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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
天沢美海 中編
179/223

 腕を解いたけれど、天沢さんは離れない。

 傍には彼女の香りが充満しているままであった。彼女の髪が俺の首元を擽る。

 意識したらいけないとわかっていても、意識しないでいられるはずはなかった。

 汗さえも芳しく感じられる。どうしよう。


 ①抱き締め直す ②離れる ③呆然とする


 -ここで選べるのはさすがに③だけですー


 あまりに近い距離に、動けなかった。

「知ってます。いろいろな美少女を連れ歩いては泣かせている、浮気男の遊びだって私知ってます。でも、こんなことされたら……恋しちゃいますよ」

 ひらりと一歩後ろに下がって、彼女は柔らかく微笑んだ。

「ふふっ、恋しやすい乙女ではありますが、出会って間もない現状で、恋するほどは馬鹿じゃありませんし軽くもありませんよ。残念ながらまだまだです、まだね」

 天沢さんが言っていることが、どういうことなのかは理解が出来ていなかった、そこまで頭が働かなかった。

 手を伸ばしていたのは俺だけれど、勢いに任せてしまっただけで、本当はそんな度胸も強さも持ち合わせていない。

「遊んでいるのはどちらですか。そういう冗談、止めてください」

 沈黙の中で俺が放った言葉はそんなものであった。

「バレちゃいましたか。本気のところもあったのですけれど、うーん、今のところは半々でしょう。たぶん、二人ともお互いにそうなんです」

 益々彼女の言っていることがわからなくて、尚更気になった。どうしよう。


 ①訊く ②聞く ③話を変える


 -残念ながら③を選ぶことになりますよー


 もっと知りたくなると同時に、さっきみたいになるのが怖くて、不意にこの話題から逃げ出したくて堪らなくなった。

 この話から逃げずにいて、この空間から逃げ出したくなってしまったら元も子もない。

 そういう、マイナスの方向に向かった俺らしい理論のためだ。

「なんか、よくわからなくなってきてしまいましたね。そんなことより、ゲームの話しましょうよ。いつから私たち、つまらない恋愛寄りのリアルの話なんてしていました? そんなの、何よりもくだらない話ですのに……」

 話題を代えようとすると、その前に天沢さんがそうした。

「ゲーム内での恋愛はあんなに楽しいのに、不思議なものですよね。私、ゲームの中でゲームのキャラクターと結婚して、ゲームの世界で生きていたいです。どんなクソゲーでも、それなら幸せになれる気がします」

 夢見心地に彼女は言い出す。どうしよう。


 ①肯定 ②否定 ③引く


 -ここは②を選びましょうー


 ゲームの中には入れたら、それは素晴らしいことだと思うけれど、どんなルートでもハッピーというわけにはいかない。

 さすがに俺はハッピーエンド以外をあえて望みはしないからな……。

 ゲームは好きだ。天沢さんと変わらないほど、ゲームへの愛はある。

 だけど俺と彼女では、ゲームの在り方が違うんだろう。

「クソゲーは嫌ですよ」

「えー、それはそれで素敵なところもあるじゃないですか。バグが多いとか、一つ選択肢を間違えると信じられないバッドエンドが待ち受けているとか、面白いと思うんですけど」

「見ている分には面白いかもしれませんが、参加者としては理不尽と絶望しか感じないでしょうよ」

 俺の言葉を聞いて、なんだか天沢さんは考え込んでいるようだった。

「ああ、その説もありますね。ゲームの中でシステムエラーを体験するとか、バグに遭遇するとか、面白くて仕方がないと思いますけれど。どうしようもない衝撃バッドエンドは、言われてみれば、体験はしたいものではありませんね」

 ゲームの中にいたら、ゲームは世界。

 つまり世界がエラーやバグを起こしているという状態、確かに面白そうというか、気になりはするかもしれない。

 その発想が既に天沢さんだよね。どうしよう。


 ①もしも ②いつか ③真実


 -ここは①を選択しますー


 もしも。それは絶対にありえない夢を見せてくれる魔法の言葉だと思う。

「もしもゲームの中に入るなら、是非という作品があるのです。マジカル☆コードというのですが、知っていますか?」

 ゲームに通じていることが知れている彼女じゃなければ、ぜったにこうして話すことはないだろうけれど、個人的に名作だと思っている作品だ。

 あくまでも個人的には刺さった、名作だ。

「いえ、知りません。タイトルの雰囲気から考えると、魔法少女ものでしょうか」

 ドS系のキャラクターが好きなような話をしていたし、基本的には乙女ゲーが中心らしいから、知らなくても当然か。

 ただ、理解をしてもらえる自信はある。

「そうです。ですが、他の魔法少女ものとは決定的な違いがあります。なんてったって、主人公まで魔法少女に変身してしまうのですからね。正しくは魔法少女風コスプレ男というわけです」

 理解が出来ないといった顔や、気持ち悪いといった顔を、天沢さんは見せない。

 興味を持っているらしい表情をしてくれていた。

「魔法少女風コスプレ姿で戦う主人公と、その周りの可愛らしい魔法少女たちで繰り広げられる、切ないラブストーリーなんです。バッドエンドになるとグロだし悲しいしそれはそれで可愛いヤンデレだし、三拍子揃ったエンディングになってしまいますが、ハッピーエンドが本当に泣けるんです。ネタ枠として知っている人は追いようですが、そうではなくて実際にプレイしてみて、そのストーリー性に引き込まれて泣けるに決まっているんです。絶対に感動します!」

 熱弁を後悔しかけていたところで、彼女は可憐に笑ってくれた。

「そこまで言われるとやってみたくなりますね。買いたいところなのですが、もし可能でしたら、お借りしたいとも思います」

 雰囲気だけで金持ちでもなんでもない、親近感と言うわけではないが、嬉しいことに彼女は庶民的なところを見せてくれた。どうしよう。


 ①了承する ②お断りする ③困らせる


 -ここは普通に①で良いでしょうー


 自分のデータが入っているのを貸すのは、フィーリング推しキャラからプレイしてその順番に並べている俺としては、推しキャラを知られることになる。

 別にそれは構わないんだけど、ちょっと恥ずかしいみたいな。

 プレイ順で好みが割れるよな。

 正しいルートを全て拾っていく派だから、細かいところはバレなくて済むだろう。

 バレたらバレたで、最初から自分で薦めて話しているくらいなのだから、それもまた会話のネタと言うわけか。

 それに、天沢さんならばわかってくれるという信頼感もあるし。

「わかりました。俺が使った中古品で良ければ、いくらでもお貸ししましょう」

 ガッツポーズで天沢さんは全力の喜びを表現してくれた。

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