仁
照れた様子でコノちゃんは俯く。どうしよう。
①同調 ②賛成 ③黙る
-ここも③となりますー
二人がどんな会話をするのか、ゲームやアニメが好きな俺としてか、自分は入らず見ていたくてならなかった。
やはり美少女は見ているだけで幸せと言う気持ちが大きくあってしまうのだろう。
「綺麗な顔をしている人であり、近付きがたい印象を与える高嶺の花なのに親しみやすくて、コノも雪乃さんのこと、とっても大好きですよ」
言ってから恥ずかしくなったようで、真っ赤な顔を手で覆ってしまった。
指に隠れない、髪を掛けた耳が赤く染まっているのが、愛らしい。
「何をイチャイチャしてるのさ~。こうなってくると気持ち悪いよ」
完全に不機嫌で、猫を被ろうとするところもなかった。
神様は元々の顔が天使のように可愛らしいのだし、大きな目をしているから睨んでも怖いだとかではないのだが、笑顔のイメージのせいか、笑顔でないというだけで怖さを感じないでもなかった。
男に色目を使っているではない。
女の子に対してでも同じように接するし、それどころか、彼女はちやほやされることよりも同性の友だちを望んでいるようなところがあるようだった。
そうなのだが、これだとただの同性に嫌われるぶりっ子美少女のようになってしまっている。
俺に関しては好かれたくもない男部門だろう。
「き、気持ち悪いですか……。そうですよね。生意気でしたし、気持ち悪かったですよね、ごめんなさい」
ぶつぶつと呟いてしまっているコノちゃんの声は、別に神様に向けられた言葉というわけではなさそうだった。
こうして謝るコノちゃんの姿を久しぶりに見たような気がした。どうしよう。
①怒る ②慰める ③宥める
-ここはなんと①を選びますー
不思議なもので、俺はいくら言われたって構わなかったのだが、コノちゃんのことを言われると腹が立ってしまった。
こんなことなら、コノちゃんを呼ぶのは俺の心持として間違っていたかもしれない。
ネガティブなコノちゃんに、何を言うか。
自己評価は低いけれど、ずっとずっと素敵で魅力的なコノちゃんに対して、どうしてそんなことを言えるのだろうか。
雪乃さんの愛の告白による喜びは残っていそうだが、それなりに神様の言葉に傷付き凹んでいるようであった。
二人とも、言葉以上の威力を持って言葉を発する人であると感じられた。
「あの! 彼女は繊細な人なんです! 本当にもう少しくらい他人のことを考えられないのですか」
怒鳴りとすら言えるほどに強くなった語調の俺に、驚いたように神様はこちらを見ていた。
そして彼女以上に、コノちゃんは驚いているようだった。
見ている雪乃さんだけは、驚きなど少しも感じられない、冷静で冷たい表情を浮かべていた。
その表情はどこへ向いているでもなかった。
「思ったまんま言っちゃいけないの? どうして? どうしてワタシにだけそんな意地悪を言うの~?」
どうしてとはどういうわけなのだろう。
どうして彼女はそのようなことを言えるのか。どうしよう。
①雪乃さん ②コノちゃん ③葉月くん
ーここは②を選びましょうかー
せっかく助けに来てくれているのだ。
凹んでいるコノちゃんに俺は近付く。
「雪乃さんみたいなタイプは、大変は大変だし、言葉が通じないには違いないんだけど、そういう問題じゃないんだよ。だからコノちゃんを呼んだ。だれに対してもこういう姿勢だから、彼女の言葉に気にする必要はないよ」
視線を彷徨わせて、暫く考えるような素振りを見せてから、コノちゃんは大きく笑った。
「そういうことね。うんうん、理解だよ」
あのコノちゃんが理解だよと笑うくらいなのだから、それはどこまでだとかではなくて、俺がほとんど説明していないところまでを理解したものと思って大丈夫なのだろう。
もう凹んでいる様子はなくなった。
雪乃さんと神様に慣れてしまったのか、頼もしくコノちゃんが笑ってくれることが何よりもありがたいことかのように思えた。
以心伝心のコノちゃんが隣にいてくれるとはいえ、さて、どうしたものか。
遊ぶ予定がこんなことになってしまっているのだから、不機嫌になっているかとも考えたし、不機嫌になっても仕方がないとも思うくらいなのだが、雪乃さんはそんな人ではない。
どこへも向かない冷たい表情ではある雪乃さんではあるけれど、苛立っているだとかではないらしい。
または、葉月くんが起きてしまわないようにするので精一杯だとかだろうか。
俺たちが騒いでしまっているから、そこを気に掛けているというのもありえる。どうしよう。
①黙る ②協力を求める ③ありがとう
-是非ここでは③を選ぶようにしてくださいー
雪乃さんの表情の理由や意味はさっぱりわからないし、彼女のことだと、理由も意味もないのかもしれないのだから、それすらもわからないのだけれど、とりあえずはそこは気にしないでいることにした。
それよりも、俺は神様のことが気になってならなかった。
学校で完璧な美少女として君臨する松尾クリスのことを、もちろん、同じクラスにいて知らないはずがない。
だからこそ、お節介を働きたかったのだろう。




