川
何を表す笑顔だか俺にはわからなかった。
「どうして彼女に気を遣う必要があったの? 変なの~」
衝撃の言葉を受けて、それでもまさかわからなかった。
本当に神様がわかっていないということが、俺にはわからなかった。どうしよう。
①説教 ②説得 ③諦める
ーなんとここで①を選びますー
冗談めかしく笑う彼女に、今この場に祭ちゃんがいてくれたらと強く思った。
下手したら俺より空気の読めないのではないかと思う神様は、物怖じしないというか、物怖じする必要がないものだから、コミュニケーション能力があるだけなのではないだろうか。
尊敬しているし、神様は努力家で立派な人だと思うが、少しばかり勝手が過ぎるような気がする。
もちろん、愛らしい彼女にとっては、それが当然の構えであったのだろう。
男なんて貢いでくれる道具だと思っているのだろう。
可愛いのは事実なのだから、勝手にそうしてくれている分には良いと思うのだが、その関係性に慣れていない俺にとっては、注意するべきだなんて思ってしまえるのだった。
彼女の方が俺よりもずっと信頼されているし、ずっとずっと上手く人間関係を築いているのだから、俺が言えることではないのかもしれない。
だけど、言ってしまいたかった。
「明らかに葉月くんが泣き出したのは神様のせいでしょ。静かにって言われてたのに、静かの意味がわかってなかったの?」
そういえば、家に入る時点から、驚かせてくるつもりだとか、素っ頓狂な推測をしていたものだ。
自分が一番でありたいのではなく、自分が一番であるべきだと心から思っているのか。
今日はいつもに増して、彼女のそういうところが前面に出ているようだった。どうしよう。
①指摘する ②メモする ③保留する
-ここでも①を選びますよー
この機会だから、どうせなら全て言ってしまおう。
思い出しながら、たった一時間も経たないうちの神様の行動に思ったところを、正直に全て伝えてしまおう。
人付き合いに不慣れな俺には、これ以上は思ったことを溜め込んでおけないようだった。
「あのときは思わなかったけど、よく考えれば、ボロアパートで大声も軽く非常識じゃね? 事前に時間を伝えてくれないで、俺が準備を済ませてなかったら、どうするつもりだったのかもわからないし」
「な、何さ。急になんなの。ワタシが悪いって言うのっ! 信じらんない! なんでワタシばっかり悪いのよ!」
「だから、大声はいけないって言ってるじゃん」
「またワタシのせいなの? ありえな~い。ほんっと~に、信じらんないんだけど! ワタシのどこが悪いって言いたいわけ?」
予想外なことに、神様は怒り出してしまった。
悲しむふり、反省するふりくらいは見せてくれるかと思ったのだが、まさか怒るとは思っていなかった。
それに可愛い怒り方ではなくて、実際に怒っている様子だし。どうしよう。
①宥める ②言い合い ③ヘルプ
-ここは③を選ぶようですねー
宥めに入ってしまうのは、それで違う気がした。
怒って見せればそれで済む話なのだと神様に思わせてしまうことだろう。彼女がどういった手段を選ぶのか、評論家でもなんでもない俺にわかることではないが、同じ理由で涙にも負けないようにした方が良いだろう。
泣かせてしまって、正気でいられる俺とも思えない。
だが、お節介だって、俺は神様に他人のことを見るようになってほしかった。
困ったら怒れば良いだとか、都合が悪くなれば泣けば良いだとか、そうやって思ってほしくなかった。
しかし言い合いをするのもまた違うだろう。
第一、俺まで一緒になって騒いでいては、雪乃さんに迷惑である。
困った俺は、せめて味方がだれかいてくれたらと、だれかに助けを求めることにした。
それが出来る相手など、俺にはいないだろう。
自分の弱さのために巻き込めるほど親しい相手なんて、頼れる相手なんて、そうなのだから、ここには「変わる」俺の想いも入っていたことだろう。
どうにかして、神様にも話を聞かせられそうな人。
彼女にお節介をするのだから、俺だってそれなりに今までの自分とは違うことをしなければ、説得力など欠片もなくなるに決まっている。
だれを呼ぶとしようか。どうしよう。
①堂本木葉 ②花空祭 ③赤羽琴音 ③天沢美海
-ここは①を選ぶことになりますー
予定なんかわからないのだから、突然助けを求めて、来てくれるとは思えない。そもそも、雪乃さんに許可を取らなければならない。
二重で迷惑な話となろう。
それでも助けを呼びたかった。
俺の言葉は通じないようだから、神様には他にだれかが必要なようだし。
家の場所がわかっている、または連絡が取れるとかでなければ、呼ぶことなんて出来ないだろう。
留守であるリスクを考えると、直接家まで行くのはないよな……。
そもそも琴音さんは忙しいようだし、天沢さんは予定が空いていないことを確認済みなのだから、留守の可能性は極めて高い。
祭ちゃんは運動部だから、きっと夏休みも部活だろう。
そうすると、やっぱりコノちゃんになるのかな。
彼女だったら来たことがあるから、雪乃さんの家だってわかるだろうし、雪乃さんだってコノちゃんのことなら知っているし。
普通に考えたらそうだよね。
優しい彼女なら、暇じゃなかったとしても、喜んできてくれちゃいそうで、迷惑でも断らないし察せないからそこは不安だが。




