして俺が怒られたんだろう。
怒りで神様に叫ばれてしまって、俺は何を言う気もなくなった。
理不尽な怒りをぶつけられているというのに、意図的ではないぶりっ子気質の彼女だからか、可愛いと思ってしまっているところがあって悔しかった。
作ったような声は愛らしくて、甘えたような色が拭えなくて、叫んでも変わらないところを聞くとそれは地声に違いないのだろうが、迫力というのは自然となくなっていた。
だからどうしたって彼女を可愛いと思ってしまうのだ。
天沢さんのように、急激に冷めるようなことがないから。どうしよう。
①彼女を怒る ②自分を怒る ③宥める
ーここは①を選びましょうかー
本心から言っているであろうことが神様は怖い。
「話を聞いてください! まず、なぜそうしてここにいない人の悪口を言うの!」
俺の叫び声に驚いたようで、ビクッと肩を上げて止まるけれども、すぐに戻って神様は叫び返してくる。
「何それ! 陰口を禁止したら、ワタシの噂なんてなくなっちゃうよ? それくらいのこと気にするなんて、信じらんない。自分だけ良い人ぶって馬鹿じゃないの~っ! それに、ワタシは事実を言っただけで、悪口を言ってるつもりはなかったんだけど!」
開き直って堂々とされては、押し切られてしまいそうになる。




