留
お誕生日パーティをやってみたい、か。
彼女くらいの人ならば、誕生日なんて飽きるほど祝ってもらっているのではないかと思うのだけれど、それとはまた違うのだろう。
そんな理由を言われてしまっては断りづらいではないか。
しかしそもそも俺は祭ちゃんの誕生日を知らない。どうしよう。
①日付による ②大賛成 ③着いていけない
-ここは③になりましょうかー
急展開すぎて着いていけないのだけれど、つまりどういうことなのだろう。
とりあえず、祭ちゃんの誕生日パーティを開催したいから、そのために参加者として俺が誘われたということで大丈夫だよね?
俺が? 神様と祭ちゃんと?
「え、えっと、は?」
「はじゃないよ、お誕生日パーティをしよって言ってるの! ワタシともマツリちゃんとも友だちになってくれるって話なんでしょ~? だったら、ワタシたちでパーティをしようっていうのに、キミが来ない理由はないじゃん」
聞き返した俺に、神様は驚異の理論だった。
俺の都合とかは全く考えてはもらえないのだろうか。
友だちが少ないのは俺だってそうだから、偉そうなことを言えた口ではないのだけれども、彼女は友だちというのをどこか勘違いしているのではないだろうか。
来ない理由はないとは何か。
断る理由は今のところないにしても、来ない理由はあるかもしれないじゃないか。どうしよう。
①断る ②喜ぶ ③説明する
-ここも③を選ぶことになりますー
勝手を当然と心から信じてしまっている彼女は、俺に指摘されて不愉快になることはあるけれど、本当に怒るようなことはない。
いつものこととはいえ、これはいくらなんでも押し付けがひどい。
「まず、いつなのさ」
いつだったとしても、俺に予定などないのだから同じだとは思いながらも尋ねる。
「普通に考えて当日にやりたいから、八月の八日になるね~。マツリちゃんの予定は知んないけど、たぶん、ワタシたちでお願いしたら開けてくれるでしょ~。部活とかがあっても、お誕生日の日くらい休ませてくれるに決まってるでしょ?」
休ませてくれるに決まっているとは、彼女は部活動をなんだと思っているのだろう。
俺だって熱血運動部じゃないし、謎の義務感を持って部活に通うような人ではないけれど、祭ちゃんは完全なる運動部だ。
いくらなんでも勝手が過ぎないか?
俺どころか、祭ちゃんの予定も知らないという。
「最初に祭ちゃんの予定がどうなっているか確認するべきだ。出来ることなら当日が一番だろうけれど、誕生日当日に拘ることでもないんじゃないかな」
まだ続けるつもりだったのだが、神様はこれ以上聞くつもりはなかったようだ。
「じゃあつまり、キミは問題なしってことだね~。わかった! 助言に従い、マツリちゃんにも一応予定を聞いてみようかなって思うね~」
どこをどう聞いていたら、そんな結論に辿り着けたのだろう。どうしよう。
①呆れる ②諦める ③もう少し頑張る
-ここは①となりましょうー
もうこうなったら呆れる外なかった。
「……はぁ。うん、まあ、とりあえずそうして。運動部なこともあって祭ちゃんは忙しいだろうし、普通の日だったら、普通に部活があるだろうから。わざわざ強引に休ませるようなことはしないようにね」
これだけ神様が友だちを勘違いしているとなると、祭ちゃんもまたそうなのかもしれない。
そうだとすると、友だちの誘いだからと断れず、嫌々ながらも嬉しい顔をして部活を休むことになってしまうかもしれない。
彼女の部活がどういうシステムで、どれほどの厳しさなのか、それ以前に彼女が何部なのかも俺は知らない。
けれど運動部だと、文化部での休むのとはノリが違うのだろう?
「ワタシだって運動部なんだけど~? 忙しい理由があってもファンに付き纏われるだけっていうワタシはなんなのさ」
なんなのさと言われても困る。
神様が運動部というのも初耳だ。
「ね~え~、ワタシが間違ってるって言いたいの~?」
「間違っているとか、そういうことじゃ……」
「あっそ、別にどっちだって構わないんだけどね~」
さっきまであれだけ楽しげに笑っていたというのに、突然つまらなそうな表情で吐き捨てられた。どうしよう。
①何部なの? ②間違ってるとかはないよ
-ここも①を選ぶことになりますー
このままの勢いで話を進めてしまったら、神様の表情は更なる退屈に染まっていくだろうことが容易に想像出来た。
「何部なの?」
わざと明るい顔をして、関係のなさそうなそんな質問をして、一瞬でも紛らわすことで限界だった。
「ワタシのこと? マツリちゃんのこと? んー、ま、ワタシのことだよね。えっとワタシはね、夏には活動がほとんどないんだけど、冬休みにはしっかり活動してる、スキー部なんだ~」
運動部なのに部活をやっている気配がない理由がすぐにわかった。
サボっているわけではなくて、スキー部の夏休みならば本当に部活動を行っていないのだろう。
まだ今年の冬休みは来ていないのだから、こう言っているということは、彼女は去年もスキー部だったということだろうか。
この白い肌でテニス部とか言われても戸惑うものだから、運動部としては、スキー部というのはまだ納得が出来る方だろう。
神様じゃあ、雪にすっかり馴染んでしまいそうに思える。
当然に自分の話をしているだろうと判断した彼女の言葉にも、何を思うこともなくなるくらいだった。




