表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
夏休み 2と10と12編
171/223

 心が清らかであるということを、まるで厭むかのようであった。

 従順さを求める彼女のことを考えてみれば、それはありえない話でもない。どうしよう。


 ①フォロー ②取り返す ③取り繕う


 -尚も①を選びますー


 傷付いていないふりではなくて、それで傷付く理由さえわからないといった様である。

 だったら余計なことを言わない方が良いのだとしても、自分でそれだけ失礼なことを言っておきながら、そのままというのもこちらが気持ち悪い。

 そうなると自分のために神様を巻き込んでいるというふうにもなってしまうおが、そうなったとしても、俺はそちらの方がまだましだと判断したのだ。

 今度こそ失敗しないようフォローしなければならない。

「心の美しさで判断するとすれば、まあ、最下位に違いないでしょうね。外見の美しさならば、かなり上位になれることでしょうが」

 口を開いた俺の後ろから、冷たく告げたのはコノちゃんだ。

 先程のように隠れるではなく、真っ正面からコノちゃんは言ったのだ。

 それは彼女らしくない行為だった。自意識過剰なんかじゃなくて、きっとコノちゃんは俺のために無理をして頑張ってくれているのだろうと思った。

 キュッと可愛らしく俺の手を握ってくれていて、その手が震えているところが、俺に申しわけなさを募らせた。彼女の強さを示した。

 頼ってばかりの俺とは違う。

 頼られ慣れているわけではないだろうに、彼女は無理してまで頑張ってくれているのだ。

「ありがとう」

 囁いたお礼の言葉には、にっこりとコノちゃんは笑顔を向けてくれた。

「しかし心は簡単に洗えるものですよ。汚れてしまった心も、簡単に綺麗になるのです」

 手の他に彼女は震えを見せなかった。どうしよう。


 ①協力する ②見ている ③止める


 -ここは②を選びましょうかー


 邪魔はしてしまわないで、必要に応じては動くにしても、極力何もしないでいようと思った。

 最早、怪しい宗教団体に近付いているように聞こえるコノちゃんに、俺がしてあげられることといえば、手を握り返すことくらいだ。

 してもらっていることと、返せていることとが、あまりに不釣り合いだった。

「簡単に? 綺麗に? ワタシでも~?」

「ええ、そうです。コノの手に掛かれば、どんな人だって綺麗な心を取り戻せるのです。生まれたときにはだれでも汚れを知らない無垢な心を持っているはずです。それを思い出せるのは、そう、この言葉を唱えて神に祈る人だけでしょう。蛙ぴょこぴょこ三ぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこ六ぴょこぴょこ。三度繰り返したらば、ほらもう心は真っ新です」

 途中でコノちゃん自身も思ったのか、わざと怪しい宗教へと寄せているようであった。

 吹っ切れたのか、俺の手を解いて、楽しそうな笑顔で洗脳する。

「そんなものなの?」

 笑って流すものだろうと思ったのに、まさか信じているとでもいうのか、神様はそう訊き返したのであった。

 頷いたコノちゃん、唱え出す神様。

「かえるぽこぴょこみちょこひょこ」

「噛んではいけません。さあ!」

「きゃえる」

「そこは噛むところじゃありません、早過ぎぃ! 蛙も言えないのですか? これは重症のようですね」

 どうやらシンプルに早口言葉が苦手なようで、唱えられないでいる神様をスパルタコノちゃんが指導していた。

 二人とも楽しそうで、見ている方としても楽しかった。どうしよう。


 ①加わる ②見ている ③止める


 -ここでも②を選んでいますー


 なんだか神様はさすがに噛み過ぎだと思うけれど、一回だって噛まないコノちゃんもすごい。

 自分で言えるのを選んではいるだろうが、何度も何度も言っていたら、一度くらいは噛んだって不思議でないものを。

 早口言葉トレーニングを見ていると、遂にあの人が動き出した。

「ねえ、それって本当なの?」

 この状況だったとはいえ、少しくらいは信じていそうな神様にだって驚きなのに、その二人の様子を美しい微笑で眺めていた雪乃さんが、俺にそんなことを尋ねたのだ。

 どこか神様を超えるほどの本気さを感じる。

「私の心は汚れていないつもりだわ。そうなのだけど、ほんのちょっとだって汚れてしまっているとしたら、幼い妹弟に悪いわよね。私も試してみようかしら」

 これを信じられる時点で、あなたの心はほんのちょっとだって汚れていませんよ、そう言いたかった。

 だけどそれでは、せっかく信じているのに、嘘だと言っていることになってしまう。

 悪いとは思いながらも、信じているのなら雪乃さんも参加しての様子を、見てみたい気持ちが強くあった。

 だって、面白そうだから。

 騙すようなことを言うのは気が引ける。どうしよう。


 ①本当ですよ ②嘘ですよ


 -①を選んでしまいますー


 面白そうだと思う気持ちが、悪いと思う気持ちに勝ってしまった。

「本当ですよ」

 なぜだか雪乃さんが俺に絶対的とも呼べるほどの信頼を寄せてくれていることを、俺は知っていたはずだった。

 だから俺に限って言っていけないことだった。

 いくら雪乃さんでも疑いがないわけではなかったろうに、これでは、雪乃さんの中で完全な真実として登録されてしまう。

 それも面白いというのは、他人事だからと責められるべきことか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ