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暫く迷いはあったが、コノちゃんは俺とは違う。
「すみません、さっきの話は嘘だったんです。だけどすぐに嘘だって言わないで、ありえない話を信じようとしてくれたんですから、心も汚れていませんよ」
取り調べでも受けているかのようで、過剰なほどに追い詰められた表情をしているように見えたものだが、コノちゃんにとってはそれくらいの勇気を要することだったのだ。
けれど彼女は逃げるようなことはしなかったのだ。
誤魔化すようなことすらしようとしなかったのだ。
「あんなのだれが信じるのよ。信じるとしたら、そこのバカくらいじゃないの~?」
正直に謝ったコノちゃんに、神様は柔らかい笑顔で返した。
隣にいたので、俺からは雪乃さんの舌打ちが聞こえてしまっていた。どうしよう。
①雪乃さん ②神様 ③コノちゃん
-ここは②を選択することになりますー
謝り方が悪かったとは思わない。適当なことを言ったものだけれど、きちんとすぐに謝っているのだから、コノちゃんがしたことは十分にただの冗談だ。
責められるほどのことだとは思わない。
真っ正面から明らかに喧嘩を売られていて、素直な雪乃さんが態度に苛立ちを出してしまうのは、当然であり仕方のないことだろう。
葉月くんの話のときだとか、いろいろと何度か喧嘩を売っているような発言があったのに、むしろ雪乃さんは随分と心の広い方だと思えてならない。
どう考えても、この場合は、神様が悪いように俺には見えた。
一番悪いのは、結果として俺なんだろうけど、これに関しては神様に問題があるよな。
「雪乃さんは関係ないでしょ。どうしてそういうことを言うの」
自分で言ってから、学級委員長みたいになってしまったと少し笑えそうになる。
俺のことを見ている三人は驚きに満ちていて、そんなことを思っているのはどうやら俺だけなようだけであったが。
何をそんなに驚いているというのだろう。
「え、どうしたのです?」
俺が尋ねると、三人が同時に噴き出した。いつの間にそんなに仲良くなったのやら、最初から仕込まれているような気すらした。
まさかコノちゃんのことは俺が勝手に呼んだのだし、そんなはずはないんだけどさ。
「いやだって、アナタが発言するだなんて、いくらコノだって思わなかったよ。美少女に乗り換えて最近は構ってくれないけど、元祖アナタの隣の人であるコノですら、なんだから新人たちはもっとビックリでしょ」
こちらもまた刺のある言い方ながらコノちゃんが説明してくれる。どうしよう。
①反論 ②否定 ③納得
-ここは①を選ぶことになりますー
いろいろとツッコみたいところはあった。
「美少女に乗り換えたとかじゃないから。誤解を招くようなことを言わないの!」
「違ったの~? その地味子と一緒にいたのが、美少女二人と歩くようになったんだったら、だれだってそう思うよ~」
「自分で言うな!」
丸い目を更に丸くする神様は、冗談じゃなさそうだから怖い。
不思議なのは、同じことを雪乃さんが言ったとして、彼女の場合は絶対に本気で言っているのだろうけれど、雪乃さんだったら何も思わないということだ。
たぶん、相変わらずだなぁで終わるだろう。
「自分で言っても良いタイプの人だと思いますよ。それとも、アナタの目から見たら、これほどの美少女ですら美少女に思えないってこと?」
いつだって美少女の味方であるコノちゃんは、当然俺に味方してくれない。
「いや、そうじゃない。どう考えたって美少女なんだけど、自分で言うのは違うじゃん」
「ふ~ん、そう。じゃあ、可愛いって言われたときには、そんなことないですよぉ~、とでも言っておけば良いの~?」
神様に冷たく言われて、言われてみればそうだと思う。
どう見たって美少女なのに「そんなことないですよぉ~」と言うのは、かえって嫌味だろうしそれは違う。
確かにそうしたら、どうすればってなるな。
認めて自分でネタにしていくのが正解なのかもとも思う。どうしよう。
①謝る ②頷く ③困る
-ここで③になってしまうのですー
完全に論破されたのだから、謝るのが正しい選択なのだとも思う。
神様に言われて、そのとおりだって思ったのだから、大人しくそれを認めるべきだったろう。
なんで意地を張っちゃったのか。
反論だって出来ないというのに、何も言えなくなってしまった。
結局、神様ほど何も考えていないのに勝手に考えなしで批判して、コノちゃんほどしっかり謝ることもちゃんとものを言えるでもないで……。
困ってしまうばかりだった。
それで良いと思って、助けを求める気持ちでコノちゃんを呼んでしまったのだろう。そうすれば良いと思って!
自己満足の自己嫌悪でどうにでもなるとでも思っていたのだろう。
「困らせちゃったかな? 自分で言ったらナルシスト自慢野郎で、否定したら嫌味ナルシスト、じゃあどうしたら良いって言うの~? 美少女はどうしたら良いのって話」
助け舟かとも思ったのだが、まさか神様がそんなことしてくれるはずがない。
だけど他が俺を甘やかしてくれちゃってるのがおかしな話なんだよね。って思う今更のこと。
だって今年になって、恋愛の神様に好かれてるんじゃないかってくらい、俺が変われないままリア充に状況が変わっていったもんな。




