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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
夏休み 2と10と12編
172/223

 責められるべきことでは、あるんだろうな。

「蛙ぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ。なんだか忘れてぴょこぴょこりん。簡単じゃないの」

 呪文が随分と変わっている気がするが、ドヤ顔で雪乃さんは俺に言ってくる。

 なんだか忘れてって言っちゃってるのに、言い終わった頃には、途中を忘れていたことを忘れてしまっているんだろう。

 合ってはいないけれど、これなら正解を見ながら言えば、ちゃんと言えるんだろうとは思う。

 早口言葉は得意なんだろうな……。

 一生懸命頑張っているけれど、一向に言えないでいる神様を見ながら感じる。どうしよう。


 ①コノちゃん ②神様 ③雪乃さん


 -ここで選ぶべきは①でしょうー


 その適当な嘘を、雪乃さんは完全に信じてしまっている。

 神様はさすがにそんなことないだろうけれど、早口言葉の方が苦手なようで、意地になってしまっているようだ。

 今更言っても二人とも駄目だろう。

「コノちゃん、好い加減にしな」

 入り込みすぎて、コノちゃんまで話が通じなくなってしまっていそうだったが、そんなことでもなかったらしい。

 俺の注意に、反省したように、そして楽しそうに舌をぺろりと出す。

「まさか信じるとは思わなかったんだもの」

 悪戯っぽい彼女の笑みは、いつも彼女に申しわけなさそうな表情ばかりさせていることが、どれほどもったいないことかと思わせた。

 可愛かった。

 普段だって可愛いけれど、笑わせてあげられないことが惜しまれるくらい、彼女は可愛らしい笑顔だった。

 つい、見惚れてしまっていた。

「反省はしてるから、そんなに見ないでよ。まさか信じるとは思わなかったんだって、そう言ってるでしょ? コノなんかが、こんな美少女二人に対して、本当に……最低だよね……」

 可愛らしい笑顔だったのに、俺が見惚れていたのをどう勘違いしたのか、いつもの申しわけなさそうな表情へと戻っていった。

 それが悪いわけではないけれども、やはり笑みの可愛さを取り戻してほしかった。

 コノなんか、その考えを取り払いたい。そんなことは俺なんかには出来ないって思ってから、俺なんかという考えに気が付いて、尚更俺には無理だと思った。

 雪乃さんや神様のような人なら、コノちゃんも導いてくれるのかな。

 三人に仲良くなってほしい、増してそう思った。

 理由はどこまでも俺の自分本位なものだった。どうしよう。


 ①最低だな ②最低だよ


 -ここは②を選びますー


 最低だな、俺。

 だけど、だけどそれ以上に、俺は言わなければならないと思った。

「最低だよ」

 コノちゃんに向けて、そう。

 自分から最低だよねと言っておきながら、同意をした俺には驚いた様子である。

「どうして自分のことを下げるの。コノちゃんは可愛いのに、どうして気が付けないの? それと、自分で吐いた嘘は、ちゃんと自分で謝るんだよ」

「はい。でも、コノに隠れてアナタも嘘吐きだってこと、ちゃんとコノも見逃さなかったからね」

 眉尻を下げて、だけどはにかんで告げる彼女に、俺も頷いた。

 神様に対して嘘を吐いたのはコノちゃんだけれど、雪乃さんに対しては俺だ。

 完全に信じきっちゃってる彼女に嘘だって教えなくちゃな。

「嘘、なの? 本当だって言ってくれたのに、この私に嘘を吐いたの?」

 どう言おうものか考えていれば、どうやら俺とコノちゃんの話を聞いてしまっていたようで、不満そうな声に顔だった。

 不満そうだったのだ。

「この私に嘘を吐いたの? ねえ、答えなさいよ」

 氷の視線に中てられて、凍えるようだった。

 最初に見た雪乃さんはこんな感じだった。

「不思議だなって思ったけど、嘘だって言ってくれなかったら、たぶん私は信じたわ。だって嘘を吐くだなんて思わなかったのだもの。だって私、騙されたことなんて、人に嘘を吐かれたことも、私が嘘を吐いたこともないのだもの」

 前半は雪乃さんならありえるだろうが、後半はいくら雪乃さんでも嘘だろう。どうしよう。


 ①それが嘘でしょう? ②ごめんなさい


 -ここでなんと①を選ぶのですー


 素直な雪乃さんだから、過ぎてからも騙されていることに気付かないなんてことも、ありえないではないだろう。

 意図的に嘘を吐くようなことも、もしかしたらないのかもしれない。

 それだけれど、嘘を吐かれたことも、嘘を吐いたこともあるに決まっていた。

「それが嘘でしょう?」

 俺の言葉を雪乃さんは鼻で笑った。

「ふん、そうかもね。でもさっきのことを信じたのは本当よ。賢い私だけれど、迂闊にも騙されてしまったわ」

「それも嘘ですね」

「あら、結構な言いざまじゃないの。そんなに言うなんて思っていなかったわ」

 髪を掻き上げ苦笑いの雪乃さんを見ていると、本当に彼女が賢いのじゃないかという気がしてくる。

 いかに彼女が馬鹿なのか、失礼ながらわかっている。

 それなのに何度も彼女の賢さを、その自称を信じてしまいそうになるのは、時折見せる大人びた彼女の表情が、あまりにも美しいからなのだろう。

 冷たく美しい、氷の笑みだった。

「コノちゃんも早く言わないと。彼女、頑張っちゃってるよ」

 雪乃さんが聞いていただけで、俺からは何も言い出せなかったというのに、自分の手柄だったかのように躊躇っているコノちゃんに言う。

 この場を荒らしているのは、間違えなく俺だった。どうしよう。


 ①待つ ②出る ③協力する


 ーここも①を選ぶとしましょうかー


 あとは大人しく、コノちゃんを待っていようと思った。

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